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第8話

第八話  あの夢を見てから、リチャードはジョナサンを正視できない。少しずつ大きくなっていく胎に手をあてて、ぼんやりと庭を見ているジョナサンは、強い風が吹いたら攫われてフッと消えていってしまいそうで、見るたびに言いようの無い焦慮に、心が落ち着かなくて、困る。  「そんなに気になるなら、ジョナサンさんとお茶でもゆっくり飲むとか、お食事でもしたらどうですか?」 いつの間にやらすっかりジョナサンと仲良くなっていたアガサに言われて、リチャードは顔をしかめる。 「は? なんで俺がそんなこと・・・っ」 自分を見るアガサやアリスの目が、少し前から変わったことに、リチャードは戸惑っている。責めるような、詰るような、けれど哀願するような、そんな目で見上げられて、たじろぐ。さらには、異母妹たちだけではなくて婚約を解消したセシルまでが、同じような目で見てくる。  三人がそろって見上げてくると、こころが騒ぐ。いつだったか、こんなふうに見られて、泣きながら責められたことがあった・・・。  緩んだ空気を吹き飛ばすように、バタバタと足音が近づいてきた。 「お兄様! 病院からメッセージが!」 来たのはアリスだった。 「どうした?」 「ジョナサンさんのお母さまが、亡くなられたと、連絡があって・・・!」 アリスとアガサは知らなかったことだが、ジョナサンの母親は末期癌だった。アーサーはロバートに、一年はもたないだろうと告げたが、それはかなり甘く見立てたものだった。  ジョナサンは、苦労ばかりしてきた母親に穏やかな老後を過ごさせてあげるためにと、代理母を引き受けたのに。 「・・・ジョナサンさんに・・・」 「知らせなくていい」 二人と目を合わさず、リチャードは事務的な、無機質な声で言った。 「妊娠中に強いショックを与えることはよくないだろう。絶対に言うな」 妊娠八カ月を過ぎている。ここまで育った胎の子にもしものことがあっては大変だし、もう一度最初から、なんて、まっぴらだと思った。  アガサが、ぽろぽろ涙を零しながら言う。 「お兄様、ブリジット様の御目通りに行ってください」 「なんのために?」 「行けばわかります。お兄様ご自身のため、ジョナサンさんのために、一刻も早く、王太子殿下の私邸に行ってください」 アリスとアガサの、縋るような目に、たじろぐ。  何故、王太子妃に会いに行かねばならないのか、わからないのに行けと言われても、困る。  「父と母がお見舞いに伺っても御目通りは叶わなかったはずだ。俺が行く意味など無いだろう」 二、三日前に、リチャードの両親が揃ってお見舞いに伺ったのだが、王太子にしか会えなかったと聞いた。 「旦那様じゃなくてお兄様なら、喜んで会ってくださるはずです!」 「なぜ?」 途端に口を噤んでしまう。そこから先は軽々に口にしてはいけないと、アガサもわかっている。合理主義者で徹底したリアリストでもあるリチャードに、前世が云々など言っても、信じてくれるはずがなくて、アリスもアガサも途方に暮れる。  リチャードやアリスは告げなかったけれど、母の逝去の報は、ジェフリーからジョナサンにもたらされた。末期癌であったことを、知らせなくてゴメン、とジェフリーに告げられて、ジョナサンは言葉も無く涙を流した。  アリスやアガサ、リチャードは、知らせてくれなかった。病院から、リチャードには連絡がいっているはずだと思う。それなのに、知らせてくれないということは、葬式にも行くなということなのだろうか。例えオメガでも、まがりなりにも長男なのだから、喪主を務めなければならないはずなのに。子どもを産むことのほうが優先だから、母親の葬儀を後回しにしろというのだろうか。  『兄さん、いったい、今、どこにいるんだよ? 母さんの葬儀にも来れないって、意味わかんないよ・・・』 父親の死亡手続きは事務的に一人で済ませたジェフリーだったが、母親の葬儀に兄の姿が無いことには、納得できない。父親を疎んじて独立してから遠方に住んでいた弟妹も、みんな参列するのに、長兄がいないなんて、ジェフリーは承服できなかった。 『母さんの葬儀よりも、今、胎にいる子どもの父親のほうが大事なの?』 「そんなわけ無いだろう」 『・・・いいよ、もう』  その後、ジェフリーはいくらマジックメッセージを送っても返信して来なくなった。  『きちんとしたお葬式だったよ・・・。ジェフは、立派に喪主を務めあげたよ』 葬儀の様子は、アルバートが詳細を教えてくれた。 『ジョニー、ごめんね・・・。あと一回だけっていう病院長さんの提案を受ければ、なんて言っちゃって。俺、ものすごく後悔してる』 アルバートの配偶者は、三か月ほど前に女の子を出産したのだそうだ。絵に描いたような理想的な安産のスピード出産だったので、子どもを産むのって簡単なんだ、というような失言をしてしまって、配偶者を泣かせ、自分の両親と配偶者の両親から大目玉をくらったのだと言う。 『お葬式にさ、母さんと一緒に行ったんだけど。その時に、男性オメガの出産は女性の何倍も大変なんだって、教えてもらったんだよ』 普通の女性の普通の出産だって、絶対に安全、とは言い切れない。出産で命を落とす女性は、ゼロではない。オメガは男性でも妊娠出産ができるけれど、それはあくまでできる、というだけであって、簡単でもなければ安全でもない。女性よりも遥かに身体に負担がかかり、ダメージが大きいのだ。 『ジョニー、誰かのためじゃなくて、自分のために、自分を大切にしろよ』 お前の母さんだって、きっとそう望んでいるよ、とアルバートは言うけれど、ジョナサンは、わかった、とも、うん、とも言わなかった。  ジョナサンが臨月を迎えた。  もはや一刻の猶予も無く、アリスとアガサはいよいよもってリチャードを王太子殿下のもとへ行かせなければと気ばかりが焦るのだが、ブリジットの体調が悪いまま、復調の兆しが無い。  王太子は、少しでもブリジットの体調が良い時には連絡すると言ってくれていたのだが、ブリジットは依然として臥せったままだった。  リチャードを王太子の私邸に行かせることができないまま、予定日が近づいてきた。  ジョナサンは、アリスが制止するのも聞かず、床掃除をする。しゃがんだ姿勢は骨盤が開きやすくなるし、腰回りの筋肉のストレッチにもなると、過去の経験で知っている。  それは、予定日を一日過ぎた日の朝だった。  ジョナサンは普通に目が覚めてゆっくりと起き上がった、その瞬間、あたたかい水が流れ出した。  破水だ。  ジョナサンは冷静にアリスを呼んだ。アリスはアガサと一緒に来て、アガサがジョナサンをアボット病院に運んだ。アリスはそれを見送ってからロバートに面会を求めた。 「リチャードは?」 「大事な会議があるから任せるっておっしゃって、軍総本部に行ってしまわれました」 「くそっ!」 ロバートはらしからぬ汚い言葉を吐いて、舌打ちをする。 「数日は、入院するはずですね?」 「本人が嫌だって言っても、させます!」 男性のオメガは、女性よりも出産で負う身体のダメージが大きい。ジョナサンは、過去の出産は医療施設ではなくモグリの助産施設で出産していたから出産後すぐに家に帰っていたが、普通は動けるはずがない。平均で十日から二週間はしっかりと身体を休めなければ、その後の生活にも支障があるだろう。 「俺は、なんとかしてリチャードを王太子殿下のところに連れて行きますので、ジョナサンを頼みます」 「はい」 アリスはジョナサンに、自分の生みの親であるオメガ男性を重ねて見ていた。さらには前世のアリーセとしての記憶をとりもどしたことで、前世での恩返しをしたいと思っている。自分もアガットもツェツィーリアも、それからリヒャルトも、前世では抱えきれないほどたくさん、ヨナタンから教えてもらった。人間の情、家族愛、命をいとおしむことでおのれの心に灯る、泣きたいような幸せ。全部、ヨナタンが教えてくれたものだ。今度は自分たちが、ジョナサンを全力で幸せにしたい。 ―――お兄様・・・っ! 思い出してくださいっ! ジョナサンさんのこと、思い出して、しっかり前世の恩を返さなきゃ、怒りますからねっ!―――  昼の少し前から、陣痛が始まった。以前に閉じ込められた部屋ではない、産科病棟の一画にあるオメガ男性専用の一室で、ジョナサンは来ては引くのを繰り返す陣痛に耐えていた。間隔が長い間は、まだ余裕があったけれど、そのうち、痛くてじっとしていられない状態になった。周囲の部屋の産婦たちには配偶者や近親者がよりそっていて、腰をさすったり汗をぬぐってやったり水分を補給させたりしてつきっきりで世話を焼いている。ジョナサンだけが、ひとりっきりで痛みに耐えている。哀しくて、寂しくて、どうにかなりそうだった。見えないウサギのこころが、悲しげに泣いている。  やっと、息を切らせてアリスが駆けつけてきた。ジョナサンの破水の後の寝具の始末などをメイドに指示したり、入院用の衣類などを準備して来てくれたのだ。  陣痛の間隔が短くなり、分娩が始まったのは、夕刻に近くなった頃だった。  分娩を終え、過去の時とはちがって、見せてもらった、生まれた直後の我が子の顔。ちらりと見えた眸に、胸がいっぱいになった。男の子なので、きっと、リチャードに似た美丈夫に育つのだろうと思うと、嬉しくて、涙がにじむ。  身体が、泥のように重い。ゆっくりと霞んでいく意識の中で、ジョナサンはあの夢の続きを見た。  血相を変えて帰ってきたリヒャルトに、お前のおかげだ、ありがとう、と言われた。次の瞬間には太い腕に、広い胸に抱きこまれた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、耳元であの声で、感謝する、とささやかれて、その声がちょっと泣いていたりなんかして、でも自分はもう病み窶れて貧相な身体なのだから。ぎゅうぎゅう抱き締められるのは苦しい、息ができない。  ツェツィーリアも泣きながら、赤ん坊を抱いている。  なんでふたりが泣きながら喜んでいるのか、お礼を言うのか、ジョナサンはわからない。  しかし、ヨナタンは、わかる。  痩せて細くなった腕をあげ、ぽんぽん、と軽くリヒャルトの腕を叩く。離せ、という合図だ。  赤ん坊が無事でよかった。  アリーセとアガットが無事でよかった。  そう言うと、リヒャルトは太陽を見るかのように眩しげに、ヨナタンを見る。ありがとう、というリヒャルトの言葉を、大袈裟だな、と笑い飛ばすと、大袈裟なんかじゃない、と、大真面目に返された。  命を護った。アリーセとアガットと、赤ん坊の。  英才教育といえば聞こえはいいけれど、リヒャルトの父親は自分にとって都合のいい人形になるように、リヒャルトを育てた。息子のしあわせではなく自分の出世のための道具として、息子を使いやすいように育てた。  リヒャルトは皇国空軍に入って初めて、人間として生きることの価値を理解した。道具じゃない、自分の意志で生きる、自分の人生は自分のものだと。父親の道具ではないのだと、家族とは利用するものではなくて慈しみ合うものだと、ヨナタンがリヒャルトに教えたのだ。  ヨナタンを、大きな身体が、また包み込む。 『全部、お前が教えてくれたんだよ』 いのちの意味も、愛でることも、慈しむことも、家族の本当の意味も。 『だからお前は俺の、天使だ』 分娩で疲れ切っていた身体が、少し、軽くなった。  ゆっくりと浮上していく意識と同じように、身体も、リヒャルトの太くて強い腕に抱き上げられた、ような気がした。  リヒャルトが、来たのだと、思った。 「リヒャルト・・・?」 小さな呟きを耳敏くキャッチしたのは、アリスだ。 「気分はどうですか?」 お疲れでしょう? なにか飲みますか? という言葉をスルーして、キョロキョロと周囲に目線を走らせる。 「リヒャルトは・・・?」 アリスが、手にしていたトレイを落とした。 「今・・・、今、リヒャルト、って、言いました!?」 前世の記憶が無いジョナサンは、リヒャルトではなくリチャード様と呼んでいた、はずで。 「アリーセさん・・・。リヒャルトは、居ないのか?」 さっき、確かに、リヒャルトの腕の温もりを感じたのに。 ジョナサンの心細げな声も意に介さず、興奮したアリスは半泣きで捲し立てる。 「ジョナサンさん! 前世の記憶、よみがえったのですね・・・!?」 「前世・・・?」 「そうです! 前世です! ジョナサンさん! 今がいつだか、わかりますか!?」 「今・・・?」 年月日を言う。 「そうです! でも、さっきリヒャルト、って、言いましたよね!? 今・・・、ジョナサンさんが思ったリヒャルトは、どんなリヒャルトですか!?」 「どんな・・・? え、っと・・・、皇国空軍大尉で、ん? いや、ちがう・・・?」 考え込むジョナサンの腕を両手で掴んで揺さぶりながら、アリスは叫ぶ。 「思い出してますね!? 思い出してますね!? そうですよ! それ前世のリヒャルトですっ! でもっ! ほら! ジョナサンさん、今、皇国空軍パイロットじゃないでしょ? ここは、アメルハウザー皇国じゃないんです! 貴方はヨナタンじゃなくてジョナサンですよ! 兄もリヒャルトじゃなくてリチャードなんです!」 ここがアメルハウザー皇国ではないのは、周囲を見ればわかる。病院の建築様式、照明器具とか壁などが古風で、違うとわかる。けれどジョナサンがさっき感じたのは、皇国空軍のリヒャルト。  今と前世が、頭の中でグチャグチャに交錯する。  皇国空軍大尉じゃないリヒャルト・・・、リチャードが、俺を抱いたのか。  腹から腰が重怠いのは、そのリチャードの子どもを、産んだから、か。 「アリーセ、さんは、リヒャルトの・・・?」 「今はアリスです。同母じゃなくて異母妹なんです。アガサ・・・、前のアガットも。ツェツィーリアはセシル、・・・兄の婚約者だったのですけど、いろいろあって、婚約は解消にいたりました。まあ、まだ未成年ですから」 アリスは怒涛の涙を流し、ずるずると鼻をすすった。 「ジョナサンさん、大変な人生を歩まれていらしたこと、うかがいました。御苦労なされたのですね、お疲れ様でした。もう、苦労はさせないです! 前世でごゆっくりしていただけなかったぶんまで、いっぱいいっぱい、ゆっくりしてください! ジョナサンさんを幸せにするように、全力で兄の背を押しますから!」 言われてみれば、皇国空軍の制服ではない軍服を着たリヒャルト・・・リチャードを見た、気がする。でも、夢で見たリヒャルトは温かかったのに、質量がちゃんとあるリチャードには、温度を感じ取れない。リヒャルトを完璧にコピーした、精巧なロボットのようだ。そんなものに抱かれたなんて、思いたくもないが。  ジョナサンの戸惑いを引っ掻き回すように、アリスは矢継ぎ早に質問を浴びせかけてくる。 「今、なんで病院にいるのか、わかりますか!?」 「・・・子どもを、産んだんだ、よな・・・? リチャード、の・・・」 「そうです! じゃあ・・・、じゃあなんで、子どもを産んだのか、わかりますか?」 「なんで・・・?」 少し、考える。前世と今とを区別して、ゆっくり頭の中を整理する。 「俺は、オメガで、男でも、子どもを産める身体だから・・・、クソ親父に代理母を、やらされ、て・・・っ!」 思い出して、ぞっと鳥肌が立った。そうだ、自分は、今は皇国空軍のパイロットではなくて、オメガで、代理母として何人ものアルファの子どもを産まされた。父親に虐待され、売春させられていた。  よみがえった前世の記憶の中でも、幸せと言えるほどではなかった。同性愛者であることを責められ、貶められ、友軍機に裏切られて敵地に墜落した。栄光から真っ逆さまに叩き落とされた、クソのような人生だった。そして今世、オメガなんかに生まれて、代理母としてアルファに胎を利用される、家畜のような人生で・・・。  確かめるまでもなかったけれど、口をついて、疑問が出てしまった。 「リチャードは・・・、アルファで、アルファの子どもが欲しくて、俺を利用しただけ、なのか・・・?」 「そうですけど、でも、大丈夫ですから! ジョナサンさんのお父さんは亡くなられていますから、お父さんにお金で無理矢理にお兄様の子どもを産むようにさせられたんじゃなくて、お兄様が・・・、お兄様には前世の記憶が無いのですけど・・・、でも、大丈夫ですから! 王太子殿下が、助けてくださいますから!」 「王太子殿下・・・?」 リチャードじゃ、なくて?  アリスは悔しげに、新たな涙を流す。 「すみません・・・、兄には前世の記憶がありません。今、ロバートさんとアーサーさんが、兄を王太子妃ブリジット様のところに連れて行くように尽力くださっています。ブリジット様に御目通りさえできれば、前世の記憶をもどしていただけますから、だから、ジョナサンさんは、心配しないで、しっかり身体を休めてください! あっ! そうだ、報告しなきゃですね!」 落としたトレイを片付けもしないまま、アリスは慌ただしく、緊急用に指定されていたロバートにマジックメッセージを送る。 『ジョナサンさんの前世の記憶が、よみがえりました!』  子どもが産まれた連絡は伝えてあるはずなのに、リチャードは病院に現れず、リチャードを王太子の私邸に連れて行けたというロバートからの連絡も無かった。  ジョナサンの陣痛が始まった頃、アーサーは、緊急手術に入ることになってしまって、ジョナサンの元に向かうことができなかった。  手術は、想定されていたよりも時間がかかった。すべての業務を終えてロバートと合流することができたのは、夜になってからだった。  病院の職員用の通用口の前で、ロバートが仁王立ちでアーサーを待っていた。 「遅いぞ!」 「すまない。・・・リチャードは?」 「これから捕獲して、王太子の私邸に強制連行する。王太子殿下の許可はいただいているが、俺ひとりではリチャードを押さえ込むのは不可能だからな」 自分とふたりでも、難しいのではないだろうかと、アーサーは思う。前世もそうだったけれど、今世も上背も肩幅も筋肉も標準以上あって、知力体力ともに傑出したランクSのアルファだ。グリズリーを押さえ込むほうが、まだ可能なのではないだろうかと思う。 「ジョナサンの様子は?」 「親子ともに安泰だそうだが、リチャードが来なかったとアリス嬢が嘆いていた」 「可哀想に・・・」 出産で身も心も疲れ切ったオメガにとっては、アルファからの労わりこそがなによりも嬉しいものなのに。 「しかし、分娩後、前世の記憶がよみがえったらしい」 「本当か!?」 「まだ絶対に確実ではないと思う。そうなのではないかとアリス嬢には見えたようだが、俺は自分で確かめたい。しかしそれは明日にすべきだろう。今はとにかく休ませてやりたい」 「そうだな。アリス嬢はなにをもってジョナサンの記憶がよみがえったと思ったんだ?」 「リチャードの名をリヒャルトと発音したそうだ。アリス嬢のこともアリーセと。その後も少し会話を交わして、記憶がよみがえったと判断して、一報をいれてくれた」 アディンセル公爵邸に着いた二人を、アリスとアガサが迎えた。 「遅くなってすまなかった。リチャードは?」 「それが・・・」 一足先に強力な助っ人が来ているという。 「え? デイヴィッド!?」 しばらく前にマイケルの調査事務所で顔を合わせた時には、前世の記憶は無いと聞いていた。あの時、アガサたちに前世の記憶をよみがえらせた様子を見ていて、デイヴィッドも断片的に朧げな記憶がよみがえり、あらためて王太子殿下に願い出て、すべての記憶をよみがえらせてもらったという。わずかでも記憶の片鱗があり、かつ本人が前世を思い出したいと強く望んでいれば、ブリジットの力が弱くても記憶をよみがえらせることは可能なのだ。前世では最後までヨナタンを庇っていた空軍少佐のダーヴィドだった。今世は帝国陸軍の特殊部隊で訓練を受け、前世とは趣が異なるものの高度な戦闘力を有していて、王太子専属の護衛についている。ベータでありながら、その巌のような筋肉が盛り上がった太い腕は、アルファのリチャードを簡単に押さえ込むことができた。  デイヴィッドの大きな手で、首の後ろに容赦の無い一撃を叩き込まれ、リチャードは昏倒した。しかし問題はリチャードをどうやって運び出すかということで、ロバートとアーサーと協力して、意識の無いリチャードを裏口から運び出して、なんとか王太子の私邸に運び入れた。 ワーカホリック気味であるリチャードの、疲労が蓄積していたらしい身体は、運ばれても意識がもどらなかった。  リチャードの精を胎に受けて十月十日、育んできた子どもは、無事に生まれた。リチャードに子どもを授けてやることができた。・・・アルファなのかどうかは、思春期まで成長しなければわからないけれど、そんな遠い未来のことなんて、今は考えられない。  出産で疲労困憊の中で前世の記憶がよみがえって、ジョナサンはこころや頭の混乱で自分で自分の整理がつかなかった。アリスがマジックメッセージを飛ばしてくれて、夜間であるにもかかわらず王太子がお運びくださって、混乱したこころと疲れ切った身体をやさしく慰撫してくれた。こころに沁み入る優しい声で、慈愛に満ちた話し方で、ジョナサンのぐちゃぐちゃに乱れたこころや疲れ切った神経をおちつかせてくれた。  そしてあらためて、リチャードに前世の記憶が無いことや、セシルとアリスとアガサ、それからデイヴィッドに前世の記憶をよみがえらせたことを話してくれた。  ロバートとアーサー、そして自身には完全な前世の記憶があること。そして記憶をよみがえらせたデイヴィッドと三人で協力して、リチャードを王太子の私邸に運び込んだけれど、ブリジット妃の容態がおもわしくなく、前世の記憶をよみがえらせるレアスキルを使えない状態であること。  王太子の穏やかでやさしい声を聞いているうちに、あらためて、短くも熱く絶望的ではあっても愛を護って絶えた前世がぐるぐると巡り、かつ、オメガとして生まれ変わった今世、破落戸の父親に苦労をさせられてきた半生を思い出し、ジョナサンはまた落涙した。 「申し訳ありません。見苦しい姿を・・・」 「ジョナサン。泣いていいんだよ。ゆっくり身体を休めて、いっぱい泣いて、心の中の重いものは全部棄ててしまおう。それからゆっくり、これからの生き方を考えよう。わたしはね、ジョナサンにしあわせになってほしいんだよ。前世では偏見や差別によって損なわれてしまった、ジョナサンの笑った顔が見たいんだ。ゆっくりでいいから、心と身体を整えて、そうしたら、シュトレンやアップルパイを焼いておくれ」 「シュトレン・・・」 「ヨナタンが作ったお菓子のことも、養護施設の子ども達にご馳走して喜ばれていたことも、ちゃんと憶えているよ。残念ながら、前世ではご馳走してはもらえなかったけどね」 ジョージ王太子は、前世ではアメルハウザー皇国の皇弟のゲオルグ殿下だった。今になって思い出す。当時のアメルハウザー皇国にはゲオルグ殿下以後、皇子が生まれず、ゲオルグ殿下は皇位継承権第一位だった。そんな尊貴な御方が、一空軍大尉が趣味で作ったお菓子など食べるわけにはいかなかったのは不可抗力だろう。 「ジョナサンにはいっぱい謝らなければならないね。アメルハウザー皇国はね、きみの死後、あの戦争に負けたんだよ」 「そうなんですか」 「そうだよ。女性や同性愛者に人権を、不当な差別に苦しむ人々に救済を。でも、偏見というのはなかなか改めることができないからね。新憲法制定によって同性愛が禁じられなくなっても、しばらくの間は、迫害は無くならなかった」 男女平等や同性愛者差別禁止を盛り込んだ新憲法が制定され、戦後に怒濤のように流入したルモワーニュ公国の文化が定着して、どんどん世の中が変化して、それからさらに十年経ってやっと、ヨナタンを含めた、偏見や差別によって命を落とした人たちの名誉回復が行われた。 「同性愛を理由に理不尽に虐げられた人々の遺骨をね、改めて家族のもとに帰すべきだって国家事業が始まってね。偏見を改めず受け取り拒否した家族には罰則を、それと、恋人同士で同じ墓にと望んだ者たちの希望を叶えた。妨害した家族にも、罰則があったよ」 そのための専用の墓地が設けられた。反対派に穢されないように、王族の墓地として整備されていた一画に共同墓地が整備され、前世のヨナタンとリヒャルト含む同性愛カップルたちは埋葬された。 「ヨナタンの心残りも、すべて解消された」 「心残り・・・?」 「リヒャルトに愛されることは嬉しい、でも、自分ではリヒャルトに子どもを抱かせてあげられないことがつらいって、言っていただろう?」 「はい・・・」 敗戦後、戦勝国であるルモワーニュ公国の要求で同性愛を認めるとされた法律と並んで、ひと際輝く二文。女性に参政権と相続権を認めること。そして、同性愛者はかならずふたり以上の子どもの養育費を国家に納めること。 「そもそもアメルハウザーは女性に参政権も相続権も無かっただろう? 女性に参政権や相続権があれば、そして同性愛者でも子どもを養育すれば、同性愛なんてなんの問題も無いことだろう?」 「はあ・・・」 しかし子どもとは、誰の・・・?  王太子は前世のゲオルグ皇弟だった時の顔で言う。 「あれだけ少子化が問題になっていても、子どもを棄てる親はいたし、戦争で親に死なれてしまった子どもがたくさんいた。ヨナタンがお菓子を届けていた児童養護施設で、いちばん深刻だった問題は、なんだった?」 ジョナサンは考えて、あ、という顔をした。 「運営資金・・・?」 「そう」 教会や善意の寄付金だけで細々と運営されていた養護施設は、どこも資金不足で、子ども達に日々の食事を用意するだけで精一杯だった。ヨナタンがお菓子を作って慰問に訪れるのは、どこの養護施設でも歓迎された。お菓子よりももっとしっかりした食事をさしいれるべきかと思ったけれど、訪れる時間帯によっては、施設の日課を乱したりかえって手間取らせてしまうから、シュトレンやアップルパイを差し入れていた。  そんなヨナタンを、リヒャルトは優しく見守ってくれた。手伝ったり、子ども達の遊び相手になったりして支援してくれた。王太子も、英雄の慰問は子供たちに勇気を与えると、事あるごとに称賛してくれた。  リヒャルトの優しい碧い眸を思い出す。同じ色なのに冷たく無機質なリチャードの眸も思い出して、涙が出そうになる。 「同性愛者たちが出してくれた資金を国家が管理して、どこの養護施設でも資金不足に苦労しなくなって、現場はしっかり子どもたちに専念できるようになった。差し入れを待つだけじゃなくて、お菓子を食べさせてあげられるようになったんだよ」 王太子殿下はジョナサンのパサついた髪を撫でた。失礼かもしれないが、理想の父親像だと思う。親子ほど年が離れてはいないのだが。前世でこの御方に忠誠を誓ったことに、安寧を覚える。自分が死んでから後、この御方のもとで、前世で護ろうとした国は戦争に負けて、新しく生まれ変わったのだろう。よみがえった前世だけでもなく、もっと魂の深いところから、感謝の思いが溢れて止まらない。 「もったいないお言葉でございます」 王太子の声は深い慈愛にあふれ、言葉はやさしくジョナサンのこころに沁みた。  翌日の午後には、ロバートとアーサー、デイヴィッドが会いに来てくれた。 「ジョナ・・・むぐっ」 デイヴィッドがありえない速さで動いて、ロバートの口を大きな手で塞いだ。 「ロブ、病室では声を押さえろ。ジョナサン、出産おめでとう」 「ダーヴィド、ローベルト。久しいな。アルトゥル・・・。まさか、お前が医者なんて・・・」 「なにかおかしいか?」 約十カ月前、ラットで前後不覚になったリチャードに暴行のような酷いやり方で抱かれた後、意識をとりもどした時に見た、医者の顔が、アーサーだった。ぼんやりとしか憶えていなかったけれど、怜悧な眸の色だけがやけに印象に残っていた。今になって、あれはアーサーだったのだと認識する。  アーサーは再会を喜び合うでもなく出産祝いの言葉を述べるでもなく、にこりともせず、淡々と用件を告げる。 「主治医ではないのだが、医師の立場で言わせてもらおう。ジョナサン。リチャードとの交合の際、お前には禁止薬物であるヒート誘発剤が使われていた。非常に強い副作用があるもので、特に男性のオメガは、夜盲症が急激にすすむ危険性がある」 「やもうしょう・・・?」 「網膜色素変性症のことだ。・・・鳥目と言えばわかるか?」 「あー・・・、夜になったら見えなくなる、あれだな・・・?」 「そうだ。ビタミンAの欠乏が主な原因だが、食生活が豊かな時代では、それは少ない。遺伝傾向があるから先天性の人もいるが、後天性では眼底疾患によるものが主だろう。ヒート誘発剤の副作用は、ビタミンAの吸収を阻害するんだ。特に男性オメガにおいて顕著だ。通常は眼科疾患の中でも進行が遅いほうなのだが、ヒート誘発剤の副作用の場合は、通常の二倍から三倍の速さで進行する。視野狭窄、最終的には失明の可能性も高い」 「そうか・・・」 ジョナサンはちょっとなげやりに視線を逸らした。 「だったらもう、だいぶ進行してるかもしれない。以前にも誘発剤を使われたことがあったからな」 ロバートはいたましげに眉を下げ、デイヴィッドは呪詛のようになにかつぶやき、アーサーは表情を変えないまま、いつの話だ、と訊いた。 「六、七年、前・・・、だったと思う。俺のヒートを待ってられない、自分の都合に合わせろという身勝手なアルファに、胎を買われた時だ」 だから、アディンセル公爵邸の離れにいた時にはもう、夕方になると庭の風景がぼんやりとしか見えなくなっていた。  前世では、深夜のスクランブルでも、雷雨や濃霧などの悪天候でも、敵機のどんな些細な動きも見逃さず、照準器よりも肉眼のほうが精確だと言われたほどの視力だったのに。  ヨナタンの神がかった視力に幾度も助けられたデイヴィッドは、はらはらと涙を流した。 「いたましい・・・。誘発剤の副作用の話を王太子殿下からうかがって、いてもたってもいられなくなったから、記憶をよみがえらせていただいたのだ。ジョナサン。視力の衰えが不安だったら、私のところに来い。前世でお前を護りきれなかった償いをしよう。どうか、気を強く持ってほしい」 「ありがとうございます。オメガなんかにそんな、気を使っていただいて・・・」 デイヴィッドはリチャードよりもさらに大きな手で、ジョナサンの髪をくしゃりと撫でた。ジョナサンは、顔はもとより頭そのものが小さいので、デイヴィッドの手の中では子どものように小さく見えた。 「ジョナサン。オメガなんか、などと言ってはいけない。幾人もの新しい命を生み出した尊い身体なのだ。大切にしなければいけないよ」 諭されても、さんざん弄ばれて利用されてきた身としては、捨て鉢に苦笑するしかできない。  デイヴィッドの拘束が片手になったのでのがれたロバートが、大きな荷物をベッドの足元のほうに置いて言う。 「ジョナサン! 俺は医者でもないしデイヴのように頼りにもならないかもしれないが、きみのためにできる助力は惜しまない! なんでも言って、頼ってほしい!」 「ありがとう」 アーサーが訊ねる。 「ロブ、その大荷物はなんだ」 「見舞いの品に決まっているだろう。ジョナサン! 好きなだけ食べてくれ。うちのシェフお手製のタルトだ」 エッグタルトやフルーツタルトなど、一口サイズの様々なタルトが浅い大きな箱の中にずらりと整列しているのは、病室にはそぐわない華やかさだ。花を敷き詰めたような色とりどりのタルトを見て、ジョナサンは苦笑した。 「そんなにたくさん、食べられないよ」  四人で舌鼓を打った。甘いものが苦手なデイヴィッドも、クリーム控えめのフルーツやチーズタルトなどをいただいて顔をほころばせた。ジョナサンは、エッグタルトをひとつとほろ苦いチョコレートのタルトをゆっくりといただいた。 「で、リヒャ・・・、リチャードは・・・?」 「それが・・・」 ジョナサンのためにと無理をしてスキルを使ってくれたブリジット妃と目を合わせても、リチャードは前世の記憶がよみがえらなかった。こんなことはありえない。 「魂に、なにか、強固な、・・・殻のようなものが被せられているようだと、ブリジット様には感じられたそうだ。私はわずかでも記憶の片鱗があったことと、思い出したいと強く願うこころがあったから、ブリジット様のお力が弱くても、記憶をよみがえらせていただけた」 「リチャードは、なにか、前世を思い出したくない理由があるのだろうか?」 前世では先に亡くなったロバートが、アーサーに訊ねる。 「俺が死んだ後のことはわからないが・・・、生きていた頃には、思い当たるものは無い。ただ・・・、リヒャルトは一人だけ残って俺たち全員の死を見たのだからな」 リヒャルトが左遷され、ヨナタンが除隊させられた後、デルブリュック空軍基地の凋落は目を蔽わんばかりだった。スクランブルは命令から五分以内のはずが七分かかり、インターセプトの成功率は四割落ちた。 「ダーヴィドが逝ってからは地上攻撃の成功率も落ちたし、制空権も取られた」 悪いことは続くもので、ダーヴィドの死後、ミサイルのインターセプトに失敗して滑走路が使えなくなり、上はデルブリュック空軍基地を破棄する決定を下したのだ。  アルトゥルは撤退時に敵の爆撃で死んだ。その死亡報告をリヒャルトはどこで見たのだろう。自分が死んだ後のことなど、わからない。 「後に残されるつらさは、何度経験したって慣れるものではない。しかしまあ、だからといって、人に憶えておけと言っておきながら自分は忘れているなど、身勝手が過ぎる」 「なにをだ」 「あれはヨナタンの・・・、臨終の時だ。生まれ変わっても必ずヨナタンを見つけると泣くリヒャルトに、ヨナタンは肯かなかった。ただ、愛されて幸せだったとだけ言い残して逝った。ヨナタンはメテムサイコシス(輪廻転生)を信じていないのだと、リヒャルトは受け取ったのではないだろうか。だから、今、前世なんて信じていなくて、だから、思い出さないのではないか?」 ありうる、とジョナサンは思った。実際、前世の自分は信じてなんかいなかった。大切なものをすべて失って、どこの誰が来世なんか信じるだろうか。生まれ変わってまた会う、なんて夢みたいな話なんか、信じるだろうか。ほんの短い間だったけれど、リヒャルトに大事にされてその腕の中で死んだ、あれでもう、じゅうぶんだった。生まれ変わってまたリヒャルトに会うなんて、あの時は考えもしなかった。  しかし、実際にリチャードに会っていたし、王太子殿下にも、今、目の前にいる三人にも、こうして会えた。メテムサイコシスなんて夢物語だと思っていたのに、こうして実際に転生していた。前世を思い出さなければ信じられなかったし、前世ではこれっぽっちも信じていなかったのに、生まれ変わってまた、会えていた。  前世のヨナタンが来世なんか信じていなかったと、リヒャルトも感じていたのだろう、というアーサーの推測は核心を突いている。だからリチャードは今世で、前世を思い出すこともないのだ。思い出さなければ、引き摺られることもない。  リチャードには、才能豊かなアルファとしての輝かしい人生があるのだ。後悔に満ちた前世など思い出す必要は無いだろうと、ジョナサンは思った。  そこへ、ドアがノックされた。 「ジョニー! 身体の具合・・・、えっ? あっ、お客様?」 花束を持って現れたのは、アルバートだ。  そうだ、アルバート・・・アルベルトにも会えていた。幼い頃から、ずっと一緒にいた。前世では兄のように親身に指導してくれた教官で、今世では幼馴染みで、大切な親友だ。  アルバートには、前世の記憶はあるのだろうか。  あったら、ドアを開けた目の前に皇国空軍士官だった男が四人もいたら、腰を抜かすだろう、と、ジョナサンはぼんやりと思った。  「アルバートさん、だったかな」 「アーサー、お前、なんでアルバートのこと知っているんだ?」 「お前の経歴を洗っていた時にな。アルバートさん、前世でも今世でも、ジョナサンの面倒を看てくれて、どうもありがとう」 前世では寡黙だったくせに、別人のように流暢にしゃべるアーサーに、ジョナサンは真昼に幽霊でも見たかのように茫然としてしまう。 「アーサー! 前世とか言っても普通は通じないだろう」 「は? 前世・・・?」 ぽかんとしているアルバートに、空気を読まないアーサーは普通に話しかける。 「きみがいてくれたおかげで、ジョナサンが生きて来れたと聞いている。感謝する」 「え? あの・・・? え?」 状況が理解できずあわあわしているアルバートは、もともと表情豊かなファニーフェイスなので大人になっても子どもの時の面影があって、そこに今はさらに前世での思い出も重なる。ずっとそばにいてくれた。前世でも、今も。恩人で、幼馴染みでたいせつな親友。  皇弟殿下・・・現王太子殿下や、背をあずけ合ってともに死線をかいくぐった仲間たちにまた会うことができて、弟妹が健在で、笑っていてくれて。あの悲しい前世も、こうして思い返してみると、たいせつな日々だったのだな、と思える。  それなのに。  どうして、寂しいのだろう。  こころにぽっかりと穴があいて、木枯らしのような冷たい風が吹き抜けていく。

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