26 / 30
幕間□スタトゥアリオ
間違えることが怖かった。
だから私は、選ばなかった。
成長期は王族教育期間だった。それは、誰もかれもが、好き勝手に理想の『王族像』を口々に押し付ける時間だった。
無理もない、と達観できたのは王族の責務からやっと逃れた後――ひときわ暗い牢獄の孤独の中だった。
私の先代は酷い浪費家で、その前の王は絵に描いたような暴君だった、と聞いている。成長が止まると同時に直ちに王になる事を求められた私は、ほとんど幽閉状態で暮らした。
寂しくは無かった。世界で一番愛おしい者と常に一緒だったからだ。
いつから……いつから私は、彼の瞳を見ることが怖くなったのだろう。その清らかな鈍色の瞳は、いつでも私の怯えや恐怖を曝け出して冷ややかに息を吐く、そんな妄執に取り憑かれた。
間違えることが怖かった。
これ以上、どんな感情を向けられることも怖かった。
呆れられるくらいなら、嫌われるくらいなら、無関心でいてくれた方が良い。そちらの方が楽だ。
私が彼に抱く感情はそのまま、他の民や王宮の民に向ける感情と同化した。
頭の中は常に恐怖と切迫感で満ちていた。間違えてはならない、私は王なのだから。
だから私は、間違えることのないように選ぶことを辞めた。
暗君と、嗤われようがどうでもよい。私の選択で私が責められるよりも楽だから。
しかしあの麗しい鈍色を手放した今、漸く私は己が『選ばない』という愚行を選んだことに気が付いた。
間違えることを恐れた私だというのに、やはり、私は間違えたのだ。
今更、許してほしいなどと乞うことさえ許されないだろう。
それでも、一縷の望みをかけて顔を上げる。しかし本来の輝くように美しい白い瞳は私を映すことはなく、彼はただまっすぐに前を向いていた。
許されたい、などと言う幻想は捨てるべきだ。私は彼の人生の大半を、己の為に消費したのだから。
今は許しを乞う言葉を探すよりも、優先すべきことがある。
久方ぶりの外套は重い。それでも私は、首を垂れるわけにはいかない。
私は、もう間違えを恐れるわけにはいかないのだ。
ともだちにシェアしよう!

