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Episode31 穢レナキ夜【R18】
暗く冷たい牢の中で、独り眠る夜は心細かった。
格子窓から差し込む月の光は、フィンの白金の髪や白磁の肌をふと思い出させ、それだけで、寂しさが幾らか和らいだ。
傍らに在ることが当たり前になっていた温もりに、自分がどれほど支えられていたか。フィンと出会う前、私はどうやって夜を越えていたのだったか、もはや思い出せなかった。
――フィンを失うことが、これほど恐ろしいとは。
私は、初めてそれを知った。
だが、フィンもまた同じ恐怖を抱えていたのだと、あの日、私に縋りついて泣きじゃくる姿を見て、ようやく気づいた。
これまで、フィンは常に私を支え、導く側にいた。今度は、私がその支えとなる番だ。
そう強く思いながら、私は震えるその身体を、腕の中に閉じ込めた。
フィンの涙が落ち着くのを待たず、私はその唇を、自らの唇で塞いだ。
嗚咽に乱れていた呼吸が、一瞬だけ止まる。開いた唇の隙間から、深く舌を挿し入れた。
逃げるように奥へ引く舌先を、私は容赦なく追った。絡み合う舌の狭間で、涙の塩気が、微かに滲んだ。
白金の髪に指を絡ませながら、もう一方の手で衣服の前をくつろげる。
露わになった肌を辿り、腰の骨の稜線をなぞると、フィンの腰が僅かに浮いた。
「ふ……っ」
声にならない音が、喉の奥で震える。
――怯えているのか。それとも。
熱を帯びていくその吐息の意味を、私はまだ、正確には測りかねていた。
それでも構わず、私は熱を奪うように深く口づけを続けながら、指先だけを、これから繋がるべき場所へと滑らせていく。
窄まりが、微かに震えた。
「っは……、んっ」
舌の根元を舌先で緩く撫で、上顎の柔らかな部分をなぞってやると、しがみつく腕に、力が籠った。
唇の端から零れかけた雫を舐め取り、応えるように、再び舌を絡める。フィンの呼吸は次第に忙しなくなり、密着した胸板から、小さな鼓動が伝わってきた。
最後に一度だけ、深く吸い上げる。ゆっくりと唇を離すと、細い銀糸が、名残惜しげに互いの舌先を繋いだ。
「あ……」
濡れた睫毛の向こうから、潤んだ瞳がこちらを見上げている。
――渇いている。
そう思った。だがその奥に、僅かな怯えの色があることにも、私は気づいていた。
離れていた間、独りで過ごす夜が、どれほど心細かったか。
その怯えごと、埋め尽くしてやりたいと思った。
互いの荒い呼吸の音だけが、静寂を支配していた。
これまで幾度となく肌を重ねてきたが、今宵の静けさは、これまでのどの夜とも違っていた。獣じみた衝動も、罪悪感からの慰めもない。ただ、互いの存在を確かめ合うような、穏やかな時間だけが、そこにはあった。
久しく交わっていなかったフィンの後ろは、硬く閉ざされた蕾のようだった。
――これから、幾度も己で擦り上げてやれば。
終いには綻び、赤く熟れていくことを、私は知っている。それを思い描くだけで、腹の奥が疼いた。
懐から小瓶を取り出し、誂えていた香油を、その場所へと垂らす。人肌に温められた液体は、微かな甘い香りを纏いながら、とろりと窄まりを濡らしていった。
綻びかけた蕾へ触れると、そこは待ちわびていたかのように、あっけないほど容易く、私の指を招き入れた。
「ん、んっ……」
眉根が切なげに歪む。だがそれが痛みではなく、快楽によるものだと、すぐに分かった。
表情の変化を窺いながら、指を二本に増やす。くちゅり、と滑った水音が、空気を淫らなものに変えた。
私はあえてその音を聞かせるように、埋めた指で内壁を擦り、フィンの悦ぶ場所を、ぐっと押し上げた。
「っあ!」
背が、大きく反る。刺激を与え続けるほどに、細い体躯は反り返ったまま、びくびくと震えた。
あぁ、と切ない声が漏れ、蕩けた瞳を涙の膜が覆っていく。眦から零れた雫が、頬を伝った。
フィンの中心からは、透明な蜜が溢れていた。
――もう、待てない。
引き抜いた指の代わりに、私は昂ぶりを宛がった。先端は既に、私自身の想いを裏切らぬほど先走っていた。
フィンの脚を肩へと預けさせ、ゆっくりと、体重を落としていく。
十分に解れていたはずの隘路は、それでもなお狭く、粘膜が侵入者を拒むように収縮した。
「う……っく……ぅ、う」
苦しげに呻くフィンを可哀想に思う一方で、堪らなくそそられる自分がいた。
隘路が異物を拒んでいたのは、最初だけだった。最も太い部分を埋めてしまえば、粘膜は一転して、待ち望んでいたもののように絡みついてくる。
私はそこから、一息に、最奥を穿った。
「っあ、あぁッ!!」
悲鳴のような声を上げたフィンに、私は身を密着させ、唇を押し当てた。
震える唇を啄み、舐め、やんわりと食む。それだけで、乱れていた呼吸が、少しずつ凪いでいった。
久方ぶりであったが、フィンの中は、私のかたちを覚えていた。隙間なく、ぴたりと包み込んでくる。
「――大丈夫か」
「……っ……う、ぅ……」
息も絶え絶えに頷くフィンに、私は動かず、しばらくその髪を撫でた。
繋がったまま、私たちはしばらくの間、互いの鼓動だけを感じ合っていた。
フィンの中に収まる自身の形が、彼の呼吸に合わせて、微かに締めつけられる。その感覚だけで、腰の奥が焦れったく疼いた。
「――苦しくないか」
「……平気、です……ただ……」
「――ただ?」
「……嬉しくて。ヴィルが、生きて、ここにいることが」
その一言に、私は思わずフィンの額に額を合わせた。
互いの吐息が混じり合う距離で、しばらく、言葉もなく見つめ合う。
熱に浮かされた瞳が、ぼんやりと私を見上げてくる。
それだけで、下腹の奥の疼きが一段と強くなった。
――今すぐにでも、動きたい。
その衝動を、私はぐっと堪えた。そうして、努めて静かに、口を開いた。
「フィン。これまで、お前は常に、私よりも先を見ていた。私の知らないところで動き、私を守り、導いてくれた」
フィンは、浅く息をしながら私を見上げていた。
「今宵だけは、何も考えるな。策も、計算も、忘れていい」
「――殿、下」
「今は、ただ、私のために泣いてくれる、一人の人間でいてくれ」
フィンの瞳が、大きく揺れた。それから、堰を切ったように、また涙が溢れ出した。
「――ずるい……」
震える声で、フィンは言う。
「僕が……どれほど、気を張って、耐えてきたか……。それを、こんな、一言で……崩して、しまうなんて……」
「崩れていい」
私は、フィンの頬を両手で包み込んだ。
指を濡らす涙の温かさが、今は何よりも愛おしかった。
「私の前でだけは。誰よりも強いお前が、唯一、弱さを見せられる場所であっていい」
フィンは、何かを堪えるように唇を噛んだ後、静かに頷いた。
「――はい」
なおもはらはらと落ちる涙を舐め取るように、目元へと口付ける。
幾らか緊張のほどけた様子のフィンを見下ろし、私は熱い吐息を逃した。
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