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第5話

 フラワーアレンジメントリリーからの注文は、定期的に続けることにした。  チラシには載っていないが、茅洋が、担当になってくれることになった。  一週間に一度、取り換えにやってくる契約だが、茅洋は、毎日のように花をメンテしにきてくれた。  茅洋の仕事は、フラワーアレンジメントリリーでは、片付け、掃除を任されている。フラワーショップフカザワでは、夜の店番をやっている。  生い立ちを知ったからというわけではないが、よく働いて偉いなというひいき目で見てしまうことはある。  それに、茅洋からただよう花の香は、亮の気持ちを落ち着かせてくれる。  今日は、カウンターに飾る花を持ってきていた。  頼んでいないのだが、パスケースを見つけてくれたお礼だと言った。  淡いピンクのトルコキキョウと薄紫色のスターチスを組ませたミニブーケだ。  花を手渡されるのは、嬉しいものだ。しかも、茅洋は、ここ最近身なりをきちんとしている。  髪は顔がみえるよう整えられている。たまにボサボサの時もあるが、以前ほどじゃない。  服装は、無地のシャツに丈の合ったチノパンを履いている。ファストファッションだが、もとが良いせいか、身長が高いからか、それなりに良く見える。  もさっとした印象なのは、猫背だからだろうか。  ブーケを飾るようの花瓶も持参してくれた。なかなか気が利く。 「あんたのパスケースが、コンビニにあるって俺が言った時、疑いもしなかったけど、なんで?」  ずっと不思議に思っていたことを聞いてみる。 「……花岡さんなら見つけてくれる……と思ったから……かな……」  なんとも歯切れ悪い答えだ。  俺が占いをしていることは知っているみたいだけど、だからって、あの時のあの一瞬で、コンビニと言った俺を少しは疑えよ。  昔から、失せ物を見つけるのは得意だった。なんとなくわかってしまう。  あの時は、茅洋がコンビニで落としたところがはっきりと見えた。  こんなことは初めてで、自分でもゾッとしたくらいだ。  霊感があるわけでもないし、エスパーとかそういうものでもない。  ただの勘だ。ここにあるかもっていうものが、絵や言葉で脳裏に浮かぶ。  だから、隠されたというものも見つけることができる。でもそれは物限定で、ペットや人を探して欲しいと言われても見つけることは出来ない。  出来る人が、本当の超能力者なんだと思う。俺は、そうではない。  カウンターに座った茅洋へウーロン茶を出す。  店が開く前の少しの時間、花をメンテしてもらって、茶を飲んで話すのが日課になってきていた。 「そのパスケースって、そんなに大事なものだったのかよ」  コンビニで返されたパスケースの中身は、雑誌の切り抜きが入っていたのを見た。 「はい。すごく会いたい人なんです」  そう言って、パスケースを開いて、その切り抜きを広げる。  ――韓国新鋭フラワーアーティスト イ・シワン――と見出しの横に花束を持った品良い笑顔の男が写っている。  それを見つめる茅洋は、その人に想いを寄せているのではないかと思うような顔をする。  じっと、その切り抜きを見つめる顔に、質問をする。 「その人、有名人みたいだし、会おうと思えば、会えるだろう。お前だってフローリストなんだろう?」 「そんな、会えません……神様みたいな人です。俺がどんなに頑張っても……追いつけない……」  チラシから顔を上げて、かぶりをふる。 「よくわからねえけど、いろいろ資格の種類があるんだろう? それをとるために頑張っているって、深澤さん話してたじゃん。それが取れれば、少し近づけるんじゃねえの?」 「……その可能性は……少し上がるかもしれないけど……俺に取れるかな……」  茅洋の大きな目が揺れる。その表情は、哀愁があってドキリとする。  俺と同じ三十歳なのに、時々子供のような笑顔をしたり、今みたいな大人っぽい顔をする。  巻き込まれたくないと思っているのに、自ら手を伸ばしてしまう。 「俺が合わせてやろうか? 俺と付き合えば、会えるかもよ」  ああ、とんでもないことを自分から言っているよ俺。  亮の言葉に、茅洋は、じっとこちらを見ている。  なんていう返事がくるだろうか、考えてみれば、きもちの悪いことを言っている自覚はある。  でも、ここで俺が目を逸らしたり誤魔化せば、もっと怪しい人間になるではないか……そんなことを思っていたら、茅洋が顔を赤くして目を泳がせはじめた。 「つ、つ、付き合うって……こ、恋人ですか……? どういうことですか?」  おいおいおい、どういう反応だよ。少なからず好意を持たれているとは思っていたけど、照れてるのか? え? でも、お前が好きなのは、イ・シワンじゃねえの? 「友達でも、俺と付き合えば、良い運気がめぐってくるかもしれない」  更に怪しいことを言ってみるが、茅洋は顔色ひとつ変えずに、俺の言葉を信じている。 「と、友達……はい、友達で。今後ともよろしくお願いいたします」  手を差し出し、頭を下げる茅洋。  今後ともって……、願いが叶えば、別れましょ。とか、音信普通になるのが、常なのに。  いや、でも、俺から言い出したのは初めてだ。こういう場合は、どうなるんだろうな。  亮は、その手をとり、「こちらこそ」と言った。

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