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完結編 獣と乙女①
「はあああ………!!」
この世の全ての負 を集めたような、重いため息を吐きながら、悠心 はベッドに沈み込んだ。
体はもう満身創痍だ。あちこちが筋肉痛でぎしぎしと軋んでいる。
一日中笑いっぱなしだった顔は痛くて不自然にぴくぴくと引き攣っているし、上から糸で吊り下げられたように姿勢を良くしていたから、腰と背中も痛い。
「大丈夫か」
もう指一本動かせないでいると、頭上から声が聞こえてきた。
「だいじょばない……」
ふわふわで上質なベッドに顔を埋めながら呟くと、声がくぐもる。
貴良 が苦笑する気配がして、ギシリとベッドが軋んだ。
「今日は良く頑張ったな」
さら、と頭を撫でられて「うう……」と呻く。
「あんなに人がいるなんて聞いてねえ……」
確かに、人が大勢来るとは聞いていた。まあ、せいぜい何百人規模なのだろうと思っていた。
「何人いたんだよ、あれ……」
「招待客か?」
「途中から全員同じ顔に見えた……」
貴良と出会って二年。黒条高校を卒業してすぐ、悠心は桜井家に婿入りすることになった。
念願の貴良との結婚式。
付き合ってからすぐに準備も進められていた。少し緊張はするが、悠心も楽しみにしていた。二人の明るく華々しい未来がここから開ける。そう思っていた。
ただ……華々しすぎた。
「なんだよ……今日だけでシンデレラボーイって何回呼ばれたんだよ。俺、矢沢悠心だっつの……」
大規模な披露宴では次々に招待客が挨拶にやってきた。日本人だけでなく、海外のよく分からない人たちも列を作っていた。通訳がいたから会話には困らなかったが、悠心はしきりに招待客たちから『シンデレラボーイ』と称された。
——天下の巨大財閥、桜井 家へ運命の番として電撃婿入りを果たした、元不良のオメガの少年。
そりゃあ、話題性は抜群だろう。交際を正式に発表してからはネットでも散々悠心のことが記事に挙げられ、過去を掘り返されたりもした。
一時は『金目的』だの『偽装』だのと散々叩かれた。けれど、貴良といる時だけ分かりやすく赤くなるだの、顔が違うだのと今度は別方向で騒がれ、いつの間にか炎上は収まっていた。今では、運命の純愛カップルとして知られている。
別にそれ自体は問題ない。
ただ——。
「疲れたぁ……」
何をしていても、人の視線を気にしなくてはならない。
交際時はまだ良かった。けれど、婚約発表をしてからは、注目度が段違いになって息苦しかった。
そして、今日の結婚式。
「お子様のご予定は? じゃねえよ……はええよ……俺まだ十八なんだけど……」
シンデレラボーイと呼ばれる。世継ぎの話をされる。ハネムーンの予定を聞かれる。
全て、悠心という個人ではなく、『桜井家次期当主の伴侶』として見られる。
悠心は綺麗に整えられた髪の毛をぐしゃぐしゃと手で崩した。髪の色はピンク色のままだ。貴良が「そのままで良い」と言ってくれたので、染めるようなことはしていない。ただ、堅苦しくワックスで固められている。
息苦しいネクタイを雑に緩める。ベッドに五体投地して貴良に頭を撫でられているうち、強張っていた体からすっと力が抜けた。
「少し休むと良い。腹は減ってないか?」
「……減ってきた」
ぐうきゅるる、と情けない音が漏れる。今の今まで気を張っていたからか空腹を感じていなかったが、そう言われると途端に腹が減ってきた。
優しい目をした貴良に額に口付けられて、思わず口元が緩む。
きゅんとしながら、そう言えば今日が初夜になることをふと思い出した。
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