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第二十話 コスモス迷宮と不気味な紗生くん

見渡す限りのコスモス畑が横長の大パノラマで広がっていた。濃いマゼンタ、淡いピンク、純白、コスモスの花びらが幾重にも重なり合い、鮮やかなグラデーションを織りなしている、ノスタルジックな美しい景色だった。 あまりの広大さににトオルは自分の足元がふっと心許なくなり、秋晴れの高い空へ放り出されそうなめまいに近い錯覚を覚えた。 広大なコスモス畑の真ん中に、ぽつんとピンク色の扉と、その枠だけが不自然に立っていた。 「えー!どうなってるのー!?」 「驚きました? ここ、コスモスで迷路を作るので有名なスポットなんですよ。このどこでもドアは、巨大迷路の名物ですよね」 紗生(さき)にそう言われて、トオルが改めて周囲をぐるりと見渡した。すると、風に揺れるピンクの波のあちこちに、同じような色とりどりの緑やブルーの「どこでもドア」が点々と立っているのが見えた。 少し離れた場所では、休日を楽しむ行楽の家族連れやカップルが、その作り物のドアを開けたり閉めたりしながら、笑顔でスマホを向けて写真を撮り合っている。 「なるほど……」 とトオルが状況の把握に努めているとカチャ、と小さな金属音が響いた。 紗生は片手を戸板につくと、もう片方の手をドアノブの上に乗せて、なにやら位置を微調整すると、ドアノブの端に手のひらの付け根を当て、体重を乗せて真下へぐっと押し下げた。 メリ…メリッ――ガキンッ!!! ドアノブが根元からへし折られ、小さなバネが飛び出してプラスチックの破片と共に地面に散らばった。 「………これで終わりにしましょう」 「え……?」 呆気にとられるトオルの目の前で紗生の手には、無残にへし折られたピンクのプラスチック製のドアノブが握られていた。 「は、紗生くん!? 何してんの!? 器物破損だよ、それ!!」 「すいません。でも、このまま放っておいて、何も知らない人が巻き込まれる方が危ないですから」 いつも人懐っこい紗生の目が、まったく笑っていなかった。 その表情の裏にある感情がどうしても読み取れない、トオルは得体の知れない恐怖に気圧されていた。 「それは、……そうかもしれないけど………」

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