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外伝 飴を溶かす⑥(那智視点)
6 初めての恋人
それから、那智はいつも悠心の隣にいた。
二人で行動して、二人で馬鹿笑いする。
中学二年の春に、髪を染める悠心に付き合って、那智も髪を染めた。
金髪にすると、悠心に「似合っててかっけえ」と褒められた。それ以来、那智は金髪がトレードマークになった。一方、悠心はころころと色を変えた。金髪から茶髪にしたり、今度は青にしたり、赤にしたり。だけど、那智は金髪から変えなかった。
初めてのピアスは、唇に開けた。
耳じゃなくて、唇にするのかと悠心に不思議そうにされたが、那智はもう決めていた。
悠心が喋るたびに動くリングピアスが、ずっと艶かしいと思っていた。
「おそろだ」
そう言って笑う悠心に、「お前と一緒にしたんじゃねえし」と言いながらも、同じ場所に開いたピアスを鏡越しに見て、思わず目元が緩んだ。
家族は那智の変化に驚いていた。
「那智が知らない子になっちゃった」と、そう言って母親は泣いた。
父親は「香山家のアルファだというのに、なんということだ」と厳しく非難した。
けれど、那智はもう構わなかった。
兄からの嫌がらせはぴたりとやんだ。那智が一度凄んだら、簡単に怯えた。最初からこうすれば良かったのかもしれない。
それから、家族とはほとんど話さなくなった。
喧嘩をして、ピアスを開けて、バイクで走る。
楽しい。
息がしやすい。
どこまでも自由な気がした。
喧嘩でもほとんど負けなかった。才能があったのかもしれない。那智の名前はすぐに近隣の不良たちの間で知られるようになっていった。
「――じゃあ俺たち、付き合う?」
中学二年の夏の終わり、那智は悠心に告白をした。
「あー、彼氏欲しいー。そろそろ処女捨ててえ」とぼやく悠心に、平静を装って、けれど一世一代の告白をした。
コンビニの裏。いつもの場所だった。ロマンチックさや風情はかけらもない。
「お、いいね」
悠心は拍子抜けするほどあっさりと承諾した。
「良いのかよ」
思わず訊き返すと、悠心は「え、冗談だったん?」と首を傾げる。
「いや、ちげえけど……」
「じゃあ良いじゃん。俺、那智のこと好みだし」
「え」
大きく心臓が跳ねる。
悠心は猫のように目を細めて那智を見上げた。
出会った時はほとんど同じだった身長は、今はもう那智の方が一回り高く、体も大きくなっていた。
「那智が俺のこと一番わかってるし。一石二鳥じゃん?」
「……よくそんな難しい言葉知ってんな」
「うるせえよ」
肩をこづかれる。目が合うと、悠心が目を細める。
「てか、那智、俺のこと好きだったん」
「……別に、処女捨ててえって言うから」
ぶっきらぼうに言うと、悠心が小さく笑った。笑い声が、かすかに掠れていた。
「冗談だよ。んじゃ、よろしく」
そして、あっけないほど簡単に、那智と悠心は恋人になった。
◆
「なあ、撮るか?」
悠心と付き合った翌日、ゲームセンターに行った。
二人でいつも通りだらだら遊んだ後、カップルが楽しそうにプリクラ機から出てくるのを見て、那智が誘った。
「お、いいね。撮るの久々じゃね」
「半年ぶりとか?」
二人で機械の掛け声に合わせてポーズを取っていく。変顔対決では悠心の圧勝で、那智は腹を抱えて笑った。
「どうせならスマホに入れりゃいいじゃん」
出てきたプリクラを財布にしまう悠心を見て、何気なく言うと、
「え、やだよ。浮かれてるみてえで……恥ずいだろ」
と返される。悠心の耳が一瞬だけ赤くなっていた気がしたが、赤い髪の毛が耳にさらりとかかったので、気のせいなのだろう。
那智は少し浮かれていた自分に居た堪れなくなった。
「確かに、そうだな」
それでも、二人で撮ったプリクラは那智の中でひそかに宝物になった。
「なあなあ、那智。今日うち誰もいねえんだ。来る?」
ゲームセンターから出ると、悠心がそんなことを言ってきた。
思わず固まる那智の顔を、悠心は期待に満ちた目で見上げてくる。
「てかさ、来いよ」
そう言って三日月に目を細める悠心に、那智はぎこちなく頷くしかなかった。
その日、那智たちはコンビニで避妊具や飲み物などを購入し、バイクで悠心の家に向かった。
心臓の鼓動が速い。期待と少しの不安がないまぜになって、形容し難い緊張感に包まれる。
「散らかっててわりいな」
悠心の部屋は雑多に散らかってはいるが、インテリア自体は洒落ている。
この部屋に初めて来たわけではない。なのに、今日はやけに小洒落たインテリアが気になった。
ベッドの上のピンクの豹柄毛布を見る。思わずごくりと喉を鳴らす。
いつも通りローテーブルの前に座ると、悠心が唇を尖らせた。
「隣、座んねえの」
ベッドの上に腰掛けた悠心が、ぽんと自分の隣を叩く。
「おー……」
なんでもない風を装って短く返事をするが、心臓はうるさいくらいに高鳴っている。
悠心の隣に腰掛けると、ギシリとベッドが軋む音がした。
「那智」
引き寄せられて、唇が重なる。
かっと腹の底が熱くなった。
触れるだけのキス。お互い初めてだから、何もかも手探り状態だった。
なんとか服を脱がせあって、気恥ずかしさをこらえて行為に臨む。時折漏れる悠心の悩ましげな吐息に、那智は何度も暴発しそうになった。
「——……い、イッテ! ちょ、タンマ、タンマ」
いよいよ繋がり合う段階になった時、悠心は苦悶の表情を浮かべて那智の肩を押した。
那智は浅い呼吸をしながら悠心から体を離した。悠心は涙目になっている。
「想像より痛くて無理ぃ……」
情けなくそういった悠心。結局、その日は数回リベンジをしたがうまくいかず、お互い気まずい思いで解散することになった。
それから日を置いて何回かチャレンジするものの、やっぱりうまくいかず、だんだんと悠心とは普段もぎくしゃくするようになっていった。
「うっ……うぅっ……」
そして、やっと那智のものが悠心に入った時には、悠心は痛みで泣いていて、出血もして、散々な初体験だった。
最初が悲惨だったから、自然と次の機会は訪れなかった。
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