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幕間■コンドライト

 私は間違っていなかった、と断言できる。  父の訃報は予想外のタイミングだった。もう少し早ければ、あるいは遅ければ、この国の未来は兄の手に当たり前のようにゆだねられたのかもしれない。  私の兄は優秀だった。  慈悲深く、勇敢で正しく、そして少々不器用だった。  兄は正しすぎたのだ。  私は今でも彼の当時の選択を『馬鹿だなぁ、どうしてかなぁ、そういうところだよ本当に』と思っている。  確かに父は身内に甘く、面倒事が嫌いで、こと財政に関してはほとんど関与することは無かった。その甘さが、腹心の横領を許したことは明らかだった。  とはいえ、民の命が無駄になったわけではない。正すべき悪事ではあった。しかし、糾弾するにしてももっとやりようがあったのだ。  正しすぎる兄は真っ向から父に歯向かい、そして父の周りを固めていた腹心の反感を買った。  そのタイミングで父の急逝である。まあ、なんというか――悪い噂が立つための素材は山ほどあったというわけだ。  その正しさを家臣に疎われた兄は、特に反発するでもなく家督を私に譲った。私もその選択を咎めなかった。ありがたく、そしてそうあるべきだったというツラをして兄に渡るはずだった国を掻っ攫った。  そうするべきだった。  兄は正しく素晴らしい男だが、国を背負うには優しすぎる。私はその気質を愛していたが、国の主になるにはズル賢さが足りないなぁと心配していたのだから。  だがまさか、国を出ていくとは思わなかった。  本当に、そういうところだ。そのあまりにもクソ真面目な所が好ましくて恨めしい。私は数年兄の代わりを務めこの国をイイ感じに整えた後、兄に受け渡すつもりだったというのにもう本当にあのクソ真面目男は潔癖すぎるのだから――。  しかしこの時の選択は、間違っていなかった。  やはり民はみな善人とは言い難く、阿保も馬鹿も悪人も織り交ざっているものだ。どんな者でもみなこの国の宝だと、よき主を気取ってほほ笑むのは時に辛い。やはり兄には荷が重い。  私は間違っていない。  ただ、今すぐ帰ってきてくれるなら勿論大歓迎するのに、と、何年ため息をついただろう。間違っていない故に後悔はしていないが私の心に空いた穴のような虚しさは、妻と子の笑顔で満たしても少しだけ余るのだ。  ああ、いつか――あの国へ、兄を探しに行ければよいのにと。  そう願っていた。まさかその掛け捨てだと信じていた願いが叶うとは、思ってはいなかったのだ。  兄は、ちっとも変わらぬ苦笑を見せた。私の好きな、正しくて優しくて不器用な苦笑だ! 「お帰り、兄さん」  ちょっと泣きそうだ。うん、泣いてもいいような気がしてきた。というかもう鼻声だ。  きっかり十年ぶりの再会に、少しだけ精悍さを増した懐かしい顔の兄は頬を緩ませ『ただいま』と言ってくれた。  ただいま。ああ、なんていい響きだ。彼の言葉に感動を受けつつも、私は胸の奥で不安を募らせる。  ……この人はまったくもう、本当に、タイミングが悪い。  きっと私はこの後、彼を幻滅させる話をしなくてはいけないのだ。

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