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第4話

「背く……」 そうだ。無我夢中だったから抜けていたけど、確かに反逆と等しい行動を起こした。 改めて他人の口から聞くと、とても重い言葉だ。 重すぎて、宙に浮いていた心がゆっくり沈んでいく。 「そう……ですね」 何の鳥か分からないが、頭上で断末魔のような鳴き声を上げている。 ぞくっとして、少しだけ身を縮めた。 リザベルはわずかに目を細めた後、と俺の頭を撫でた。 「私は君の一族の青年に襲われて、取引を持ちかけられたんだ」 「取引?」 「そう。ちょうど部下と歩いていたんだが、その部下を人質にとられた。油断していた自分が悪いんだけど、まんまと呪術にかけられてしまった」 話を聞いて納得した。彼は聡明に見えるし、力ずくでなければ易易と敵の手に落ちたりしなそうだ。 レイスの奴、やっぱり卑怯な手を使ったんだな。 「貴方を襲ったのは俺の従兄弟です。本当に申し訳ありません」 謝って済むことではないけど、代わりに頭を下げる。リザベルは少し考えて、それから片手を翳した。 「私を邪魔に思ってる誰かが、君の従兄弟に頼んだんだろう。それは仕方ないし、君達の家業を否定するつもりはないよ」 「でも……」 「それに、君は私を助け出してくれた」 どうして? 言葉にこそしないが、彼の瞳はそう尋ねていた。 「俺は、一族のやり方は間違ってると思うんです。呪術がないと困る人がたくさんいるんだろうけど、……呪術のせいで困る人達のことを考えてしまう」 そのせいで上手く力を扱えないのかもしれない。 一族の落ちこぼれで、役立たず。だから家から出た方がいいのも確かだ。 「そうか。それじゃこれは、決死の家出というわけだ」 「家出。まぁ……?」 そうなるのかな? 言われるままに頷くと、彼はさらに嬉しそうな顔でうんうんと頷いた。 「良いと思うよ。ユノは二十歳だったもんね。自立するにはちょうどいい」 彼はひとりで感心しているが、ふと疑問に思ったことがある。 俺、彼に年齢は教えてないような。 どういうことかと眉を寄せたとき、再び手を引き寄せられた。 「それなら決まりだ。私を助けてくれたお礼に、君の家出に協力しよう」 「え!」 「追手が来るかもしれないし、ひとりじゃ不安だろう。無事に街に下りるまで、一緒に行動した方が良いと思うよ」 確かに。父や他の誰かが追いかけてくるとも限らない。 俺は呪術師として未熟だから攫われても価値はないけど、それでも跡取りがなにかやらかせば一族の名に傷がつく。それは彼らも避けたいはずだ。 だから誰にも見つからないよう、身を潜めて暮らせたらいい。一族にも迷惑をかけず、誰も傷つけずに済むように……。 「本当に、一緒に行動していいんですか?」 「あぁ。むしろこちらがお願いしたい」 彼がそう言ってくれたので、手を握り返した。 「ありがとうございます。それなら是非、お願いします」 「こちらこそ。末永くよろしく」 す……末永く? またまた謎に感じたが、その場はひとまずやり過ごした。至極簡単な紹介を終え、休めそうな場所を探した。 とても小さな小川のほとりで顔を洗い、少しだけ水を含む。あまり飲むとお腹を壊すと言われたので、ハンカチをぬらして顔をぬぐった。 「今夜は野宿だね」 リザベルは落ち葉を集め、平地に敷いていく。最初は何をしてるのか分からなかったが、後で寝床を作ってるのだと気付いた。 「疲れただろう。もう休もう」 「はい」 リザベルは上着を脱ぐと、それを俺の上に被せた。そして腕を差し出し、「ほら」と促す。 「えーと……?」 「頭を乗せていいよ」 「だ、大丈夫ですよ。腕痺れちゃうじゃないですか」 「平気。それに夜中は冷える。嫌かもしれないけど、身を寄せ合っていた方が良い」 ね、と微笑まれ、おずおずと彼の腕に頭を乗せた。 ……あ。 しかし直後に失敗だったと気付く。彼の方に向いてしまった為、互いにの顔を眺める体勢になってしまったからだ。 恥ずかしい……。 今さら身を捩るのも変な気がして、視線を下に下げた。リザベルの胸が近過ぎて、妙に意識してしまう。 自分の鼓動は速くなってるし。バクバク鳴ってるのが聞こえたらどうしよう。 不安から、寝つくまで他の話をすることにした。 「で、でも。火事に巻き込まれなくて本当に良かったです。俺達からすれば僥倖でしたね」 「そうだね。原因が何だったのか気になるけど……」 リザベルは自身の唇に手をあて、瞼を伏せた。 薄い桃色の唇。あまりに綺麗で、つい見惚れてしまった。 「ユノ?」 「あ、はい! 何ですか?」 「いや。色々不安だろう? 初めて家出した上に、こんな場所で寝泊まりなんて」 「あぁ……大丈夫ですよ。森なら何度も歩いてますから」 嘘をついた。 この歳まで一度も外に出たことがない。足手まといになるかもしれない存在だと思われたくなくて。 自身の虚勢に辟易しつつ、当たり障りない笑顔を浮かべた。彼は、少し困ったように笑った。 「そうか。……それじゃ、もう少しだけ頑張ろう」 「はい。おやすみなさい」 怖いぐらい静かな森の中。 不安じゃない、というのも嘘だ。本当は不安で仕方ない。これから独りで生きていけるのか。住む場所は見つかるのか。色々な思考が駆け巡り、頭の中を殴りつけていた。 城にいた時は考えもしなかったことだ。 あの時は、むしろリザベルの世話もしていたんだから。 しばらく寝たふりをしていたけど、恐る恐る瞼を開けた。 リザベルさんはかすかに寝息を立てていた。寝室のベッドで寝かせていた時と同じく、綺麗な前髪を瞼に落としている。 突然攫われて、呪いが解けたと思ったら森の中に放り出されて。もっと取り乱していいところなのに、肝が据わってる。 ( 俺が彼だったら絶対パニック起こしてるけどな…… ) 呪いが解けた理由も分からないし、本当は不安でいっぱいだ。 無理やり心を落ち着かせようと、隣で眠るリザベルの寝顔を見た。 知的で優しいけど、想像以上に冷静な人だ。俺とは違って、強い芯を持っている。 でも昨日までは俺が服を着せ替えて、髪を梳いて、……「おやすみ」とシーツをかけていた。 まるで遠い記憶になったみたいだ。彼の体を拭いて、彼で慰めていたのも……。 「……っ!」 突如あの禁断の夜を思い出し、体が火照りだした。 リザベルの肉体美を眺め、自慰してしまった夜のことを。 「ん……」 あれからまた日が経っている為、眠っていた欲望はゆっくり起き上がった。窮屈な股間に手を添え、もう片方の手でベルトを外す。 チャックを下ろして、下着の中をまさぐった。 「ん……ふ……っ」 最悪だ。 これまで生きていて、こんなにも気が昂ったことはない。 所構わず勃起するなんて、これじゃ獣と一緒だ。 自分でもあり得ないと思うのに……彼といると、体が疼いて仕方ない。 赤く腫れ上がった性器は先端から白いつゆを零し、暗がりの中でもぬらぬらと光っていた。 やめないと。彼が目を覚ましたら大変なことになる。 だが頭とは反対に、手は止まらない。むしろさっきより激しく性器を扱いてしまう。 駄目だ。ここにいたら……っ。 最後の理性で何とか起き上がり、音を殺して近くの木々に隠れた。ズボンを下着ごと下ろし、汚れないようシャツを捲り上げる。 大木の幹に手をつき、向かい合うようにして性器を擦った。 「う、ん……っ」 この前はリザベルさんの引き締まった腹筋に擦りあて、イッてしまった。 気持ち良すぎておかしくなりそうだったけど……あれは絶対、墓場まで持っていかないと。 早くイかなきゃ。 しかし焦れば焦るほど絶頂から遠ざかる。何度目かの声がもれた時、真後ろで枝を踏む音が聞こえた。 「ユノ?」 「あふぁっ!」 気付けば、向こうで寝ていたはずのリザベルが傍にやってきていた。驚き過ぎて声が裏返った。嫌な汗が滝のように吹き出る。 「大丈夫? 具合が悪いのかい?」 「い、いや……っ」 まずい。尋常じゃなくまずい。 下手したら人生終了だ。振り返ることもできず、しどろもどろに答える。 幸い白衣の丈が長いからズボンを下ろしていても素肌は見えてないはずだ。それでも、不審に思われたのは間違いない。 「だ……大丈夫です。すぐ戻るので、ほっといてくださっ!?」 言ってる途中だったが、絶叫からの絶句。 ユノは後ろから抱き込まれ、硬直した。 「用を足してたのかな。……せっかくだし手伝うよ」 リザベルはユノの耳元で囁き、前に回していた手を下へ滑らした。そして、張り詰めた赤い果実を握り込む。 そんな場所を触られると思わず、ユノはパニックを起こした。 「リザベルさ……や、離してくださいっ」 「大丈夫。私もちょうど、用を足したくなったところだ」 トイレじゃないのに……。どう返すべきか考えていると、彼も自身のチャックを下ろし、硬くなった性器を取り出した。 「君の押し殺すような可愛い声が聞こえてね。さ、早く出して寝よう」 「あっ!」 耳朶をちゅ、と吸われる。訳が分からないままリザベルのものと一緒に握り込まれて、強い力で扱かれた。 ぐちゅ、ぐちゅっ、と、聞いたことのないいやらしい水音が鳴り響く。 逃げようともがくも後ろから抱き締められてるせいで逃げられない。辛くて、でも気持ちよくて頭がおかしくなりそうだった。 「ユノ、我慢しないで。ためてたもの全部出してごらん」 「や……あぁあっ!!」 亀頭を一際強く指で押された時、堪えきれずに射精してしまった。 リザベルも同じタイミングで果てた為、二人の混ざり合った体液が木の幹にまで跳ねてしまった。 「はは、樹液みたいになっちゃったね。でも、たくさん出せて偉い偉い」 「あう……」 性器を指で捏ねくり回され、快感に打ち震える。 恥ずかしいのに、気持ちよくて何も考えられない。 むしろ高揚してしまっている。 俺、この人に触ってほしかった。……のか? 立つこともままならなくなり、その場に崩れ落ちる。しかし地面に座る寸前で体を支えられた。 「頑張ったね。さ、用も足したしゆっくり寝よう」 だからトイレじゃないって……。 けどもうツッコむ元気もなく、彼に体重を預けた。柔らかい羽に包まれるようで、とても心地いい。 「おやすみ。私の……可愛いユノ」 すごく恥ずかしいのに、何でこんなに安心するんだ……。 まどろんだ意識の中で、愛おしそうに自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。

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