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第3話 天使の呪い
受け取りの約束の日、ガレスがやってきた。
「お品物は、こちらです」
クリシェは剣を差し出した。
受け取ったガレスが剣を抜いて刀身を確認する。
「やはり、美しいな」
ぽそりとガレスが零した。
ドキリと、クリシェの心臓が小さく跳ねた。
(今まで、そんなこと、言わなかったのに)
職人仕事を褒められたみたいで、ちょっと嬉しくなった。
「代金は、いくらだ?」
ガレスが財布を出した。
「え……えっと」
クリシェは慌てて明細書を出した。
「こ、今回も大きく欠けていましたので……三万ジェンです」
「手入れ代も込みでか?」
「そうですけど」
ガレスが考える顔をしている。左手を顎に添えた。
(まさか、値切るつもりでしょうか。そうはいきません……あれ?)
ガレスの左腕に、包帯が巻かれている。
緩んで隙ができた皮膚に、傷跡のようなものが浮かんでいる。
「ガレス様、包帯が……」
クリシェは何も考えずに手を伸ばした。
「ん……やめろ、触るな!」
ガレスが叫んだ時には、その傷に触れていた。
一瞬、目を開けていられないほど眩い光が視界を塞いだ。
「な、なに……?」
瞼の裏まで照らすような眩さは、一瞬だった。
恐る恐る目を開ける。光は収まったようだ。
店内にも荒れた形跡はない。
ひとまず、クリシェは胸を撫で下ろした。
「何だったんでしょう」
気になるが、まずはガレスに剣を引き渡すのが先決だ。
クリシェは明細書を改めて手に取った。
「えっと……すみません。料金のお話でしたよね」
ガレスを見上げる。
その顔に驚愕が浮かんでいた。
「ガレス様……?」
覗き込んだクリシェの顔を眺めて、ガレスが息を飲んだ。
「まさか、クリシェに」
「ん? 僕が、何です」
首を傾げる。
ガレスに腕を掴み上げられた。
「痛いです。何ですか、急に」
「自分の腕を見てみろ」
「腕……?」
クリシェは掴み上げられた右腕を見詰めた。
ぞっと寒気が走って、血の気が引いた。
右前腕の中ほどに、天使の羽のような刻印が浮き出ていたからだ。
しかもその印は、明らかに呪いの匂いを放っていた。
「何ですか、これ」
ドクドクと、心臓が嫌な音を立てる。
クリシェの今まで培ってきた勘が、悪いものだと告げている。
「まさか、移ったのか」
ガレスが顔を強張らせた。
「天使の呪いだ」
ガレスが自分の腕の包帯を解いた。
天使の片翼のような刻印が、逞しい腕に浮き上がっていた。
クリシェの腕の羽と合わせたら、ちょうど両翼が揃いそうだ。
「天使の呪い、ですか」
クリシェはガレスの言葉を反復した。
「この前、遠征に行った時に受けた呪いだ。油断した。すまない」
ガレスが唇を噛んで悔しそうにしている。
「受けた呪いが、他人に移るんですね」
震えそうになる声で問い掛ける。
「天使の呪い特有の効果だ。誰にでも移るものではないと聞いたが。触れるのは良くないが、まさかその程度で移るとは、思わなかった」
ガレスの目が、クリシェの右腕の片翼を見詰める。
「そんな……僕に、呪いなんて」
くらりと眩暈がした。
呪いなんて非日常なものが自分に降りかかるとは思っていなかった。
店の外に人影が見えた。ドキリと胸が冷えた。
(今、お客さんが来たら、巻き込むかもしれません)
クリシェは、ふらりとカウンターを出た。
店先に閉店の看板を掛け、店の扉を施錠する。
ガレスの腕を掴んで引いた。
「ちょっと、一緒に来てください」
そのままガレスを引っ張って、二階の自宅に上がった。
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