5 / 5
第5話
フラワーアレンジメントリリーからの注文は、定期的に続けることにした。
チラシには載っていないが、茅洋が、担当になってくれることになった。
一週間に一度、取り換えにやってくる契約だが、茅洋は、毎日のように花をメンテしにきてくれた。
茅洋の仕事は、フラワーアレンジメントリリーでは、片付け、掃除を任されている。フラワーショップフカザワでは、夜の店番をやっている。
生い立ちを知ったからというわけではないが、よく働いて偉いなというひいき目で見てしまうことはある。
それに、茅洋からただよう花の香は、亮の気持ちを落ち着かせてくれる。
今日は、カウンターに飾る花を持ってきていた。
頼んでいないのだが、パスケースを見つけてくれたお礼だと言った。
淡いピンクのトルコキキョウと薄紫色のスターチスを組ませたミニブーケだ。
花を手渡されるのは、嬉しいものだ。しかも、茅洋は、ここ最近身なりをきちんとしている。
髪は顔がみえるよう整えられている。たまにボサボサの時もあるが、以前ほどじゃない。
服装は、無地のシャツに丈の合ったチノパンを履いている。ファストファッションだが、もとが良いせいか、身長が高いからか、それなりに良く見える。
もさっとした印象なのは、猫背だからだろうか。
ブーケを飾るようの花瓶も持参してくれた。なかなか気が利く。
「あんたのパスケースが、コンビニにあるって俺が言った時、疑いもしなかったけど、なんで?」
ずっと不思議に思っていたことを聞いてみる。
「……花岡さんなら見つけてくれる……と思ったから……かな……」
なんとも歯切れ悪い答えだ。
俺が占いをしていることは知っているみたいだけど、だからって、あの時のあの一瞬で、コンビニと言った俺を少しは疑えよ。
昔から、失せ物を見つけるのは得意だった。なんとなくわかってしまう。
あの時は、茅洋がコンビニで落としたところがはっきりと見えた。
こんなことは初めてで、自分でもゾッとしたくらいだ。
霊感があるわけでもないし、エスパーとかそういうものでもない。
ただの勘だ。ここにあるかもっていうものが、絵や言葉で脳裏に浮かぶ。
だから、隠されたというものも見つけることができる。でもそれは物限定で、ペットや人を探して欲しいと言われても見つけることは出来ない。
出来る人が、本当の超能力者なんだと思う。俺は、そうではない。
カウンターに座った茅洋へウーロン茶を出す。
店が開く前の少しの時間、花をメンテしてもらって、茶を飲んで話すのが日課になってきていた。
「そのパスケースって、そんなに大事なものだったのかよ」
コンビニで返されたパスケースの中身は、雑誌の切り抜きが入っていたのを見た。
「はい。すごく会いたい人なんです」
そう言って、パスケースを開いて、その切り抜きを広げる。
――韓国新鋭フラワーアーティスト イ・シワン――と見出しの横に花束を持った品良い笑顔の男が写っている。
それを見つめる茅洋は、その人に想いを寄せているのではないかと思うような顔をする。
じっと、その切り抜きを見つめる顔に、質問をする。
「その人、有名人みたいだし、会おうと思えば、会えるだろう。お前だってフローリストなんだろう?」
「そんな、会えません……神様みたいな人です。俺がどんなに頑張っても……追いつけない……」
チラシから顔を上げて、かぶりをふる。
「よくわからねえけど、いろいろ資格の種類があるんだろう? それをとるために頑張っているって、深澤さん話してたじゃん。それが取れれば、少し近づけるんじゃねえの?」
「……その可能性は……少し上がるかもしれないけど……俺に取れるかな……」
茅洋の大きな目が揺れる。その表情は、哀愁があってドキリとする。
俺と同じ三十歳なのに、時々子供のような笑顔をしたり、今みたいな大人っぽい顔をする。
巻き込まれたくないと思っているのに、自ら手を伸ばしてしまう。
「俺が合わせてやろうか? 俺と付き合えば、会えるかもよ」
ああ、とんでもないことを自分から言っているよ俺。
亮の言葉に、茅洋は、じっとこちらを見ている。
なんていう返事がくるだろうか、考えてみれば、きもちの悪いことを言っている自覚はある。
でも、ここで俺が目を逸らしたり誤魔化せば、もっと怪しい人間になるではないか……そんなことを思っていたら、茅洋が顔を赤くして目を泳がせはじめた。
「つ、つ、付き合うって……こ、恋人ですか……? どういうことですか?」
おいおいおい、どういう反応だよ。少なからず好意を持たれているとは思っていたけど、照れてるのか? え? でも、お前が好きなのは、イ・シワンじゃねえの?
「友達でも、俺と付き合えば、良い運気がめぐってくるかもしれない」
更に怪しいことを言ってみるが、茅洋は顔色ひとつ変えずに、俺の言葉を信じている。
「と、友達……はい、友達で。今後ともよろしくお願いいたします」
手を差し出し、頭を下げる茅洋。
今後ともって……、願いが叶えば、別れましょ。とか、音信普通になるのが、常なのに。
いや、でも、俺から言い出したのは初めてだ。こういう場合は、どうなるんだろうな。
亮は、その手をとり、「こちらこそ」と言った。
ともだちにシェアしよう!

