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第二十三話 トオル、誤解を正してあげる

「紗生(さき)くん、詳しく話してくれるかな?」 紗生くんが何か悩んでるなら、先輩としてちゃんと聞いてあげなくちゃ! 包み紙を握り締めた紗生くんの指先は血の気が引いて真っ白になっていた。 どう受け止められるか怖くてたまらないといった様子で、紗生くんが僕の顔色をチラリと窺った。 僕は紗生くんが話してくれるのを、静かに待った。 すると紗生くんは、ふぅと息を吐いて、それからゆっくりとベンチの上で体ごと僕の方へ向き直った。 紗生くんの長い足が、僕の膝にぶつかったけど、今はそれどころじゃない。 「一番初めに、会社のドアがトオル先輩の家に繋がった時……覚えてますか?」 「二人で、残業してた時だね」 「はい……あの時、俺…トオル先輩を早く家に帰して休ませてあげたいなって思ってたんです」 「そっか、残業を手伝ってくれたぐらいだもんね」 「そしたら、事務所のドアを開けたら、そこにトオル先輩の家があって……。 トオル先輩がいきなり俺の部屋に入って来た時も、ビール飲みながら、今ここにトオル先輩が居ればどんなに良いか、って思ってました。そしたら本当に突然開いたドアの陰に、借りて来たネコみたいにオロオロしたトオル先輩が……立ってました」 「なっ…、借りて来たネコって……! こっちは心臓止まるかと思ったんだからね!」 僕が抗議すると、紗生くんは苦笑いを浮かべながらも、すぐに真剣な眼差しに戻った。 「だから、俺のせいかもしれないんです」 僕はビックリした。真面目な顔で何を言い出すのかと思ったら……。 「……なんだ、そんなこと?」 「そんな事って…俺は真剣に……っ」 その時、強い風が吹き抜けてベンチの上の生成りのタープが大きくはためくと、シルバーグリーンの葉っぱの木漏れ日が、チカチカと僕の目の前でスパークして蜂蜜色に煌めいた。 「だって、それで好きな人の所まで飛んで行けたら、誰も苦労しないよ!」 なんだか突然に頭の中の紐がスルスルと解けて鼻から抜けていった。 「紗生くんって、僕のこと大好きなんだね」 「それは、そうですけど……っ」 「どうして、紗生くんと僕の家のドアが繋がったのは、僕のせいかもって、考えないの?僕のせいかもよ?」 「それは、どういう?」 「そんなの、誰にも分かんないんだってこと!」 僕はどうして、紗生くんの気持ちを疑って、今まで手を引っ込めてしまっていたんだろう?こんなに、分かりやすく好意をぶつけてくれていたのに。 空間が歪むような異常事態の中で、どうして僕が恐怖を感じていなかったのかも、紗生くんが本当は何に怯えていたのかも、わかった! それは僕たちが離れ離れになること。 それだけが嫌だったんだ。 僕は紗生くんと固く両手を結んで宣言した。 「もう、二度とこの手を離さないよ」

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