8 / 22

1章(7)

先ほどのように触れ合うだけのキスから始めるのではなく、すぐに舌を唇に這わせてくる。 唇をなぞられれば、自分のそれは抵抗なくすぐに開いた。 「ん、んんっ…」 唾液で濡れてぬる、とした感触の舌があっという間に侵入してきて、そのまま舌を絡め取られる。 「……湊」 先ほどまでとは打って変わり、呼吸の合間に安堵をもたらす声で名前を呼ばれて、無意識に甘い息を吐き出した。 「ん、んっ、ふ…」 甘い口付けを施し、柔らかな蕾を優しく開かせていくようにゆっくりと情念の火で身体を熱くさせられていく。 手のひらで頬から耳の付け根までゆっくりとなぞられ、唇を重ね合わせながら口内で舌を吸われて唾液を啜る音が響いた。 「は…ん、……ふ、ぁ…」 一度、ほんの僅かにだけ唇が離れるが、吐息が触れ合うほどの近さのままだった。 頬に添えられた手のひらの体温を感じながら、自分の中の高まっている熱を感じる。 その間にも、うっすらと開いた唇の間から舌を差し入れられ、粘膜を舌先で嬲られてどんどん敏感にさせられていく。 「瑞樹……」 息を呑む音が聞こえそうなほど近い距離で真っ直ぐに見つめられ、胸が高鳴る。 長い睫毛が瞬きに合わせて上下し、漆黒の瞳は夜の深い闇を思わせて吸い込まれそうになる。気持ち良くて、恋人の名前を呼ぶ声すら甘さを含んだ吐息交じりになってしまった。 「相変わらず、キスが好きだな」 「ん、……瑞樹」 名前を口にした隙をつくように、開かれた唇の間からより深く舌をねじ込まれて、口内を淫らに掻き混ぜられる。 くちゅくちゅと響く水音に、下腹のあたりに熱が落ちていく。 纏っていたシャツのボタンを、器用にも片手だけで手際よく外されていくのが分かった。少しずつ外気に晒されていく感覚に肌が震える。 自分の口が、抗議の言葉を何も紡いでいないことには気づいていた。 「っぁ、あ……は、ん……ん、」 瑞樹が華奢な顎を指先で持ち上げる。 逃げる舌を捕まえられ、溶かしていくように執拗なキスをしてくる。舌が触れ合う度に身体の内側から熱が広がっていくのを感じた。 「は……っ」 短い吐息を吐き出してから、瑞樹の指先がぷっくりと尖ってシャツの上から形を透けさせる胸の先端を弾く。 「んっ、ん…あ、ふぁ……っ!」 キスをしながら触れられて、甘い声がくぐもったまま漏れ出てくる。 いつの間にか、瑞樹のきめ細かな肌を持つ首元へと両腕を伸ばし、絡めていた。 「湊……、みなと、」 「ふ、ぅん……っ、あ、あ…」 執拗な長い口付けが終わって、心地良い緩やかな快楽に身を任せるように閉ざしていた瞳を開ける。 どちらのものか、判別ができない唾液で濡れた唇を舐めるその表情がいやらしく見えて、思わずそれに見惚れてしまった。 「は、ん……っ」 恋人の艶っぽい表情には弱かった。 あまりにも整った顔をしているものだから、そうした表情をされると勝手に肌がぞくぞくと震えて次のものを期待してしまう。 「ん、……」 彼は、もう一度唇に触れるだけのキスをして、そのまま喉に柔く歯を立て舌を這わせ、鎖骨にまで情の痕を刻んでいった。先ほどの花びらのような赤い痕が出来上がる。鎖骨の窪みを舐めて、きつく吸われると勝手に吐息が漏れていく。 「あっ」 膨らみのない平らな胸に指を這わせ、ボタンが全て解けたシャツを左右に開かれる。スラックスのベルトも外されていく音が聞こえた。 熱を持った身体に、ひんやりとした空気が過ぎ去っていく。 汗ばんだ肌をゆっくりと舐められ、決定的な刺激を与えられないもどかしさに体の中に溜まった熱がどうにかなってしまいそうだった。 「は、ぅ……やっ、」 触ってほしい。 そう思ってすぐに、瑞樹が小さな突起に舌を這わせて口に含んでしまう。 「あっ、あっ、…っぁ」 羞恥心を煽ることが目的なのか、わざと淫猥な音を立てるようにしゃぶり、控えめに存在を主張する突起を更に硬くさせていく。 「は、あぅっ、んっ、……あぁッ」 唾液を乗せた熱い舌が突起を舐め上げ、優しく歯を立てながら甘噛みする。 もう片方の乳首を指先で強く摘ままれ、指の腹でこねくり回されると、背筋を電流が走っていくような快感に襲われる。 「あっ、は……っ、んんっ、ん」 あんなにも気分が乗らなかった自分が嘘のように、施される愛撫を受け入れて快感の炎を大きくさせられる。 指で、舌で、絶妙な力加減でそこを弄られると下腹部がうずうずとしてしまう。 もっと先を知っているからこそ、強請るように腰をくねらせる。求めるように、自分の間にある腰を太腿で挟んでしまう。 「嫌と言った割に、抵抗しないな」 少し笑われながらそう言われて、自分に対して少しだけ羞恥心を抱いた。 浮気をしているのだと目の前で認められていても、この男と触れ合って抱かれることを心の底では期待しているのだ。嫌だと理性では思っていても、身体も心の奥底も、この男にとっくに陥落させられている。 「や、やめ……っ」 「拒絶するな」 胸から腹へと、肌に触れる髪が移動していくのを感じて、反射的に足を閉じる。胸の上から腹の方へと身体をずらしていきながらも、肌にキスをして時折舌で舐めてくるから震えてしまう。 十年かけて丁寧に開かれていった身体だ。持ち主の意思を裏切り、この男に対しては一切逆らうことなく素直な反応を示していく。 「酷いことはしない。足を開け」 覆い被さっていた身体が、一度完全に離れて見下ろされる。 もどかしくて、次の強い刺激が欲しくて彼の腰に足を絡ませていたというのに、何をされるのか想像がついて余計な力が入ってしまう。 「湊」 もう一度覆い被さって、耳の付け根に吐息を吹きかけながら低い声で名前を囁かれると、びく、と身体が跳ねて這い上がってくる何かを感じる。彼の声には逆らえない。逆らえないというよりも、囁かれたら途端に蕩かされていく感覚だった。 余分な力が抜けていった太腿をひと撫でし、瑞樹の手が自分の足を左右に開くのが分かった。 「あっ、や、…っ!」 性器に指が絡みついて、口に含まれる。 ねっとりとした熱い粘膜に包まれて、少しだけ足を暴れさせるものの、いとも簡単に押さえつけられて終わる。 「ひっ、ん…、あ、ぁ、は……ッ!」 舐められる感覚には、未だ慣れることがなかった。 直接的に伝わってくるぬろぬろとした舌の感覚に全身が震えて、熱っぽくなっていくのを感じる。 「あ、い……っ、あ、あ…はぅ、んっ」 尖らせた舌が先端を割るように舐めてくる。口淫をやめさせようと太腿の間で動く彼の髪に触れるものの、力が入らなくてまるでもっとと強請っているようになってしまっていた。 「………舐めて」 「く、ぅん……っ、ん、ん、」 一度性器から口を離し、瑞樹が見下ろしながら片方の指を銜えさせてくる。 小さな唇を割って入り、指を二本、三本と口の中に押し入らせて舌を撫でてきた。長く、形のいい指が口内を遠慮なく弄っていく。隙間から懸命に呼吸を繰り返し、頬を上気させている自覚がないままその指を舐めた。 「んっ、うぅん…ッ、ふ……っん」 「お前の身体は、本当に……いやらしくて可愛いな」 少しだけ冷えた現実に引き戻された頭で考える。 ───誰と、比べているんだか。 どんどん溢れてくる唾液で指を濡らし、舌を這わせながら瞳を閉じた。 冷えた現実なんて、今この場にはほんの些細な棘にしかならなかった。

ともだちにシェアしよう!