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第七話 リラックスモードの紗生くんの部屋へ突撃、アメリカンハイスクールライフ・ハチャメチャ・コメディ
トオルの家と自分の寝室とがどこでもドアのように繋がって、風呂上がりの先輩と、晩酌中の後輩が鉢合わせる、という異常事態のフリーズから立ち直ったのは紗生 の方が早かった。
自分の部屋で寛いでいたところ、突然開いたドアの陰にパジャマ姿で立ち尽くすトオルを見て、紗生は何か察したようだった。
紗生の綺麗な指先がクイクイと動いて、トオルを優しく手招きした。
トオルはおずおずと寝室に入っていくと、紗生の隣りにちょこんと腰を下ろした。
「トオル先輩もおつまみ食べますか?」
そう言って紗生はテーブルの上のジャイアントコーンの袋の口を、トオルの側へと寄せた。
トオルは一粒摘んで、口に入れる。
「ありがとう。…塩っぱい!すごく硬いね。ビールに合う!」
「飲むんですか?」
紗生は缶ビールを一本、トオルに手渡した。
「エビスだ!」
ゴールドのパッケージに無邪気に騒ぐトオルの追及をかわすように、紗生は横を向いて鼻の頭を掻いた。
「いいじゃないですか。ビール飲む時くらい贅沢したって」
その低い声に、どこか拗ねた響きがあった。
「紗生くん、何観てたの?」
紗生は自分が観ていたタブレットの画面を少しトオルの方へと傾ける。
それはアメリカの古いコメディドラマだった。
「まだ見始めた所なんで、最初から再生し直しますか?」
「いい、大丈夫。途中からでも分かるし!」
トオルの謎な強がりに紗生は可笑しそうに笑った。
「じゃあ、このままいきましょう。これ、結構面白いんですよ」
紗生は画面を見ながら、ポイントポイントでこれまでの筋をかい摘んで話してくれた。
アメリカの田舎町にある一見フツウの高校が舞台。しかし、生徒も教師も全員どこかネジが飛んでいるハイスクールライフ・コメディだ。
トオルが見始めたのは、ちょうどピンクの高級外車が爆発するシーンだった。
「あれは校長の愛車です。主人公がガソリンと、自分が密造したエナジードリンクを取り違えたんです」
「ええっ!?こんなのあり得ないよ〜!」と目を丸くして叫ぶトオル。
紗生はハチャメチャな画面と、本気で驚くトオルのピュアな反応を交互に眺めながら、満足気にビールを傾けた。
「まぁ、アメリカですからね。
ふぅっ………、この後もっと酷いことになりますよ」
紗生がニヤニヤと笑ってネタバラしをする。
「え〜〜っ!」
トオルはいつの間にか、恐怖も気まずさも忘れて、紗生の隣でゲラゲラと声を上げて笑っていた。
コメディドラマの一話が終わる頃、トオルは平常心を取り戻しつつあった。
(おかしいなぁ、さっきまで心臓が壊れるかと思うくらいバクバクしてたのに、紗生くんが隣にいると、全然怖くないや)
「紗生くんはこういうのよく見るの?」
「いや、たまたまですけど。
………トオル先輩、トイレ貸してくれませんか?
俺ン家、寝室だけになっちゃって………」
紗生が困ったな、というふうに苦笑いする。
「あっ…!そうか、僕の玄関と紗生くんの部屋のドアが繋がっちゃったから………。
ごめんね。トイレでも、キッチンでも何でも使って!」
「どうして、トオル先輩が謝るんですか?
まさか、トオル先輩が超能力を使って、空間を飛び越えて俺に会いに来てくれた訳じゃないでしょう?」
紗生が優しくロマンチックな喩えで冗談を言ってトオルを諭した。
「それは、そう……だけど」
トオルは一人で勝手にパニックになって謝っていたのが恥ずかしくなり、パジャマの袖をきゅっと握りしめて小さくなった。
紗生は縮こまっているトオルの顔を覗き込むように、ほんの少し屈むと、視線を合わせて言った。
「じゃあ、一つだけ………お願いがあるんですけど」
◇
(やっぱり、こうなるんだ……)
不敵に笑った後輩の要求は、一緒の布団で寝ることだった。
昨晩と同じく、紗生の胸にすっぽりと頭を抱きかかえられて、トオルは思った。
(紗生くんの周り、すごく温かい……。ひだまりみたいで丁度いいや。パラダイスなのかな、ふわふわする……)
「紗生くんのここ、僕の定位置にしたい」
トオルがそう言うと、トオルの柔らかな髪に差し込まれていた紗生の長い指に、ぐっと力が入った。
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