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第4話 突然の同居
店の二階は住居だ。端の部屋を書庫にしてある。
書庫に入ると、呪いの本を漁った。
「ガレス様は、天使の呪いについて、どのくらい知っていますか?」
「ほとんど知らない。だが、この呪いを受けてから、左腕が思うように動かない」
「それはきっと、主に剣を振るっている時、ですよね?」
「あぁ、そうだ」
ガレスが、驚いた顔で頷いた。
「もしくは剣を振るっていなくても、誰かを守っている時や、助けている時」
ガレスが思い出すような顔をした。
「そう……かもしれない。後輩を守った時は、そのせいで剣を折った。それからも、そういうことが続いて」
「だから、この短期間で何度も剣を折ったのですか」
ガレスが俯きがちに頷いた。
「剣を折るのは剣士の名折れだ。恥ずかしい限りだよ」
クリシェは、ポカリとガレスの頭を叩いた。
ガレスが驚いたように顔を上げた。
(ひとまず、これで許してあげましょう)
これ以上、事情を知ったら、怒れなくなる。今のうちにゲンコツしておいた。
「天使の呪いは、そういう呪いです」
一冊の本を、ガレスに向かって開いて見せる。
「剣が折れる呪い?」
「違います」
その不愛想なイケメンフェイスで天然みたいな発言をされても、反応に困る。
「誰かを助けると、その代償が自分に返ってくる呪いです。ガレス様は後輩を守ったから、左腕が動かなくなった」
ガレスの顔が蒼褪めた。
「でも、救いもあるんです。これ、見てください」
本の挿絵を指さす。ガレスとクリシェの腕と同じように、天使の羽の刻印を受けた人間の絵が描かれている。
「呪いを一つ受けるごとに、刻印された天使の羽根が一枚、消えるんです。羽根が全部消えたら呪いは終了、消えてなくなります」
「俺の腕は、戻るのか?」
ガレスの問い掛けに、クリシェは頷いた。
「ただ、困ったことに浄化魔法が効果ないんですよね。善行を積んで、自分が代償に呪いを受けて、天使の羽根を消していくしかないんです」
クリシェは自分とガレスの腕を指さした。デフォルメされた天使の羽は、クリシェに四枚、ガレスに三枚、描かれている。
(ガレス様の剣に残っていた呪いは、天使の呪いの残滓だったんですね。前回と前々回はわからなかったです)
それはそれで悔しい。しかし、今はそれどころではない。
「天使の羽は、両翼が揃うと呪いが繋がっちゃうんです」
クリシェは、その部分の記述を読み直しながら呟いた。
「呪いが、繋がる?」
ガレスの表情が不安そうだ。
「二人揃って善い行いをしないとダメ。その代わり、良いこともあるんですよ。二人でいれば、ガレス様の左腕の症状は軽くなると思います」
「俺を雇ってくれ!」
突然の申し出に、クリシェは仰け反った。ガレスの圧があまりに強かったからだ。
「本当は、その話をするために今日来た。王立騎士団は辞めた。俺をクリシェの店で雇ってほしい」
「待って、待ってください。どうして急に、そんな話に」
「急ではない。以前からずっと、クリシェを尊敬していた。憧れて……いたんだ」
ガレスの耳が赤い。
「尊敬? 憧れ?」
全く予想だにしない単語が飛び出して、眉間に皺が寄る。
「折るたびに美しく生まれ変わる刀剣は、魔法のようだった。まるで錬金術だ。騎士をやめたなら、俺も物を生まれ変わらせる仕事がしたい」
真剣な表情で、ガレスがクリシェを見詰めた。
「奪うばかりだった騎士ではなく、直し与える人間になりたいんだ」
クリシェは息を飲んだ。
(そんな顔をされたら、本気なのかと思ってしまいます)
誇りをもって続けてきた仕事を手放しで褒められた。嬉しくて、どう反応したらいいか、わからない。クリシェは軽く混乱した。
「興味、あるなら……住み込みで、働きますか? どうせ、離れられないのだから」
そのほうが、天使の呪いも解きやすくなる。
「いいのか?」
「その代わり、呪いが解けるまでの間、だけです」
スルスルと、言葉が口をついた。褒められた影響がまだ残っていて、正気とは言えない。
「有難いよ。よろしく頼む」
ガレスがクリシェの手を握った。
大きくて力強い、剣ダコができた手だ。
(この手で剣を持ち、何人もの命を奪って……それ以上の人間を救ってきたのですね)
そんなガレスが剣士の次に選んだ職業が、修理屋だった。
(恥ずかしくない仕事をしないといけません)
自然と、気合が入った。
「では、ガレス。これから、よろしくお願いいたします」
クリシェはガレスの手を握り直した。
この日から、クリシェとガレスの呪いを解くための共同生活が始まった。
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