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〈第1部〉第2話
「ちょっ‥待って!」
思った以上に歩くスピードが早くて、俺は見失わないように必死にそのあとを追いかける。背中越しに声をかけるが一向に振り向く気配がないので、手を伸ばして肩を掴むと、即振り払われてまた睨まれてしまった。
「なんだよ、お前もアイツらと同じかよ」
「え、なに‥」
「俺はアンタみたいなチャラチャラした人間が一番嫌いなんだよ!」
ポーカーフェイスには自信のある俺だが、一方的に浴びせられた理不尽な言葉に思わず眉をひそめてしまう。
服装や髪型にはそれなりにこだわりをもっているし、周りから“イケメン”なんて言われることもあるが(自分では全くもってそんな風に思ってはいないけど)、それは自分が好きでしていることであって、周囲の誰かからよく思われたいとか、ましてやナンパ目的なんてことは微塵もない訳で。
だけどコイツの中で俺は“チャラチャラした人間”らしい。そう思われたのなら仕方がない。‥けど、だからといって初対面の奴にそこまで言われる筋合いだってないだろ。少なくとも、さっきの二人組と同じ括りにされるのは納得がいかない。
「俺もお前みたいな無神経な奴は嫌いだ」
「なっ‥」
腹が立ったから、勢いでそう言い返してしまった。完全に売り言葉に買い言葉だ。それが気に入らなかったのか、奴は微妙に表情を強張らせて再び鋭い目つきでキッと睨んできた。‥こうなるともうどうしようもない。この状況から早く開放されたくて、俺は手に持っていた定期券を奴の胸元に押し当てて一方的に言葉を続けた。
「これ、さっき落としただろ?渡しに来ただけだから。それじゃ」
「あ‥」
何か言いたげな表情だったけど、もうこれ以上関わる気はなかったから無視した。定期券を乱暴に手渡した俺はくるりと向きを変えて来た道を歩きながら、ただひたすらに夕方からのバイトのことを考えた。
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