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第二十二話 君の町のジェラート屋さん
緑地公園を出た後も、休日の住宅街で、僕たちは手を繋いだまま歩いていた。紗生 くんに手を引かれて、すぐ近くだという彼の家へと向かっていた。
(怖かった……)
とっさに逃げようとしたものの、そこはコスモスの巨大な迷路の中で……思うように前に進めず………。
出口だと思って突き進んだ道は行き止まりで終わっていて、振り返れば皆同じ様な薄紅色のコスモスたちの顔。どこから来たのかも分からなくなって、無限ループしているのかも知れない、とさえ思った。
僕なんて足がもつれて、一度転んでしまった。
紗生くんが倒れた僕の手を取って、助け起こしてくれた。
『こっちです、トオル先輩』
パニックになった僕を紗生くんがリードしてコスモス畑の迷路の出口へと引っ張り出してくれた。
(ううっ…、自分の体から懐かしい土とか草の匂いがするよう)
僕のメンタルがしおしおに弱っているのを察してか、紗生くんはその時から手を離さずにいてくれている。
歩調を合わせて隣を歩く紗生くんが、不安がる僕の顔を覗き込んで少しからかうように、笑いかけてきた。
「トオル先輩、大丈夫ですよ。
あのプラ製のレプリカのどこでもドアなら、弁償しても大した額じゃないですから」
「え、そうなの?」
社会的に終わったかと思っていた。
どうやら事態はそこまで深刻ではないらしい。
「はぁ……よかったぁ……」
僕は脱力感に見舞われて膝からガクンと崩れ落ち、アスファルトの上にズルズルと座り込んでしまった。
「ちょ、トオル先輩!?」
紗生くんは僕の腕を掴んで引き上げ、辺りを見回して、僕が立ち止まった場所から近くのベンチに座らせてくれた。
そこは、おしゃれなジェラート屋さんの店の前のオープンテラスだった。
小さな丸いコインを重ねたような、可愛らしい葉を茂らせた木が優しい陰を作っている。
なんだかこの木、葉っぱの表面が白っぽくて……緑なのか白なのかよく分からないな。
「ここで少し休憩しますか?
もう、俺のマンションこのお店のすぐ裏なんですけど……。
俺、アイス買って来ます」
紗生くんがお店の小さな窓の前の呼び鈴を鳴らすと、お店の人が顔を出した。
僕は昨日の夜、紗生くんにいっぱい揺さぶれた身体で、無理してダッシュしたのがお腹に響いている。目の前に紗生くんがいるのに、身体の中に紗生くんの残像を感じていた。
「トオル先輩、グレープか柿味どっちにしますか?」
紗生くんが二つのコーンに入ったジェラートを器用に片手で持っていた。
「ああ、うん。………柿の方!」
「ははははっ……だと思いました!
店の人が柿とミルクが入ってるって言ってましたよ」
紗生くんがお手拭きで僕の手をわしゃわしゃと拭いてくれる。指の股までギュッギュッと丁寧に……。
僕にはいつも、自分が頼んだメニューよりも、一緒に食べている人の品物の方が美味しそうに見えるクセがある。
柿のジェラートは熟した生の柿みたいにまったりと甘くてとっても美味しい。とろりとしたそのコクを味わっていると、ジェラートが溶けるのと一緒に後味が驚くほど早く引いていった。すーっと消えて、あとには爽やかな秋風だけが残るみたいだ。
けどやっぱり、紗生くんのグレープの方も気になるな、と思いながら、紗生くんの大きな口の中へ物凄いスピードで消えていくジェラートを眺めていた。
「紗生くん、一口頂だい!」
虚を突かれた紗生くんは、一瞬止まって自分のグレープのジェラートをじっと見つめてから、
「え…はい、どうぞ」と僕の方へと差し出した。
ふっと呆れたように頬を緩めた紗生くんから、まんまとジェラートをせしめて、一口パクリとかぶりつつく。
「うーん、おいしい!」
「それだけで良いんですか?もっと食べないんですか?」
なぜか紗生くんが大量に食べるように勧めてきて、僕は首を振る。
「もういい、もういいよ!」
「小さな一口ですね……」
紗生くんが感心したように呟いた。何なんだよ、もう!
「トオル先輩……」
「ん……なァに?急に真面目な顔して……」
隣に並んで座っていた紗生くんは、真っ直ぐ前を向いたまま、食べ終わったジェラートの包み紙を、ぐしゃりと手の中で握り潰した。
「………トオル先輩、俺……
俺のせいかもしれません……」
何かに怯えるみたいに、紗生くんは喉の奥を引きつらせて、掠れた声を出した。
「トオル先輩の家のドアが俺の部屋に繋がったのも、会社に繋がったのも………」
えーっ!!!紗生くんそんな事が出来るの?!
スゴイーーっ!!!
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