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1章(3)
鬱蒼とした気分を抱えたまま慣れた道を歩いて目的地を目指していたせいか、やけに今日は早く辿り着いてしまった気がした。
嫌でも気分が沈むのは左手に持った花束のせいだ。質素な紙袋の隙間から、華やかな色が夜の中でも浮き立って見える。
良い花屋で良いものを選んで貰ったのだろう…そんな花を乱雑に扱うわけにもいかず、結局自分の荷物よりも丁重に扱っていた。歩きながら自分の鞄を一度落としたが、花だけはちっとも持つ角度を変えていなかった。可愛らしく天を向く花が自分の気持ちとは正反対で更に複雑な気分になる。
花に罪はない。
元来、物も動植物も乱暴に扱える性格ではないため、まるで自分が愛おしい恋人のために選んだプレゼントのように大切に手に持っていた。
夜が更けこんだ後も、程よく目を疲れさせない照明が照らすエントランスを通り抜ける。
華美過ぎず、それでいて見る者の目を楽しませる装飾をぼんやりと視界の中に収めながらエレベーターに乗り込んだ。
夜遅い時間だからこそ動作音が微かに響くものの、揺れることのない乗り心地の良さと綺麗に清掃が行き届いた狭い箱の中は、住民の格式の高さを感じさせる。
恋人が住むのはそういう場所だった。
最初はここに足を運ぶのすら引け目を感じていたが、今では特段気にすることもなくなった。
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