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第18話 声混線③*

「ジン」  呼びかけても、肩をいからせた後ろ姿は反応しなかった。レイの腕をつかんだまま、無言で廊下を歩いていく。 「ジン、どうしたんですか……?」  突き当たりの部屋は、空き部屋になっていた。ジンはそこにレイを引っ張り込むなり、閉めたばかりのドアにレイを押しつけた。 「なあ」  ガチャンと鍵が回る音がする。レイはまだ混乱したまま、ジンを見上げていた。 「今の、何してたんだよ。あんた、手には絶対触られたくないんじゃなかったのか?」 「はい。ですから、素手ではなかったでしょう」 「素手じゃなければ、誰でも触るのか?」 「必要なときは、そうしますが……」  ますます不機嫌そうに寄っていく眉が、レイは本気でわからなかった。 「きっとあなたは聞いていたと思うが、今回の件に関係がありそうな霊を、あの子に憑かせました。これで合宿地まで、本人含めて全員に悪さはされないはずですが、それを確認するために――」 「そんなものに触るな」  ジンが、口を引き結んだ。大きな手がレイの手をとって、そのまま彼の胸へと導く。 「……俺は?」  手のひらの下で、彼の鼓動が激しく脈打っていた。 「俺のことも、確かめてくれよ。触るんなら、死んだ奴じゃなくて、ちゃんと生きてる奴にしてくれ――」 「ジン、落ち着いてください」  鼻の奥に、危険なバラの香りが漂い始めた。レイは彼を宥めようと、少しだけ胸をさすってみた。 「悪意がなければ霊に害はありませんし、触れたぐらいでどうもなりません。これまでもずっと、私はそうしてきましたから――」  それを聞いたとたん、前にも見た不可解な絶望が、ジンの瞳を真っ暗に染めた。 「――じゃあ、俺が確かめていいよな」 「待っ……」  制止を待たず、ジンはレイを抱え上げ、部屋の中央にあった大きな机の上に押し倒した。リボンタイに指がかかり、ボタンが次々と外されていく。  胸を撫でる空気にレイは身を硬くしていたが、やがてジンの手がベルトにかかると、ゆっくりと力を抜いて机に背を預けた。服を乱され、無抵抗に横たわるレイに、覆い被さってきたジンが顔を歪めた。 「……どうして、抵抗しないんだよ」 「好きにしていいと、言いましたから」  レイは静かに答えた。裸の胸に額をつけて、ジンが苦しそうに呻く。 「嫌だって、言えよ。やめろって。殴ってでも止めろよ――」 「いいえ」  天井を見上げたまま、レイは呟いた。 「あなたがそうしたいのなら、確認すればいい。これがずっと、安心するための方法だったのでしょう?」 「違う、」  ジンの声は、ひどく狼狽していた。それでも、下腹部をまさぐる指は止まらなかった。 「あんただけだ。なんでか、あんただけなんだ。俺が、ここまで――」 「――あっ」  急にぬるりと性器を襲った刺激に、レイの身体が大きく跳ねた。見下ろすと、きつく眉を寄せたジンの顔が、脚の間に沈められていた。舌が巧みに動くたびに、快感が火花のように弾ける。たまらずに手袋を噛むと、すぐにジンの手がそれを抑えた。 「噛むな」  両手を掴まれ、自分の膝を開いたまま抱えるように誘導された。 「俺に触れたくないなら、せめて自分に触れていろ」 「これ、は……!」  バラ園の時から、ジンはレイの羞恥を煽ることに、ことさらこだわっているようだった。それがレイの反応をよく引き出す方法だと、本能的にわかっているのだろう。隅に残った理性の欠片でそう考えながらも、レイの身体は止まらなかった。熱い舌に数回締め上げられ、ほうぼうに転がされるうちに、レイはジンの口内に精を放っていた。  最後の一滴を飲み干すやいなや、ジンは立ち上がって、再び覆い被さってきた。いつの間に前をくつろげたのか、自分のものをレイの股間に押しつけて擦り始める。まだ解放の余韻の中にいたレイは、さすがに焦った。 「待ってください、まだ……休ませて、」 「悪い」  そう言いつつも、ジンは止まらなかった。熱が捩れ、深く沈み、再び膨れ上がっていく。ジンは片膝を上げて、さらにレイの上へ乗り上げた。重石のような快楽が、レイの全身を押さえつけ、嵐の中に閉じ込めた。 「悪い……レイ」 「んっ、は……っ!」 「俺が、悪いから……ごめん、」  繰り返される懺悔と同じ強さで、何度も何度も腰が打ちつけられる。レイの声と汗が飛ぶたびに、低い息遣いがそれを飲み干した。同じリズムで、レイは必死にジンへ手を伸ばし、ぎこちなく背中をさすった。この全ては、自分が許可したことだ。そう思えば、勝手に揺れる自分の腰に、初めて言い訳ができた。  突き上げる重さに押し出されるようにして、間もなくレイは二度目の精を吐き出した。一呼吸遅れて、ジンの放った白濁が、涙のように腹を濡らした。  空き教室には、不揃いで忙しない呼吸が響いていた。ジンはレイの頬に手を伸ばしかけたが、途中でぐっと握りしめて、ゆっくりと身を起こした。  震える膝をようやく閉じながら、レイは自分の身体をぼんやりと見下ろした。全身が汗と体液にまみれ、擦られすぎた肌が赤くなっている。いつの間につけられたのか、鬱血痕も見えた。 「シャワーが浴びたいです」  そう呟くと、ジンはポケットの一つを探って、長方形の平たいパッケージを取り出した。濡れた不織布のシートで、レイの身体を拭っていく。 「……相変わらず、用意が良いですね」 「このために持ってきたわけじゃないぞ」  ジンは弁解するように言った。 「もっとやわらかいのがあれば良かったんだが。でも、あんたがシャワーを浴びたいって言うから――」 「そうです。私が言いました」  レイは、頭を起こしていた。丁寧に自分を拭い続けているジンへ、静かに微笑む。 「だから……これは、気持ちが良いです」  ジンの瞳が大きくなり、手が止まった。長いこと、彼は無言だった。やがて、次のシートを再びレイの肌に滑らせた時、その手はことさらに優しかった。 「そうか。……それなら、よかった」  ジンが微笑んだ。レイが初めて見る、穏やかな笑みだった。

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