29 / 30

22◆オプシディアン|ねやのうち

 受け入れてもらえる、ということの、例えがたい甘美さを知る。 「ディアン……っ、ぁ、も……、むりっ、無理、っ」  組み敷いた愛おしい人が、腕を伸ばし縋りついてくる様を見降ろしながら、湧き上がる感情を殺さず吐き出す。  そんな行為が許されていることが信じがたい。俺はいつも、常に自分を偽って生きてきたから。 「苦しい? 辛い? ……少し、休みますか?」 「ぁ、違……っ、きみ……ずっと、そんな……、ん、っ……浅い……ところばかり、しつこく、擦るから、ぁっ……!」 「奥のイイところを刺激してしまうと、すぐにイってしまうでしょう? いくら貴方が殊の外身体を鍛えているとはいえ、そう何度も射精したら、流石にお辛いでしょうから」 「馬、鹿、こんなっ……ぁ、待っ……ん、こんな風に、ぁ、焦らされる方が、きつい……っ」 「……しつこい俺がお好きなのでは?」  甘えるように囁くと、組み敷いた身体がびくりと震えて恥じらうように視線を逸らした。可愛い、好きだ、たまらない。  全力で、全身で、俺を受け入れてくれているアラスタに甘えてしまう。  好き? と問えば間髪入れずに好きだと喘いでくれる。その疑いようのない好意は、徐々に俺を増長させた。  隠さなくて良い。偽らなくて良い。  素直にすべてを曝け出しても、この人は動揺しても拒絶はしない。  俺はそれを知ってしまっている。  その安堵感が、快楽的な行為をより一層甘やかにする。  きみがいい、などという言葉は、生まれ故郷で聞いたこともないものだった。あからさまに純血ではない俺は幼少期からわかりやすく差別され、父にさえ持て余すような扱いを受けた。  まあ――国を治める頭首の子が、外の国の血を引くという事実は受け入れがたいものだろう。深いブラウンの髪を持つ俺は、どう見ても明の民だった。  コンドライトはそれでも俺を庇うこともあったが、正しい政治家である弟は事実として『兄さんは他の民と違うから仕方ないね』と口にした。  アレはアレなりに、俺を好いてくれていたとは思う。下手に私情を持って庇わなかったのは、アレなりの誠意に違いない。  しかし、あの国で俺は生きて行けなかった。  きみがいい、と言ってくれた者たちの多くは、グラスウォールの民達だ。  ――きみがいい。他の誰でもきみの代わりにはなれない  そう言い切ったアラスタの言葉を、生涯忘れないと誓う。その感動を思い出しながらも、目の前で乱れる官能的な男に緩やかに腰を打ち付ける。  可愛い、愛おしい、大切にしたい。そんな甘い気持ちと共に、誰にも曝け出していない官能的な彼を貪りたい欲望を抑えきれない。  己の快楽などどうでもいい。  ただ、彼の身体を隅々まで開きたい。  二度も精を放ち散々俺に嬲られた男は、可愛そうに息も絶え絶えだ。  普段から止めても止めても鍛錬を積むので、アラスタは思いのほか細くはない。服を纏えば背の高い美女に見えなくもないが、引き締まった身体を晒すと、途端に精悍な美青年へと変貌する。  いや、別に、顔に惚れたわけではないが――それはそれとして、美しいものは美しいし、俺の好きな男が快楽に喘ぐ顔はたまらないと思う。  汗でべたつく身体が淫猥だ。  明の民の汗は、かすかにミールと似た甘いにおいがする。……もしや精液も甘いのだろうか、と、先ほど舐めたら酷い顔で怒られた。  この調子では性器を口で愛撫でもしたら、口をきいてもらえなくなりそうだ。……もう少し慣れてからにしよう。それか、理性が完全にぶっとんでからならバレないかもしれない。  今はとにかく繋がったまま、緩やかに追い立てることに集中する。  浅ましいやり方だ、という自覚はある。  しかし浅い呼吸で口を閉じられず、じれったそうに腰を揺らす様は甘美どころの騒ぎではない。その淫靡な仕草全てを俺だけに見せていると思うと、胸の奥が甘く震えた。  可愛くて、おかしくなりそうだ。  俺には彼の魅了加護は一切効いていない筈だが、もしや何かの手違いで魅了に掛かっているのではないか、と不安になる程だ。  俺は彼のさっぱりとした性格に惚れた。その生い立ちとあまりにも残酷な過去に同情し、それでも他人を厭わない爽快な好漢っぷりに惹きつけられた。その上俺などに惚れたと言って憚らないその言葉に落とされた。  しかしこうも甘い性行為に溺れてしまうと、性格が云々などと言うのは言い訳に聞こえてしまいそうで困る。  ……だがあのアラスタが、一糸まとわぬ姿で肌を摺り寄せ、あられもない声を抑えずに俺を求めている様に、興奮しないわけがないだろう。 「はっ……ん、ぁ、何か……今、ちょっと、きみの、んっ……イチモツは更にデカくならなかった、か……?」 「イチモツ……」 「なんだ、娼婦みたいに言ってほしかったか……? いや、娼婦がなんと表現するのか、僕は知らんが……今度ヴァーダに聞いてお、くっ!? 待っ、急に、動く、な……っ、ぁっ、ひっ……」 「不躾な質問を彼女にしないであげてください――俺は貴方の言葉の、少し世間からずれた感じも好きなんです。……俺のイチモツは、貴方を満たしていますか……?」 「あっ、だから……っ、そんな、浅いところ、ばっかり……っ、ん……っ、もしかして、きみは、僕に、破廉恥なおねだりを、させたいのか……?」 「…………………」 「……ディアン?」 「あ。いえ、すいません、考えもしなかった提案を頂いて少々想像してしまいました」 「……この責苦はおねだり待ちじゃなかった、のか……?」 「違いますよ。ただ俺が貴方をじっくりと味わっていたかっただけです。それに……」 「んっ、ひ――ぁ、ッ!?」 「たくさん焦らした方が、気持ちいいところの感度が、あがるでしょう?」  ずるり、と、奥の方まで腰を打ち付けると、組み敷いた身体が小さく飛び跳ねる。柔らかく俺を飲み込んでいる部分が、快感に驚いたようにぎゅうっと締め付けた。 「――――……ッ」  思わず少し、息を飲む。目を細めて快楽を逃がすと、うっすらとした視界に映ったアラスタが、蒸気した顔のまま苦笑した。 「……っ、は……くそ……っ、じっくり、味わいたいって気持ち、今ちょっとわかったぞ……きみ、気持ちイイときの顔、エロいな……?」 「そうですか……? 俺に突かれてあられもない声を上げる貴方の方が数段エロいと思いますが」 「ん……、今の顔、もっかい見たいな……待ってくれ、ちょ……話変わって来たぞ……」  深く貫いた状態のまま、アラスタは快感を逃がすように眉を寄せながら呼吸を整えている。  こんな状況でもそれなりに普通に会話をしようとするところが、非常に彼らしくて好きだと思う。  次に、何をしでかすかわからない。そういうところが可愛くて良い。 「待て、待っ、本当に一回待て、もしかして僕ももっと頑張れば、きみのエロい顔見放題なのか……? 今まではちょっと、なすがままされるがままでいっぱいいっぱいだったが、別に、僕だけがご奉仕されまくる行為じゃないもんな……?」 「攻め手を交代したい、ということですか?」 「違う。別に僕はきみにぶち込みたいとは思わない。たのむからしてくれと言われたら挑戦するが、いまのところこの役割を気に入ってる――その、わりと、気持ちイイし、うん。ただ、この態勢だとちょっと一方的すぎないか……? 例えば僕がきみの上に乗っかれば、きみを良い感じに翻弄できたりしないか?」 「……とんでもない提案をしてきますね。本当にこれが初体験なんですか?」 「紛うことなき童貞だ。そういう手ほどきを受けたこともないし、猥談の経験もない。僕の人生のほとんどは軟禁だったし、軽口を言い合える友人も皆無だった」 「だったらこれはお願いですが、そういう可愛らしい猥談を、どうか俺以外の民に口にしないようにしてください」 「……ヴァーダも駄目か?」 「ヴァーダも駄目です」  何故この人は、とりあえずヴァーダに相談しようとするのか……。  確かに彼女はあまり過去を気にしておらず、あっけらかんとした女性ではあるが、それでも王都での生活を思い出させるような話題を振るべきではないし、そもそも人妻になんてことを相談する気なのだ。  仲が良いのは結構だが、シモの話で彼女を困らせるのは不本意だ。 「わかりました。今度別の体位を試してみましょう。やりたいことや疑問があれば、直接俺に言ってください。他の民を困らせることが無いように」 「僕は猥談も許されないのか……」 「薬を飲んでいるとはいえ、魅了加護が無くなったわけではないんですよ。貴方の顔でそんな際どい事を言われた者が、よからぬ気を起こしたらどうするんですか……」 「きみに助けを求める」 「……即答しましたね。その、あー……その信頼は、嬉しい、ですが――」 「きみ、照れた顔が本当に可愛いな……もっとよく見せ、っ、あっ、ちょ……っ、急にっ――動かな、ぁッ……!?」  会話を途切れさせるように、わざと腰を動かし奥まで自身をこすり付ける。  急にナカを突かれたアラスタは、俺の首に手を回して首を逸らして快楽に声を上げた。 「ずる……い、っぁ、あっ、そこ、だめ……っ、ぁっ――!」 「……ここ、好きでしょう? ぐっと押すと、腰が撥ねる」 「馬鹿ッ……そういう、言葉を、どうしてきみは、ぁ、は……っ、あッ――」  抵抗する言葉をひとつずつ潰すように、中を責め立てる。徐々に息を荒げるアラスタの腰が浮き上がり始め、逃げようともがく彼の身体を押し付けるように捕らえた。  伸し掛かるように身体を屈めると、喘ぐ喉に歯を立てる。びくり、と腰が揺れて彼の中に埋まった俺の性器がぐっと締め付けられた。  ……これほどまでに官能的だというのに、『可愛い』が頭から離れない。頭の中が恋などというぽやぽやしたものに埋め尽くされているせいかもしれない。  可愛い。たまらない。もっともっと、彼のすべてを、隅々までまさぐりたい。 「ん、ぁ……っ、奥、だめ……っ、そんなに、したら、また、いく、だめ、だめ、ディアン……っ」 「気持ちいいときの、貴方の顔は、本当に、可愛らしい」 「アッ……耳、駄目……ッ、ん、っ、きみの、声、腰に、クる……ッ」 「光栄です。俺なんぞの身体が、声が、言葉が、少しでも貴方の快楽に結び付くなら本望です。うん? ……奥、きもちいい?」 「ん――、ひ、やぁっ……、ぁ、あ……っ、そこ……っ、ぁ、だめ……!」 「ここ?」  ぐっと腰を擦りつけるように突くと、とろんとした顔のアラスタがこくこくと頷く。  その可愛らしさに目を細めながら、愛しい人をもっと乱れさせるためにその細く鍛えられた腰を掴んだ。 「あ――ッ、ひ、待っ……あ、あっ……!」 「好きです、アラスタ。どんな姿の貴方も、全て、俺だけに見せてほしい……」 「んっ、ひ、ぁ……っ、きみ、は、どうして、そうやって、とんでもないことを、こんな時にばっかり、んっ、ぁ、あッ、待て、待て、駄目、奥、突いちゃ……っ」 「こんなに乱れていても可愛らしいなんて、俺は本当に恋に目が眩んでいるようです。腹筋がびくびくしてらっしゃいますね……いきそうですか?」 「あ、いく……っ、ん……っ、え……?」  もう少しで達する――という雰囲気を感じた俺は、ぴたりと腰の動きを止める。唐突に責苦から解放されたアラスタは荒い息を吐きつつ、ぼんやりと俺を見上げた。 「……何、で……んっ……」 「いえ、何度イっていただいても問題はない、と思っていたんですが……先ほどの貴方の言葉があまりにも魅力的すぎたので、挑戦してみてもいいかな、と」 「…………僕の……え、僕は一体どんな恐ろしいプレイのヒントを口走った……?」 「おねだり」 「…………………うそだろ、勘弁してくれ、僕はそういう可愛いタイプじゃ、んっ!? 馬鹿っ、急に動くな、ぁ、やぁっ……動くなら、最後まで、ちゃんと……っ」 「別に、貴方を屈したいなど微塵も思っていません。俺は貴方に尽くしたいし、いっそ奴隷と言われても気にしない。それはそれとして、快楽に理性を蹂躙されて可愛らしく願望を口にする貴方の姿は見てみたいな、と」 「ぼ、僕がっ、えろいことされて、きみに、性行為を懇願したとて、別に可愛かないだろ!?」 「可愛いです」 「断言が、怖い! 目が腐って、ぁ、やめ、馬鹿、乳首触るなこの、ムッツリスケベ……ッ!」 「どこでそんな言葉を……いえ、まあ、俺は普通にスケベですよ。下ネタなどを好かないだけで、こういう行為は嫌いじゃないですから。……思いのほか胸も気持ちよさそうですね。このまま、下は突っ込んだままで乳首だけ虐めてみましょうか」 「ほんと、なんてこと言うんだ、きみのファンが幻滅するぞ……」 「誰も彼もが命令をきいてくれなくなると困りますが、外見のファンなら必要ありませんよ。俺は仲間からの信頼と、貴方からの好意があれば満足です」 「そう、いう、口説き文句は、お互い、正気の時に、するもの、では……僕の乳首を弄りながらする発言じゃないだろ、ちょ、ぁ、本当に、それ、やめ……っ」 「気持ちいいんですね、良かった。腰が揺れています。それじゃあ引き続き、たくさん気持ちよくなってください。貴方に懇願していただけるまで、頑張ってご奉仕しますから」 「が、……っ、がんばらなくていい……っ! あっ……、やめ……っ、」  割と本気でほほ笑んだのだが、アラスタには怒られてしまった。俺は別に彼の尊厳を踏みにじりたいわけではなく、あられもない欲望を垂れ流す様をぜひ拝見したい、と思っただけなのだが……。  結局この後随分と長い間、挿入したまま胸を弄り続け、本格的に理性をぶっ飛ばしたアラスタに山ほどおねだりの言葉をいただき、快楽にドロドロと溺れた彼の身体を乞われるままに抱きつぶした。  後悔はしていないし、反省もあまりしていない。もとより怒られる覚悟をしたうえで服を脱がせている。  まあ、その、翌朝、かなり怒られはしたが――。  それについては『初心者に配慮しろ』というアラスタらしい怒り方だったので、より一層俺は彼に惚れてしまっただけだった。

ともだちにシェアしよう!