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第7話 邂逅

「那智! 何してんだ」  悠心が駆け寄ると、那智は飴玉を口の中で転がしながら持っていたスマホをしまった。 「宏樹と先に走ってんだ。一年坊主たちと合流すっから、宏樹が買い出し行ってる」 「あーね」 「……矢沢」  その時、後ろから貴良が声をかけてきた。那智をじっと見ている。 「あ、ごめん。こいつ、那智。俺のダチでさ」 「どうも」  那智はへらっと笑って手を上げる。貴良は那智の鮮やかな金髪を見て、それからバイクを見た。 「悠心、どうすか? 迷惑かけてないすか?」 「はあ? かけてねえよ! ……だよな?」  勇んで言ったものの、少し不安になって貴良を見ると、憮然とした表情になっていた。いつも通り無表情なのだが、心なしか目の奥が冷たい気がする。 「え、迷惑だった!?」 「いや……そんなことはない」  貴良の言葉に那智がよそ行きの顔で薄く笑う。   「はあ。なら良かったっす」  ふと、那智が悠心の手元を見て驚いたように目をわずかに見開いた。 「お前、なにそれ」 「え? ああ、くま? 貴良に取ってもらった!」 「そっちじゃねえよ」  スマホケースを指されて、悠心は得意気に笑った。 「プリ! 記念に一緒に撮ったんだ」  ピースをして見せると、那智はスマホケースに入ったプリクラを無表情で見つめて「へえ……」とつぶやく。  その反応に首を傾げた悠心だったが、那智が何かに気がついたように眉をぴくりと上げた。バイクから起き上がり、悠心の首元を嗅いでくる。 「悠心。お前……そろそろくんじゃね」 「え、マジ?」  悠心はハッとして首輪に触れた。オメガとしての保護機能もついている、黒い首輪。 「ほら……熱もあんじゃねえか」  額に手を当てられて、舌打ちされる。 「こんなとこでヒート起こす気か? 送ってやるから、乗れよ」 「お……」  おう、と頷きかけたところで、悠心はとっさに貴良の方を見た。悠心と貴良を見る目は氷点下のように冷たく見える……ような気がする。 「あ、いや、良い! てか、ちけえよ!」  すばやく那智を振り払って、悠心は一歩離れた。 「電車で帰る」 「は? お前、ヒート来たらどうすんだ? どうせ薬持ってねえだろ」 「なんとか……なる」 「ならねえよ」  那智がため息を吐いた時、それまで黙っていた貴良が口を開いた。 「薬なら、俺が持っている。だから大丈夫だ」 「あ?」  那智が怪訝そうに貴良を見る。そして、合点がいったように笑った。 「あー、アルファっすもんね。まあ、あんたくらいになれば当然か」 「……お前もアルファだろう」 「気づきました?」  へら、と笑う那智に、貴良は不快そうに目を細める。 「俺は抑制剤を常用してる。……お前は服用してないだろう。そんな状態で矢沢を送らせるわけにはいかない」 「あー……っすね」  那智は小さく笑った。はらはらしながらやりとりを見守っていた悠心は、目に「何も余計なことを言うな」という圧を乗せて那智にアイコンタクトを取った。  那智は「わかってるよ」と言いたげに鼻を鳴らす。  今日の那智は変だ。いつもはこんなふうに突っかかってくることはないのに、今日はなんだかぴりぴりしている。  だから、「くれぐれも変なことは言うんじゃねえぞ」という無言の圧をかける。 「おー、悠ちゃんじゃん」  その時、タイミング良く宏樹が買い物袋を手に提げてやってきた。大柄なリーゼント男を見て、貴良の視線が那智から移る。  宏樹に心の中でスタンディングオベーションを送っていると、「ん?」と宏樹が貴良に気がつく。 「桜井貴良じゃねえか。なんで一緒に……ああ」  悠心の顔と、抱いているピンクくまを見て、宏樹が納得したようににやついた。 「良かったなぁ、悠ちゃん」 「うっせ」 「まあ、ほどほどにな」 「だからうっせーよ」  にやにやする宏樹にうんざりしてしっしっと手で追い払う。 「あ、宏樹。これも入れといて」 「ん?」  那智がバイクの座席の下の収納から、缶の飲み物を取り出して渡す。  (げえ!)  缶ビールに、缶チューハイ、そして、タバコだ。  ごついシルバーの指輪を嵌めた那智の手が、次々に貴良には見られたくないものを宏樹の買い物袋に入れていく。 「お前のマイバッグ、まじで便利よな」 「マイバッグは良いぞ。折りたためるしな」 「おかんかよ」  那智と宏樹の会話も悠心の耳には入らない。  (なんで今出すんだよ!!)  那智の脛をこっそりと蹴るが、那智はとぼけているのか本当にわかっていないのかわからないが、怪訝そうな顔をした。  貴良の視線が酒とタバコに張り付いているのがわかる。 「てか宏樹が買ってくりゃ、俺が持ってこなくても良いのに」 「俺は買わねえし、やらねえ」 「えー。宏樹なら絶対年確パスするじゃん」 「や、め、ろ」  嫌そうにする宏樹と、笑いながらブツたちが入ったマイバッグを収納に詰める那智。    内心で悲鳴を上げながら貴良の方をぎこちなく向くと、やはり剣呑な顔になっている。 「……矢沢」 「……はい」 「……お前もなのか」  低い声に、悠心は慌てて全力で手を振った。 「な、なななわけねえじゃん!! 未成年喫煙! 飲酒! ダメぜったい! お、お前ら、良い加減にしろよなぁ!?」  よくないぞ! と明後日の方向を見ながら言えば、那智と宏樹が呆れ顔をした。顔には「どの口が言ってんだ」とでかでかと書かれている。  飴を飲み下した那智は、タバコを咥えて喉奥で小さく笑った。 「……必死だな、お前」 「は、はあ!? 何が!? つか煙いんだよ!」  煙をふーっと吹きかけられて、さすがにブチギレそうになる。ピンクくまに煙が移ったらどうしてくれるんだ。 「たちわる! お前後で覚えとけよ! ……行こ、貴良」  悠心は貴良の腕を取って歩き出す。貴良は一度だけ那智たちを見た後、悠心と共に歩いて行った。  那智は遠ざかっていく二人の背中を見ながら、静かにタバコをふかした。 「……なあ、那智。お前なんかあった?」 「別に」  首を傾げる宏樹に短く告げて、那智は煙を吐き出した。  悠心たちが消えた方を見ていた宏樹が、ふと下を向いた。 「……悠ちゃん、今回はマジっぽいな」 「……ああ」 「だったら、余計に……」 「俺らが言ってどうにかなる話じゃねえよ」    吐き出した煙は、二人の背中を追うように消えて行った。     

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