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第2話 修理のお仕事
工房に剣を持ち込む。
修理台に置くと、掌に魔法を展開した。
手に灯した魔力から、断面を観察していく。
「これまでと似たような断面ですね。強い荷重を受け止めたように刃先が歪んでいます。断面もギザギザです」
今回は特に酷い。
断面の歪みが細かく、深い。
「攻撃を受け流した痕じゃないですね。もっと重い衝撃に耐えた感じ……剣で攻撃を受け止めた?」
剣士は普通、強い攻撃を剣で受けない。
剣では受け止めきれないからだ。
普通は盾や魔法を使って防御する。
剣で相手の攻撃を受け止める場面があるとすれば、避けきれないときか、他に防御の手段がないときくらいだ。
「ガレス様は有能な騎士と聞きますが、誰かを庇ったのでしょうか?」
クリシェは首を傾げた。
「それに、この匂い……」
クリシェは折れた剣先の断面に鼻を近付けた。
「微かに呪いの匂いがします。呪いの剣士と対峙したのでしょうか」
目の前に置いた剣を見詰める。
(こう何度も折れた剣。しかも、呪いの気配までさせている。武器屋なら間違いなく買い替えを提案されますね)
恐らく修理はしてもらえない。
そもそも、折れた時点で剣は耐久力が落ちる。
買い替えがベストだ。
「直してでも、この剣を使いたいんですね」
剣の束に触れる。
握り癖が付いて、ボロボロだ。
じんわりと、胸が温まった。
「し、仕方ないですね。これが最後だって言っていましたし、魔道具修理屋のプライドにかけて、ちゃんと直してあげます」
クリシェは両手で折れた剣先と剣に魔法を流した。
わずかに残る呪力を浄化する。
「ふっふ~ん。呪いの浄化ができちゃう修理屋なんて珍しいのだから、感謝してもらわないとね」
小人族は魔法に長ける。
クリシェの修理屋は七割以上、魔法を使って修理している。
魔法で鋼の鑢を出すと、剣の折れ口を丁寧に削っていく。
剣先と剣を綺麗に整える。
間に接着剤代わりの玉鋼を塗りつけ、剣先と剣をピタリとくっ付ける。
打ち付けて平らにならし、剣の刃先を研いで終了だ。
全体を丁寧に確認して、頷いた。
「うん、良い出来です。明日にでも試し切りをして、仕上げをしましょう」
剣を鞘に滑らせる。綺麗に収まった。
クリシェは小さな欠伸をして、窓の外を眺めた。
瞬く星が銀の月を照らす。
「今日も、よく働きました」
美しい月夜に感謝して、クリシェはカーテンを閉めた。
翌朝。クリシェは早速、店裏の庭に剣を持って出た。
木の枝を専用の台にセットして、剣を構える。
「えい、やぁ! ……お、重い」
木の枝を、パシンと切り落とした。
「斬れた……!」
斬った枝を拾って、断面を確認する。それなりに鋭い切り口だ。
「僕が斬ってこれなら、剣士様ならもっとよく斬れるはずです。これで、仕上げの手入れをしましょう」
クリシェは剣を鞘に納めた。
剣を持ち上げて握り直す。
「それにしても、重いです。ガレス様はこれを片手で持つのだから、お強いですね」
それだけ強い剣士が、もう何度も剣を折っている。
クリシェには不自然に感じられる。
「何か理由が、あるのでしょうか」
修理の時に感じた呪いの残滓といい、何か理由がありそうには思う。
クリシェは、ぶんぶんと首を振った。
「だからって何回も剣を折るのも、武器屋じゃなく魔道具の修理屋に何度も剣を持ち込むのも、非常識です」
ガレスに同情しそうになった自分に喝を入れた。
「明日こそは、また折ったら、もう修理しませんって言ってやります」
心に誓いを立てて、クリシェは剣の手入れを始めた。
剣に水を打ちながら、砥石の上を滑らせる。
剣の継ぎ目がなくなるくらいに丁寧に研いでいく。
両面を同じ圧で研ぐと、水を流す。
「……うん、良い光ですね」
刃の輝きを確認しながら、剣の水気を拭き取った。
「最後に打粉をしましょう」
先端が丸い布を、刀身にポンポンと当てていく。
布の中には砥石の微細粉が入っている。
軽くたたくと、今度は刀身を拭い紙で拭き上げる。
油を塗った油塗紙で、全体に丁寧に油を塗っていく。
クリシェの剣の手入れ法は、中津公国の職人に教わった方法だ。
剣の修理に使っている道具や素材も、中津公国から取り寄せている。
アスランズ王国に、クリシェと同じ技法を持つ修理師はいない。
「やはり、魔術剣は刀身が綺麗ですね」
魔法を纏う剣は、陽の光を受けて七色に輝く。
うっとりと見惚れた。
魔術剣は扱いが特殊なので、魔術特化の武器屋でなければ断られる場合も多い。
そのため、魔道具修理屋へ手入れ目的で持ち込む客が時々いる。
手入れのリピーターは多く、評判もいい。
それだけに、自分が携わった剣が何度も折られるのは面白くなかった。
「短期間で何度も折ってくるガレス様は許せません」
クリシェは、ぷっくりと頬を膨らませた。
「僕が修理して、手入れした剣なのに」
そう簡単に折れるはずがないのだ。
あくまで普通に使っていればの話だが。
簡単に折れないようにと、今回は強化魔法もかけた。
「こんなに綺麗に仕上がったんだから、また折ったら、ゲンコツしてやります」
鼻息荒く、拳を握った。クリシェは明日の引き渡しに備えた。
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