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第27話 休息②
「……ああ」
ジンはまだ何か言いたそうだったが、さすがに死体の前でこれ以上個人的な議論を続けるほど非常識ではないようだった。レイは、一つ横の倉庫に移動していた霊の影を見つけ、近づいて見上げた。
「あなたの〈残声〉は「どうして俺が」でしたが、それに重ねて犯人のような別の人物の声もしていました。私がはっきり聞こえたのは「急がないと、次は」まででしたが、あなたはその続きを聞きましたか?」
霊が頷くような仕草をした。レイはジンに目でそれを示してから、再び霊に向き直った。
「では、続きを教えてください。どこかの場所ですか? いえ、違いますね。誰かの名前ですか? 殺し方? それとも……」
死者の霊は、声を持たない。首を振るか肩をすくめるかの反応を見ながら、次々と質問をして答えを探していくレイを、ジンは不思議な表情で見つめていた。
「なるほど、時間ですか。来月? ああ、もっと具体的な日付ですね。10月? ……もっと近いですか?」
レイの声がだんだん険しくなり始めた。
「9月ですね。30日……20日……ええと、19……18。……待ってください、もしかして……」
レイは、ジンと顔を見合わせた。
「……今夜か」
「はい。今夜、次の未来死体が作られる……」
遠くで打ち付ける波の音が、急に大きくなった。
「それなら、急がないと」
ようやくジンが背筋を伸ばした。
「これ以上、誰かを死なせてたまるか。俺が絶対に助けてやる」
「しかし、犯人の目星がつかないことにはどうにもなりません」
レイは眉を寄せた。
「保険会社も、結局足が掴めていませんし。ひとまず警察に通報して、このご遺体を鑑識で分析してもらいましょう。 それで、今日中に何か手がかりが出れば良いのですが……」
再び遺体を見つめたレイは、ふと違和感を覚えた。これまでの事件では、未来死体は目撃されたすぐ後に消えていた。今まだここにあるのは、他の目撃者と違って、レイが逃げ出さなかったからだ。ということは……。
「ジン」
レイは急にジンの腕を引っ張った。驚いて傾いてきた耳元へ、早口の無声音を囁く。
「今、この周辺に、人の音はありますか」
「え?どうして――」
「今までの死体は、誰かが置いて、誰かが隠していた。そのためには、今この近くにも、犯人側の誰かが潜んでいるはずなのです」
ジンが息を呑んだ。すぐさま目を閉じ、彼にしか聞こえない音に耳をすませる。ゆっくりと回った頭が、ある方向で止まるなり、ジンはさっと背筋を伸ばした。
「あっちだ。あの倉庫の中に誰かいる」
「了解です――あ!」
すでにジンは、走り出していた。レイが通路の端まできたところで、三つ向こうの倉庫にいる彼が見えた。助走をつけて壁を蹴り、窓の下枠に片手を引っ掛けて、軽技のように登っていく。その時になって、ようやくレイも、ジンの目が捉えているものを見た。屋根の上を、灰色のパーカーを着た人影が危なっかしい足取りで逃げていく。
しかしさっと視線をめぐらせたレイは、思わず叫んだ。
「だめです、そっちから登ったら間に合わない……!」
一歩遅かった。ジンと反対側からロープを伝って降りた人影が、脇に停めてあったバイクで走り去っていく。レイは一応ナンバーを記憶したが、役に立たないことはわかっていた。一時間後には、おそらくどこかに乗り捨てられているだろう。
「ありがとうございました」
声に悔しさを滲ませないように気をつけて、レイは屋根から降りてきたジンを労った。
「こんなところ、素手で登れるとは思いませんでした。取り逃しはしましたが、人がいれば必ず痕跡は残ります。よく辿れば、髪の毛でも落ちているかも――」
ジンの顔を見たレイは、思わず言葉を切った。
彼の顔は真っ白だった。
レイの背筋が自然と伸びた。
「……あれが誰だか、知ってるんですね」
「レイ……あいつだ」
遠くで聞こえるエンジン音にまぎれて、ジンの声は掠れていた。
「あの歩き方、あの咳混じりの呼吸――リバイブ・コーヒーの店主だよ」
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