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完結編 獣と乙女⑤※
噛んで欲しい。
そう告げた瞬間、貴良からぶわりと濃厚なフェロモンが溢れ出た。
ぞくぞくと体が震えて、ぐったりと力が抜ける。
番なんていらないと思っていた。上下関係ができるような気がしていた。
けれど、貴良となら何も怖くない。
貴良とだから、番いたい。
解錠された首輪を貴良がそっと取り去る。首が空気に触れる感触に、思わず息を詰める。
ぼんやりと貴良の姿が橙色の間接照明に照らされている。
今日、愛を誓い合った相手が、悠心を求めている。
石鹸とシナモンの香りに包まれて、うっとりとため息を吐いた。
首筋を撫でられて、唇を落とされる。その熱い感触にだんだんと思考が焼かれていく。
「悠心」
貴良に名前を呼ばれると、それだけで胸の奥がぱちぱちと小さく泡立つ。
「抱くぞ」
低く凛とした声と共に、まっすぐ見つめられる。炙るような視線に、肌が焦げそうだった。
何度も頷く。じわりと視界が滲んだ。
「抱いて……」
それだけを返すと、貴良の目に獰猛さがわずかに滲んだ。
悠心のパジャマに貴良の手がかかる。そのままボタンを外され始めて、悠心ははっとした。
「あ、あの、明かり……明かり、消してくれっ」
つい口走ってから、赤面する。
こんな処女のような——いや、処女を卒業する時も言わなかった——恥じらいを覚えるなんて。
むしろ、今までは視覚的にちゃんと見えた方が興奮するとまで思っていたのに。
貴良の目に、自分の生まれたままの姿を晒すことが、どうしてかとても恥ずかしかった。
風呂では一応念入りに隅々まで綺麗にした。毛の処理だってした。だけど、いざその時になると、不安ばかりが浮かぶ。
変な体だと思われないか。
貧相だと思われないか。
そんなことを考えていると、貴良が唸るように返した。
「……俺は、見たい。悠心、お前の全部が見たい」
その言葉に、ぎゅっと心臓が締め付けられた。
貴良の目には欲がありありと浮かんでいて、普段は決して見られないその姿に、ぐっと眉を寄せる。
「……み、見たいの?」
「ああ。……悠心がどうしても嫌なら、善処はする」
「善処って」
ふは、と思わず小さく吹き出して、それから両手で顔を覆った。
「……いいよ。じゃあ、見て」
震える声でそう言って、悠心は手を顔の下にずらした。おずおずと貴良を見上げると、貴良は恐ろしいほど真顔だった。
(え……引いた?)
もしかして、自分は何か間違えただろうか。
不安に思った時。
「……くそっ」
突然、貴良がイライラしたように髪をかいた。びくりと肩を震えさせると、ほんのりと赤く染まった目尻で見つめられる。
「理性がもたない」
「えっ……あぅ!」
途端に首筋を強く吸われて、思わず声が漏れる。唇を離した貴良はどこか怒っているような顔をしていた。
「あまり煽るな」
ぶっきらぼうにそう言った貴良は、再び悠心のパジャマに手をかける。器用な手つきであっという間にパジャマを脱がされ、悠心は貴良の下で裸になった。
じっと、無言で体を見つめられる。
もじ、と足先を擦り合わせて、悠心は顔を逸らした。
「……は、恥ずいって」
「きれいだ」
少しの迷いもない言葉に、じわりと頬が熱くなる。思わずシーツに顔を逃がそうとすると、優しく顎を掴まれた。
「んぅ……っ」
口付けられて、柔らかくて熱い舌が口内に潜り込んでくる。生き物のように動く舌は悠心の舌をとらえて、甘く吸われる。それからなぞるように歯列をひとつひとつ辿られて、上顎を先端でくすぐられる。
貴良と交際を始めてから、キスだけは何度もしてきた。悠心の好きな——自分でも知らなかった弱い場所を絶妙に愛撫されると、すぐに息があがる。鼻で呼吸をしようとすると、貴良のフェロモンを吸い込んでしまう。そうすると、ますます体の熱が際限なく上がっていく。
気がついたら、貴良も上半身を露わにしていた。唇が離れて、ようやくそのことに気がついた。
「わ……」
初めて見る貴良の上裸姿に息を飲む。無駄な脂肪はなく、肩も胸も思っていたよりずっと厚い。男らしく引き締まった体は、ため息が漏れるほど色気がある。
(体、エロ……!)
鼻血が出そうになっていると、貴良が上体を倒してその顔が胸元に落ちてくる。
「え? ……うぁ、ん」
鎖骨に舌を這わせられる。骨の形を確かめるように撫でられ、胸筋へ舌が降りていく。
ちゅ、と吸い付かれ、舌でなぞられて、ぞわぞわとした期待感が腰から這い上がってくる。
「んっ……」
乳輪あたりに指がかすり、思わず息が漏れる。それに気がついた貴良が、明確にそのあたりを探るように撫で始めた。
「あっ……」
優しく乳輪を撫でられる。そして、そのままきゅ、と硬くなった乳首をつままれて、腰が跳ねる。
「はぁ、んっ」
乳首はそれほど感じない方だと思っていた。それなのに、なぜか貴良に触られると気持ちいい。
「あっ……ちょっと、強い……」
「悪い。こうか?」
「あ、あ、あっ」
腰をもぞつかせながら控えめに指摘すると、途端に手つきを調整してくる。すりすりと羽が擦れるような優しさで撫でられて、びくびくと腰が震えた。
貴良はじっと悠心の様子を見ながら、愛撫を調節している。そのことに気が付きながらも、悠心はあっという間に体に火を点けられてしまう。
しかも、触れ方が妙に丁寧——というか、ねちっこい。
全ての場所に触れなくては気が済まないというように、指で、唇で、全身に触れられる。
おかげで、まだ肝心な場所に到達していないのに、悠心はすぐに汗だくになってしまった。
「た、たからぁ……っ。もう、触って……こっちも、触ってくれよ……っ」
気が狂いそうな熱を持て余し、涙目で懇願すると、熱に湿り気を帯びた貴良の目が細くなる。
「あと少し待て」
そう言って、左足の膝裏に口付けられて小さく声を漏らす。
「そこ、も、舐めたじゃん……!」
「右足はな」
ちゅ、ちゅ、と口付けが膝裏から腿裏へと下がっていく。やがて、足の付け根に吸いつかれて、「はあぁ」と大きくため息を吐いて脱力した。
ぞわぞわとずっと気持ちいいのが続いている。こんなのは初めてで、少し怖くなる。
ただの焦らしプレイとも違う。
文字通り、全身味わい尽くされている。
「もう、濡れてるな」
足の間のそこに視線が張り付く。
「あ、あんま見んな……っ」
もうどのくらいの時間、全身を愛撫されていたのかわからない。貴良を受け入れるそこはもういくつも筋を垂らしてぬかるんでいた。
貴良の熱い視線に、悠心のそこは何かを期待するようにきゅんと疼いて蜜をとろりとこぼした。
貴良は微動だにせずその様子を凝視する。あまりに貴良が動かないので、不安になり始めた頃、貴良がぐっと屈んだ。
まさか、と思った瞬間、濡れたそこにぴちゃりと熱い感触を感じる。
「た、たから、……っ! わ、それ、だめ……っ」
だめ、と言いながらも、こうなることは薄々気がついていた。あれだけ熱心に全身を舐め尽くした男だ。ここを見逃すはずがない。
「はぁ……」
うっとりとしたような、悩ましげな吐息を漏らして、貴良は丹念に粘性のある雫を舐め取っていく。
全てを啜り、飲み下すと、ゆっくりと舌が侵入してくる。
「はあう……」
内部をじっくりと味わわれて、悠心は羞恥に唇を噛んだ。
好きな男に、全てを暴かれている。
恥ずかしいのに、気持ちがいい。消えたくなるのに、幸せだ。
矛盾した気持ちを抱えながら悶えていると、やがて舌が引き抜かれた。
「んんぅ……」
やっと貴良の指がゆっくりと挿入される。舌よりも長くて硬い感触に、悠心はぞくぞくと体を震わせた。
「苦しくないか」
「だいじょぶ……」
貴良と出会ってからは、他人を受け入れたことがない。痛みが出るのではと覚悟していたが、散々ほぐされきったおかげか、スムーズに入ってくる。
やがて、探るように腹側を擦られる。
「あっ!」
ある一点を擦られると、電気が走ったように膝が震えた。脳まで一気に駆け抜ける快感に、呼吸が乱れる。
シーツをぎゅっと掴むと、大きな手が重なった。指を絡められる。
「ここか」
嬉しさが滲んだ声は、低く掠れていた。
「ちょ、ちょ……っ!」
見つけるのが早い。
確かにそこが悠心の一番いいところだ。恐ろしい速さで学習してしまう貴良に、こんなところまでハイスペックなのかよ、と悶絶した。
「はぁ、あ、だめ、だめ、たから、あっ……」
そこを優しく集中的に責められて、たまらずかぶりを振る。ぱさぱさとピンクの髪が乱れた。
だめ、と言っているのに、貴良は愛撫をやめない。目元を赤らめながら、悠心の反応を観察している。
「い、いっちゃう……っ、いく、いくからぁ……っ!」
ちかちかと視界で小さな光が弾ける。貴良の折り曲げられた指が規則的に前後し、一点を擦る。
「あ、あ、あぁあ……っ!!」
腰の奥からじんとした痺れが全身に波のように広がる。ふわり、と一瞬の浮遊感がして、頭が真っ白になる。
気がついたら、悠心はがくがくと体を震わせながら天井を見つめていた。
「……はっ、……はあ……っ」
(なんだこれ)
達したのに、余韻がいつまでも波紋のように体に広がっている。なかなか熱が引かない。
ぐったりと放心していると、ずるりと指が抜けて行く。小さく震えて喪失感を覚えていると、ぐい、と腰を引き寄せられた。下肢に貴良の腰が当たる。
「……良いな?」
低く、短い声。
見てみると、貴良がじっと息を殺して悠心を見つめていた。
その目は野生じみていて、獲物を捉えた肉食獣のように見えた。
ぞわぞわっと体の奥が震える。下腹がきゅんと疼いて、達したばかりのそこから、こぽりと蜜がこぼれた。
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