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第十三話 僕ン家とラブホが繋がった?!紗生の施錠の解禁
「このカレー、きのこ類が入ってるんだね。椎茸がしこしこして、エリンギがコリコリで食感が面白いよ」
「レシピ通りに作っただけですけど……口に合って良かったです」
トオルがカレーを頬張る姿を、紗生 は嬉しそうに見つめている。
(昨日の夜、一人でベソをかいてカップ麺を食べていた時のコワさが、嘘みたいだ)
テーブルの上に温かい湯気が立つカレーを挟んで、仕事中とは打って変わってリラックスした紗生と向き合っていると、昨夜のトオルを苦しめていた孤独や不安が跡形もなく消えていくのだった。
「……美味しいですね」
普段のクールな表情からは想像もつかないほど甘い笑みを浮かべ、紗生は安堵したトオルの顔をじっと見つめながら、スプーンを口に運ぶ。
「うん、すっごく美味しい!」
トオルも素直に頷き、目尻を下げて紗生に微笑み返した。
切れ長の目でトオルの笑顔を見つめながら、紗生がモグモグと口を動かす度に、シャープな顎のラインが綺麗に上下した。美味しそうにごっくんと呑み込むと、男らしい喉仏が大きくキュッと持ち上がってから、ゆっくりと元の位置へ落ちていく。
その直後、「はぁ……」と小さな吐息が満足げに吐き出され、紗生の口元が優しく緩む。トオルはそれをずっと眺めていた。
カレーの匂いが漂うその空間は、まるで周りの景色が溶けて二人だけになったかのように、幸福なピンク色の空気に包まれていた。
(何か、これじゃ休日前のカップルみたいだ……)
トオルに気恥ずかしい自覚が芽生え、顔が火照ってきたのは、カレーの辛さのせいだけじゃなかった。
そんなトオルの心中を知ってか知らずか、紗生はグラスの水を飲み干し、悪戯っぽく微笑みかけてきた。
「明日の日曜日、どうしましょうか?
トオル先輩、どこか行きたい場所とかありますか?」
(ますます、カップルみたいなことになってる!)
トオルは手の中のスプーンを握りしめ反論した。
「あのね!紗生くん。簡単に言うけどさ。紗生くんは僕ン家の玄関ドアが急に色んな場所に繋がっちゃうのを心配して、来てくれてるんだよね?忘れてない?」
どこかに出かけるどころか、自分たちは今、原因不明の不可思議なドアが、いつどこに繋がるかも分からない状況にあるのだ。
しかし、紗生は少しも動じることなく、首を傾げてみせた。
「そうですか? でも先輩、よく思い出してみてください。事務所からここに来た時も、俺の寝室に繋がった時も……割と俺たちがその時に『必要とした場所』に行けてませんでしたか?」
「そ、そうなのかな?」
「もしかしたら、強く願えば叶う仕組みなのかも知れません。……試しに一度、行きたい場所を強く思い浮かべてみてください」
トオルは紗生に言われるがままに、まぶたを閉じた。
(僕が本当に行きたい所って、一体どこだろう?)
(紗生くんと、一日中家でまったりダラダラしていたいなぁ……)
無意識のうちに、トオルの脳裏にそんな願望が浮かび上がる。
「……よし。じゃあ、確かめてみましょうか」
「え………ま、待って、まだ」
実は出不精なトオルは、紗生に行きたい場所を聞かれても、どこも思い浮かんでいなかった。
急な展開にテンパるトオルをよそに、紗生はスッと立ち上がると、動揺するトオルの手を引いて玄関の前まで連れてくる。
「トオル先輩、ドアノブを握ってください」
トオルの背後にぴったりと体を寄せた紗生が優しく囁いて、トオルにドアノブを握らせると、その上から自分の長い指をしっかりと重ねた。
ゆっくりとドアが引かれた。
そこに広がっていた光景は――。
「……え?」
トオルは思わず声を失い、目を見開いた。
そこはどうやらホテルの一室だった。部屋の中央に、やけに大きなベッドが妙な存在感を放っていた。ベッドのヘッドボードと土台フレームの下から、柔らかい間接照明の光がぼんやりと漏れ出て、まるでベッドだけが薄暗い空間に浮かび上がっている。
(何だろう、この壁のタッチパネルは?)
トオルが疑問に思っていると、隣りにいた紗生がスッと部屋の中へ、吸い込まれるように入って行く。
「ちょっと、紗生くん!あんなに不用意に入らないようにって言ってたのに!」
慌ててトオルが紗生を連れ戻そうと後を追いかけて、ドアをくぐって入っていく。
振り返った紗生がトオルの手首を掴み、グッと胸に引き寄せた。トオルの鼻がこつんと紗生の胸元にぶつかる。
「うれしいです。トオル先輩も同じ気持ちだったんですね」
驚いてトオルが見上げると、そこにはいつもの涼しげな後輩の顔はなかった。光が消えた漆黒の瞳が瞬きひとつせずに、トオルを見つめていた。
「こんなところに連れてこられたら………俺だって、これ以上我慢できるわけないでしょう」
紗生の薄い唇から、いつもより低い掠れた声が漏れる。
(やっぱり、ここラブホだったんだ!)
紗生の胸板に押されて、トオルの体はバランスを崩し大きなふかふかのベッドの上へと押し倒されていた。
(///あああああッッ……!///)
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