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第36話 終わりのない環①
身体の中をこじ開けられたような苦しさで、レイは意識を取り戻した。息を詰まらせて咳き込むと、顔を覆っていた何かがぱっと離れ、代わりに自分の名を呼ぶ声がする。
「……イ! レイ! 聞こえるか? しっかりしろ!」
レイはゆっくりと目を開いた。ぼんやりとかすんだ視界は、先ほどまでの暗闇とは違って、一面がうるさい金色に輝いているようだった。
「ジ、ン……?」
今度その音を聞いたのは、ジンだけではなかった。周囲の空気が一気に沸き立ち、慌ただしく号令が飛び交い始める。
「戻った、意識あり!」
「受け入れ要請継続しろ! 搬送準備!」
「レイ、苦しくないか? どこか痛むか?」
頬を包んだ手は氷のように冷たく、小刻みに震えていた。ジンがこんなに酷い顔をしているのをレイは初めて見た。
「大丈、夫……」
レイは頷きかけたが、ふと赤黒く汚れたジンの腕が目に入り、目を見開いた。何かで引っかかれたように、ウェットスーツがギザギザに裂けている。
「それは……?」
「気にするな。たいしたことない」
ジンは傷に見向きもしなかった。ただレイを見つめ、命を確かめるように視線で顔をなぞっていく。
それから、いきなり手をのばして、あらん限りの力でレイを抱きしめた。
レイは息をのんだ。きびきびと動く隊員たちを気にして、とっさに身じろぎしかける。しかし、それもできなかった。彼の顔がうずめられている首筋に、熱いしずくがぽたぽたと落ちてきた。
「……怖かった」
くぐもった声は、聞き取れないほどに小さかった。
「間に合わないかと思った。本当に、怖かった……」
そのとたん、レイの瞳にも熱いものがこみ上げてきた。喉が詰まって、うまく話せなかった。わずかに顔を傾けて、彼の耳元へ問いかける。
「ジン。聞こえますか」
伏せられた頭が、力強くうなずく。
「……ああ。聞こえる」
ようやく身を起こしたジンへ、レイはうっすらと笑ってみせた。
「私は、大丈夫です」
数日前にもたった一度だけ、世界がこんなに鮮やかに見えたことがあった。今、最も高く上った太陽を背に、金の瞳から滴り落ちてくる光もそうだった。
「だって……あなたの目の前では、誰も死なないのだろう?」
ジンの顔がぐっとゆがんだ。それから、深く息を吸って、今度こそレイに笑顔を向ける。見慣れた、〈英雄〉の笑みだった。
「ああ。もう大丈夫だ。——絶対に俺が、助けてやるから」
レイは頷き、ゆっくりと目を閉じた。黒い手袋を失った片手で、顔に添えられたジンの手をそっと握る。ジンが息を呑む音が聞こえた。
じわりと滲み出たレイの涙が、笑みの形に弧を描いた目尻を伝い、二人の手をあたたかく濡らしていった。
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