24 / 31

【番外編】mission impossible‼

★他サイトで短編として公開しているお話なのですが、第9話と重なる部分なので、番外編としてこちらでも公開します(^^) 修作くん視点です。 ―――――――――――――――――――――――― 「オレ、アイス食べたくなっちゃった!」 夜10時すぎ。突然そう言い出す俺の恋人は今日も相変わらずマイペースを発揮している。 きっと頭に浮かんだことがそのまま言葉になって出てくるんだろうな。 「あ、俺もー!イッチーコンビニ行こっか」 「うん行くー!」 そんな恋人の提案に両手を上げて乗っかる親友も相当マイペースだと、最近ようやく気づいた。 財布をひっつかんでバタバタと買い出しに行くふたりの背中を、俺と相沢は呆れながら見送った。 夏休みももうすぐ終わる8月下旬。今日は優介の部屋でナナの激励会をしている。これから本格的に受験モードに入るナナとは今回の再会のあとしばらく会えなくなる。俺にとってナナと二人きりで過ごす時間はやっぱり大切だし、ひとり占めしたいってのが本心だけど、こうして4人で美味いものを食って、笑って、話して‥そうやって過ごす時間も悪くないと思うようになった。 ‥が。 「‥‥」 「‥‥」 先程から部屋の空気が‥非常に重い。 優介が「大切な人ができた」と相沢を連れて俺のところに報告に来たのは7月中旬の事。それから何度か一緒に飯を食ったりしているのだけれど、こう‥相沢といると未だに緊張してしまう。優介やナナがいるときはまだいいんだけど、いざふたりきりになると何を話したらいいのか分からないのだ。数日前、1つ年上だという事実を知ってからさらに拍車が掛かってしまい、喋りかけることさえできていない俺は、現在のこの気まずい状況をどうやって打開しようか頭をフル回転させていた。 「‥なに?」 「あ、いや‥」 話しのネタを考えていたら無言で見つめていたようで、相沢に怪訝な顔をされてしまった。 相沢は男の俺から見てもすごく綺麗な顔をしていると思う。長めの下まつげが印象的で、女性に間違えられることが多いというのは納得できる。整った顔で睨まれるとドキッとするっつーか‥正直、ちょっと怖かったりする。 ‥だけど俺だって、優介やナナみたいに相沢と色々話してみたいというのが本心だ。ふたりほどコミュ力ないのは自覚してるけど、せっかくこうして知り合えたわけだし。 ピンチは最大のチャンス。この機会に少しでも距離を縮めよう、俺はそう決意した。 まず座っている位置が悪い。テーブルを挟んで面と向かっていたら緊張するに決まってる。それとなく立って冷蔵庫からペットボトルのお茶を拝借し、戻ってきたら何食わぬ顔で相沢の隣に座ってみる。一瞬眉をひそめた気がするけど‥気づかなかったことにしよう。 「‥お茶、飲む?」 「‥ありがと」 少し間があったけど、コップを差し出してくれたから安心した。出だしはオッケー。お茶を注ぎながら、俺はすかさず次の話題を考える。ここはやっぱり‥趣味の話か。 「相沢‥さんは、趣」 「なんで急にさん付けなんだよ」 間髪入れない相沢の鋭いツッコミに喉の奥でグッと言葉が詰まる。部活で上下関係を厳しく叩き込まれたのもあって、年上と聞いて思わず敬語になってしまった。‥スタートして数歩で盛大にすっ転んだ気分だ。 「趣味?」 うまく軌道修正できずに固まっている俺に、内容を察した相沢が会話を戻してくれた。 「あ、うん。料理好きなのは聞いたけど、それ以外で‥何かある?」 「あー‥筋トレ、とか」 「筋トレ‥」 見た目とのギャップに一瞬驚いたけど‥そういえば以前、優介が「なっちゃんは強いよ!」って話してたっけ。 「そんじゃ‥」 「?」 「勝負!」 肘をテーブルについて、俺は腕相撲の構えをする。時々ナナとふざけて勝負することがあるけれど、そのときは大抵俺が勝つし、優介相手でも俺のほうが少しだけ勝率がいい。小学生の頃から続けているバスケのお陰でそこそこ力には自信があったから、俺は意気揚々と相沢に勝負を申し込んだ。 「‥望むところだ」 相沢に構えた手を握られたとき、俺はなんとなく“まずい”と感じた。直感というやつ。 この時初めて、相沢の笑った顔を見た気がする。‥っつーか完全に不敵の笑みだけど。 「怪我すんなよ」 そう言われて背中を冷や汗が伝った。 * 「いい加減笑うのやめろよ」 「あ、悪い。あまりにも凹んでっから」 思いっきり落ち込んでいる俺の横でクスクスと笑っている相沢に、俺は重い視線を送った。 意気揚々と腕相撲勝負を挑んだ俺だったが、結果は惨敗。3回勝負したけれど全く歯が立たず、俺は相沢に一度も勝つことができなかった。 「そりゃ凹むよ。結構自信あったんだから」 「俺まだ本気出してないけど」 「マジかよ‥」 「100年早いっつーの」 「100年経ったら死んでんだろ」 確かに、と呟いた相沢は今までになく穏やかでその笑顔はとても優しかった。勝負に負けて悔しいはずなのにどこか嬉しいのは、相沢のこの表情を見れたからだろうな。 でも、負けっぱなしじゃやっぱり悔しい。 ここは‥弱点を攻めるしかない。 「なぁ、相沢は苦手なものとかないの?」 「‥お前、卑怯だな」 「うっ、うるせーな」 俺の作戦を見破った相沢のジト目に一瞬怯む。が、卑怯と言われようがこの際気にしない。見かけによらず負けず嫌いなもので。 「‥くすぐられるのはマジ無理」 しばらくの間のあと、相沢がボソッと呟いたのは意外に可愛い弱点だった。 「へぇ‥」 「‥マジ無理だから」 「へぇ‥‥あ!ゴキブリ!!」 「は?!どこ?!」 「スキあり!」 「え‥うわっ!!」 一瞬視線を外した隙をついて、俺は相沢の脇腹をおもいっきりくすぐった。‥自分でも驚くほど卑怯だわ。 「ちょっ‥ふ‥っあはは!!」 予想以上の反応にちょっと驚いた。こんなに爆笑してる相沢を見るのはもちろん初めてで、なんだかとても新鮮だ。‥まぁ、物理的にだけど。 「やめ‥っホント、ムリ‥」 「参りました、って言ったら止めてやる〜」 「‥っ、誰が言う‥はははっ」 相沢も相当な負けず嫌いだ。意地になっていた俺もここまできたら引き下がれない。 「早くしないともっとくすぐンぞ」 「ふっ‥く‥」 「我慢すんなよ」 「や‥っ‥」 「ほれほれ」 「‥やめろっつってんだろー!!」 相沢の結構ドスのきいた声がして、それとほぼ同時にものすごい勢いで襟を掴まれて‥気がつくと俺は思いっきり床に押し倒されていた。 ‥やっぱ強いわ。 そんで‥めちゃめちゃ痛ぇ‥!! 「ただいまー‥‥!!?」 「ふたりの分もアイス買ってき‥あーっ!!」 このタイミングで帰ってくるかよ‥ 玄関ドアが開いて、買い出しから帰ってきたナナと優介と目が合う。ナナの強烈な叫び声が、床に強打してさっきからズキズキしている頭に響いた。 「フクちゃん見損なったよ‥なっちゃんが可愛いからって襲うなんて‥!」 「いくらセーヨクが溜まってるからって修くんヒドイ!昨日あんなにしたじゃん!!」 「え?そうなの??」 「うん!!」 優介、どっちかっていうと襲われてたの俺だと思うんですけど。ポジション的に。つーかナナ、お前はちょっと黙れ。 ‥そんなツッコみを入れる余裕さえなく、何故か正座させられた俺はナナと優介に先程起こった事の一部始終を必死に説明するのだった。 話を聞いたふたりは大爆笑。一方の相沢はというと‥あ、すげー睨んでる。さっきより関係悪化してるんじゃねーか、これ‥ 「それじゃあなっちゃん、はい」 「?」 そう言った優介に何故かいきなり羽交い締めにされる。さらに 「思いっきりやっちゃって!なっちゃん!」 「?!」 ナナに足を掴まれたところで察した。 これはもしかして‥ 「今度は本気でいくから」 「まっ‥ゴメンナサーイ!!!」 本日2度目となる相沢の不敵の笑みを見た俺は、このあと死ぬほどくすぐられた。‥まぁ、調子に乗った俺が悪いんだけど。 でも何だかんだで相沢との距離は縮まった気がするから、作戦成功ってことで。 このあと4人で食べたアイスはめちゃめちゃ美味かった。 おわり☆

ともだちにシェアしよう!