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2章(7)

瑞樹のマンションまでは直線距離にすると近い方なのだが、電車で行くとなると路線が限られているため所要時間が結構かかる。 しかし、それは学生の頃から変わらない。 そして身に染みた習慣というのは大したもので、今日のこの移動の間に何をするかも特段変わらずにいられたのだ。窓の外を見るか、目を閉じるか、たまに本を開いて三頁で閉じるか。 携帯を見る必要はない。仕事は全て片付けてきたのと、緊急の連絡が入るような案件を今は抱えていない。そして、あの人から何か返信が来ることもない。連絡が来ない端末を確認する必要なんて、どこにもなかった。 今日の移動は窓の外を見ていた。 何を見るわけでもないが、見るわけではないから決められたことがあった。 探さないこと。 あの人の部屋で、何かを探すようなことは絶対にしない。 玄関の靴だとか、忘れ物だとか、匂いだとか、髪の毛だとか、何かだとか。 そういうものを探し始めた人間が、その先どうなるのかは見たことがなくても想像だけはできた。自分がそんなものを探してもし見つけてしまえば壊れるし、探して見つからなくても、探したという事実だけが自分の中には一生残って、それがまた次に会う日を汚してしまう。見つかるまで探し続ける、そしてまた空白に隠された何かを綺麗にできないまま過ごし続けることになってしまう。 だから探さない。そう決めた。 歩きながら、ふとぼんやりと姿が映る鏡を覗いてみたが、決意をした人間の顔ではなかった気がした。ただの、疲れた会社員の顔である。仕事終わりの、否──…。 途中で無糖の紅茶を買っていたが、その動きは記憶になかった。ただ、手に持っていたから、マンションまでの道のりの間で鞄の中へと入れて、それは一口も飲まずに存在を忘れてしまった。 質素なカードを取り出し、それから扉の前で立ち止まる。 探さない。探した先には何もない、何か見つかっても、見つからなくても、その先は暗闇になってしまう。だから、探さない。 扉の施錠を解除する。 「お邪魔します」 小さな電子音が聞こえドアノブに手をかけて、いつもよりも丁寧に、ゆっくりと敷居を跨いだ。

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