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第十二話 時短⭐︎簡単チキンカレー

(どうして、こうなったんだろう……?) 気がついたら、なぜか紗生(さき)くんが僕の家でチキンカレーを作っている。 見慣れたうちの狭いキッチンに背の高い男が収まっている図自体、なんだかすごく変なカンジだ……。 トオルより一回り大きな手で包丁を握り込んだ紗生が、トントンと軽快な音を立てて材料を切り終えると、フライパンへ投入しようとした。 「あっ、うちのフライパン焦げ防止加工だから油引かなくていいよ! 鶏肉の皮を下にして置いたら油が出てくるから……うん、完璧!」 横から口を出して手を焼きながら、スーパーでの決意を思い出し、トオルは反省する。 (……僕、ちょっと口うるさ過ぎるのかな) あの時、紗生はスマホを片手に、人参、玉ねぎ、しいたけ、エリンギ、鶏肉、カレーのルー、食パン、牛乳、卵……と、迷いのない手つきで次々に買い物カゴへ放り込んでいた。 『紗生くん、料理するんだね』 感心してトオルが言うと、返ってきた返事は、こうだった。 『しませんけど、レシピを見れば作れますよ』 不安になったトオルが紗生のスマホ画面を覗き込んだら、そこには「フライパンで作る時短⭐︎簡単チキンカレー」の文字。 (うん、これぐらいなら、普段から料理を作らない人でも、大丈夫そう) そう思い、トオルは彼の自主性に任せることに決めたのだ。 紗生は食材にザッとキレイな焼き色をつけると、フライパンにお湯を注いで蓋をした。 「これで8分待つそうです」 レシピを確認しながら言う紗生に、トオルは慌てて口を挟む。 「あ、ルーを入れる前に一回火を止めてね!」 「知ってますよ、それくらい」 紗生に少し意地悪に返されて、トオルは声を詰まらせて顔を真っ赤にした。 「う、うぐっ……っ。で、でもね! 再加熱でトロみが付くのは、カレーのルーが一番溶け易い温度が80度だからなんだよ。これをしないで沸騰したままルーを溶かしたら、トロみのないシャバシャバカレーになっちゃうんだから!」 「へえ…そうなんですか。知りませんでした。トオル先輩、さすがですね」 幼い子供をあやすような甘いトーンで褒められ、トオルは「ま、まぁね」と、まんざらでもなく胸を張った。 カレーのスパイシーな匂いが立ち、ツヤツヤしたカレーが出来上がった。 「トオル先輩、カレー出来ましたよ」 「すごい!美味しそう!」 トオルは炊き立てのご飯をよそった器を紗生に差し出した。 (ふぅっ、スーパーで紗生くんがカレールーを買うのを見て、家に帰ってすぐお米を研いで「早炊き」のスイッチを押しといたんだよね。間に合って良かった) トオルから受け取った器にカレーをかけながら、紗生が愛おしそうに笑っていた。 「トオル先輩、さっきから何を心配そうに、俺の周りでウロチョロしてるんですか?」 「あっ、バレてた?………ごめんね。ウザかった?」 「いいですよ。小動物みたいで可愛かったです。……本当に、可愛すぎて困ります」 トオルがぷいっと顔をそむける。 「男がっ、可愛いなんて言われても、嬉しくないよっ。」 (嘘だ………。すごく、うれしい………) トオルには紗生のその言葉が、自分の全部を抱きしめられたように感じた。

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