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第8話

リザベルさんは常に凛としていて、明るい。 自分の周りにはいなかったタイプだ。新鮮で、……太陽のように眩しい。 自分と同じ温室育ちかと思いきや、サバイバルに強くて何でも器用にこなす。 嫌でも尊敬するし、憧れてしまう。彼の強さは、今の自分が手に入れたい力そのものだから。 「俺はこれから独りで生きていきます」 自身のシャツを握り締め、ユノは静かに視線を落とした。 「安心してください。人に迷惑かけないように、なるべく誰もいないところでひっそり暮らしますので」 「……」 これ以上、彼の優しさに甘えるわけにはいかない。既に充分助けてもらったんだから。 「明日には本当にここを出ていきます。落ち着いたら、改めて御礼をします」 リザベルさんはなにか言いたげだったが、ドアをノックする音が聞こえて口を噤んだ。ちょうど夕食の時間のようだ。 「あ。ちょっと手伝ってきますね」 「うん……」 ワゴンを持ってきてくれた女性に御礼を言い、リザベルさんと一緒に食事をした。 きっと、これが彼と最後の晩餐になる。そう思うと途端に切ない気がした。俺は、自分が思ってるより彼と過ごす時間を気に入ってるのかもしれない。 「リザベルさん、お湯沸きました。どうぞ」 食後、ゆっくりお茶してからお風呂の用意をした。いつもなら先に入っていいと言われるが、今日は彼の疲れをとることを優先したかった。 バスタオルを持ってシャワールームを指し示すと、リザベルさんは憂いを帯びた瞳でこちらを見つめた。 「……何だか少しフラフラする」 「え!」 慌てて見ると、確かに顔色が悪い。 「大丈夫ですか? お風呂はやめときましょうか」 「汗を流したいからシャワーだけ浴びたいな。……ユノ、不安だから一緒に入ってくれないかい?」 リザベルさんは自身の額に手を当て、小声で零した。 彼がこんな風にお願いしてくるのも珍しい。 確かに浴室内で倒れたら大変だし……今こそ彼の役に立つ時だ。 「わ、わかりました。脱ぐのもお手伝いします」 意を決し、彼の入浴を手伝うことにした。 俺は服を着たまま、袖とズボンの裾を捲り上げる。そしてだだっ広い浴室に入り、彼を椅子に座らせた。 「ありがとう、ユノ。手慣れてるね」 「え? い、いえ……そんなことは……」 服を脱がす手際が良すぎたせいで、不審に思われてしまった。 城では毎日服を脱がせて清拭してたとか、ちょっと言えない……。 呪いの力なのか食事や排泄は必要なかったけど、身だしなみは整える必要があったからな。 けど彼の為にも、それは隠しておいた方がいい。城にいた時はひたすらベッドで寝かせていたことにしよう。 良い香りのシャンプーを手に取り、泡立ててから彼の頭を洗う。 これも初めてじゃない。だから無心で、落ち着きながら行えた。 ( なんだけど…… ) この浴室は四方全面が鏡張りになっている。お洒落だが誰かと一緒に入るには勇気のいる内装だ。 変に意識してしまう。なるべく彼の身体は見ないように心掛けてるけど、変に意識してると思われるのも嫌だ。 早く終わらそう。シャワーで泡を流し、今度はスポンジで彼の背中を洗う。相変わらず鍛えられた背筋で、そこは惚れ惚れした。 「あ。ま、前はご自分で洗ってもらえます?」 「あぁ、もちろん」 お願いすると彼はスポンジを受け取り、自身で洗ってくれた。 ひとまずホッとする。待ってる間にお湯を出しておこうと思ったけど、滑ってシャワーヘッドを床に落としてしまった。 「うわっ!」 「ユノ、大丈夫!?」 床に落ちたシャワーヘッドは運悪く、自分の方に向いていた。おかげで腹までずぶぬれになった。 「あはは……ドジしちゃいました」 「ううん。怪我がないならいい」 リザベルさんは心配して、咄嗟に支えてくれていた。 しかし彼の身体についていた泡も俺のシャツやズボンについてしまい、中々悲惨な状態になっている。 でも仕方ない。彼をお風呂から出した後に着替えよう。 と思ってると、何故かリザベルさんは俺を自分の胸に抱き寄せた。 「あふっ!」 顔をぶつけたこともそうだが、定位置に戻したシャワーを今度は頭からかぶることになった。瞬く間に全身びしょびしょになり、何とも言えない虚しさに支配される。 「な、な、何するんですか!」 「ぬれちゃったし、どうせなら泡を落とした方が良いだろう?」 一緒に洗った方が効率良いしね、と俺の肌に張り付いたシャツを脱がせ始めた。 水を含んで重くなったシャツとズボンを脱がされ、扉の前に落とされる。訳が分からぬまま、気付いたらまた彼と全裸で向かい合っていた。 というか、変だ。 さっきまでの弱々しい雰囲気は消えて、リザベルさんは瞳に鋭い色を宿している。 あっという間に角に追いやられ、口端に笑みをたたえる彼を見上げた。 「リザベルさん、具合が悪いのは……」 「うん? あぁ、ありがとう。すっかり治ったよ」 清々しいまでに笑顔で答える彼に、顔が熱くなる。 具合が悪そうにしていたのは全部演技だ。こうして自分を追い詰める為の。 「ユノにお世話してもらったら、すごく元気になった。むしろ元気になり過ぎて困ってしまうね」 不意に当たった彼の腰は、確実に硬度を保っていた。 笑えないジョークに、怒りと羞恥心でパニックになる。 「騙しましたね。やっぱり貴方、最低です!」 「騙したつもりはないよ。本当に気分が落ちてたんだ。でもユノと触れ合って復活した」 リザベルは俺の頬にキスをし、腰を擦りつけてきた。 「つまり、今の私の心の拠り所はユノ。君ということ」 「何言ってんのか全然わからないんで……離してください……っ」 彼の胸を必死に押すも、鎖骨やうなじを愛撫され、情けない声をもらしてしまう。 涙でにじんだ瞳を向けると、彼も苦しそうに顔を歪ませ、呟いた。 「諦めようかと思ったけど、気が変わった。ここで手放すなんて、やっぱり男がすたるからね」 リザベルさんはなにか吹っ切れたように、激しい口付けを求めてきた。 息を奪われ、頭がぼうっとする。浴室の熱気もあると思うけど、足の力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。 しかしそのまま床に押し倒され、唇を塞がれた。 「んっ……ん、むぅ……っ!」 その間もずっとお湯が床を叩きつけている。 せめて止めたらいいのに……もう彼はシャワーも見えてないみたいだ。 苦しい。上から覆い被さる青年にどうすることもできず、ひたすら喘いだ。彼の背中に爪を立ててしまったが、もう気にする余裕もない。 ただただ、名前のない時間が過ぎていく。 ようやく解放されたものの、唇が痛んだ。 背中も痛い。床に仰向けになったまま、必死に前を隠す。しかしその手を掴まれ、指先を吸われた。 「本当に可愛い……食べてしまいたい」 「……っ」 冗談抜きで食われそう。 でも、何故ここまで自分に執着するのか。それだけが解せない。 「あ、貴方……いつもこんなことしてるんですか? 男相手にすぐ盛って……」 「おっと。誤解しないでくれ。私が欲しいのは君だけだよ」 リザベルさんは俺の両手首を上げさせて、ひとまとめに押さえた。 「性別は関係ない。他人に対して興味がなかった……そんな私を、君が狂わせたんだ」 「狂わせたって……何の話ですかっ」 いや、何の言いがかりだ。 彼の性癖を歪めた覚えはない。強気で睨めつけたものの、彼は俺の下腹部をそっと撫で、苦しそうにため息をついた。 「いつ思い出しても脳が焼かれる」 脚を開かされる。彼の太腿に乗せられ、硬い熱棒が重なった。 「君が寝ている私の上にまたがって、泣きながら自慰をした夜のこと。……夢のようだった」 「……ん?」 頭が真っ白になった。 今何て言った? 寝ている彼の上で、自慰? 彼が目覚めてから、そんなことをした記憶はない。あるのは、城での出来事。 昏睡状態だった彼に欲情し、彼の上で腰を振った……あの、罪深い一夜だけだ。 いやいや、それでもおかしい。彼は呪いをかけられて意識はなかったはず。あの夜を知ってるはずがないんだ。 ────まさか。 このとき、嫌な推測が頭をよぎった。そんなわけない……そんなことがあってはいけない、と思いながら。規格外の彼ならそれもあり得る、という、恐ろしい現実。 固まって動けないユノの唇をなぞり、リザベルは目を細めた。 「黙っていてごめんね、ユノ。実は呪いをかけられてる間、私は意識があったんだ」 「ふぇっ」 驚きのあまり、変な声が出てしまった。 それだけはやめてくれ。と思っていたことを叩きつけられた。そのショックからさらに放心し、ただ彼を見返す。 「正確には、君の部屋のベッドに寝かされてる時から……少しずつ君の声だけが聞こえて、段々目も見えるようになった。初めは事態を理解するのに苦労したよ。私の面倒を任された君はアリヴァー家の中でどんな立ち位置なのか。どんな人物なのか、把握することが」 リザベルはふぅと息をつくと、ようやくシャワーを止めた。けど今は止めないでほしかった。静寂がひたすらきつい。 「君の側近の声を頼りに、君がアリヴァー家の次期当主ということが分かったんだ。後はどう呪いを解こうか考えていたけど、……存外君に世話されるのは心地良かった」 優しく髪を梳かし、日毎に服を変え、甲斐甲斐しく世話をする。動かない自分に話しかけ、健気に笑う姿にいつしか惹かれていた。 リザベルはユノの額に音の鳴るキスをし、無防備な脚の間に手を這わせた。 「正直、この子は何なんだろう……って不思議だったけど。君が一族から酷い扱いを受けてることも知って、納得した」 それからは可哀想で、一刻も早く助け出したいと思った。だが意識はあっても身体は動かない。呪いを完全に解く方法が分からず苦悩していたとき、あの夜が訪れた。 服を脱いで自分の上にまたがり、泣きながら腰を打ちつける青年。不憫で、綺麗で、気が狂いそうなほどいじらしい。 「触って。って言われたときは、本当におかしくなりそうだったよ」 強引に押し倒して、その細い腰を奥まで突いてやりたいと思った。もう嫌だと泣き叫ぶ彼を、何十回も頭の中で抱いた。 「あ、あれは……その……違くて……」 「ユノ」 顔を逸らそうとするユノの顎を掴み、リザベルは囁いた。 「私は嬉しいよ。こうして、君に触れられることが」 「……っ!!」 熱い眼差しを受け、ユノの全身は火照った。 ( やばい ) 最低だ。彼にずっと意識があったこと。そして、彼で自慰してしまったこと。 ……それを全部知られてしまったこと。 耐えられなくて、今すぐ逃げ出したい。身を捩って起き上がろうとするも、腰を強く引かれて、性器をしゃぶられてしまった。 「ふあぁっ!」 「私を愛でてくれる君の視線が、本当に愛おしかった。だから呪いが解けたら、私が君を愛し尽くそうと思ったんだ」 じゅぷじゅぷと、聞くに堪えない水音が鳴る。 辛くて思わずリザベルの髪を掴んだが、むしろもっと強く吸い上げられ、悲鳴が浴室内に響いた。 「ユノ、イッて」 「や、う、……あぁあっ!!」 真っ赤に熟れた先端から、白い蜜が吹き出す。リザベルはそれを愛おしそうに舐め取った。 「君に触れることが私の夢になった。……叶えられて本当に嬉しいよ」 「あ、あぅ……」 全身を愛撫される。快感の余韻が強過ぎて、しばらく震えがおさまらなかった。 ……どうしよう。あんな、あんな恥ずかしいところを見られてたなんて。 死にたいなんてもんじゃない。自分が死んでも彼の記憶として一生残るなら、彼を道連れにして死にたいぐらいだった。 でもそれは身勝手にも程がある。彼に性器を擦りつけたんだから自業自得だし、これは罰なんだ。だから受け入れないといけないけど。 罰してほしいと言うには、彼の“お仕置き”は甘過ぎた。

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