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完結編 獣と乙女⑥※

 獣性を孕んだその眼光に胸を高鳴らせながら頷く。貴良がゆっくりと上体を倒してくる。唇が重なって、舌が絡み合う。  そのまま深い口付けを繰り返していると、指など比較にならないほどの質量のものが押し入ってきた。 「ん……ふぅ……っ!」  とろけきったそこを掻き分けるようにして少しずつ進んでくる。  清潔感のある石鹸の香りと、かすかに香るシナモンに頭がぼんやりとしながら、悠心は口付けの中でつい吐息を漏らす。  ごり、と貴良の先端のくびれが悠心の良いところを抉るように擦った。 「んあっ!」  その瞬間、思わず唇を外して悠心はのけぞった。  (やばい)  体が変になっている。快感の波が終わらない。大きく押し寄せたかと思えば、完全に引くことはなく、たゆたってはまた押し寄せてくる。  挿入されただけで達するなど、初めてだった。  (挿れただけで、これ……?)  これも運命の番だからなのだろうか。それとも、貴良の丹念過ぎる愛撫の成した技なのだろうか。  混乱しながらも、未知の快感への予感で腰が甘く疼く。貴良を飲み込んだそこは、自分でも恥ずかしいくらいびしょびしょに濡れていて、絞るように蠢動し始めている。 「……やばい」  短く、掠れた声が頭上で漏れる。見上げると、苦しそうにぐっと眉を寄せた貴良の顔があった。ぽた、と悠心の頬に雫が落ちる。  汗に濡れる姿が、間接照明にぼんやりと照らされる。普段の禁欲さや淡白さはなく、情欲に余裕をなくした姿が壮絶に|艶《なまめ》かしい。  あの貴良をこんなふうにしているのは、自分なんだ。  そう思うと、たまらなかった。知らず貴良のものを締め付けたらしく、「うっ」と貴良が動きを止める。 「悠心……っ、今、締めるな……っ」 「ご、ごめ……っ」    そう言いながらも、自分ではコントロールが効かない。  貴良は喉の奥で唸ると、繋がったまま悠心の体を横向きにして、それからうつ伏せにさせた。  汗に濡れた襟足の髪をそっと分けられて、びくりと震えた。  うなじに視線が突き刺さっているのがわかる。  心臓が大きく鼓動を刻み始める。  ——とうとう、この時が来た。  ごくりと喉を鳴らす。視線に晒されたうなじが、じんじんと熱を持ち始める。  そっと指先で触れられて、小さく声が漏れた。  次に、ちゅ、と唇を落とされる。  途端に、力が抜けた。半開きになった唇から、はあはあと呼吸の音がする。口の中が乾いている。  恐る恐る、首をわずかに動かして振り返る。  貴良と目があった。  ——ああ、大丈夫だ。  熱と獰猛さの奥に——悠心に対する気遣いが見えた。悠心はゆっくりとまばたきをして見せて、ふっと口角を上げる。  貴良が目を細めた。  つ、と歯が立てられた。アルファ特有の、発達した犬歯——牙だ。  どくんどくんと血が脈打つ。 「……悠心」  貴良が低く囁いた。 「好きだ」  ——ブツリ。  犬歯が、薄い皮膚を突き破った。 「あっ……!」  瞬間、視界が激しく明滅する。五感が消え、体がバラバラになったかのような衝撃が走る。  そして——細胞の一つ一つ、血が、肉が、組み変わっていく。そんな感覚がした。  ふわ、と鼻腔に貴良のフェロモンが香る。それを認識した瞬間、体の感覚が急激に戻ってきた。 「はあぁあ……っ!」  喉から喘ぎとも悲鳴ともつかない声が漏れるのと同時に、悠心は強烈な快感にさらわれた。  がくがくと体が震え、理性が完全に焼き切れる。  まるで獣になってしまったように、何も考えられない。  代わりに、体の奥にある貴良の存在だけを強く感じる。 「あぁあっ……!」  やがて、うなじに歯を突き立てたまま、こらえきれなくなったように貴良の腰が動き始めた。  入っただけでも達してしまったのに、前後に擦り上げられるともうたまらなくて、悲鳴を上げる。  止めてほしいわけじゃない。むしろ、もっと欲しいのに、口から出るのは「だめ」ばかりだった。  いよいよ頭がおかしくなりそうになって、体ががくがくと震える。  何度も意識が遠のきかける。電流に焼かれるような快楽に頭が真っ白になっては、また突かれる感触で現実に引き戻される。  本気で、どうにかなってしまう。  こんな快感は知らなかった。  だけど——貴良とだから、怖くはなかった。 「ひあっ!?」  ぐぐ、と受け入れている入り口付近が拡げられる感覚に目を見開く。  貴良の生殖器の根元がこぶのように膨らみ、結合部に|栓《・》をしようとしている。アルファがオメガと交わるときに稀に起こる〝|結び目《ノット》〟だ。  拡がり始めたその瞬間、貴良が身を引いた。ずるりと根元が抜け出て行く感覚に、切なく眉を寄せる。 「ぐぅ……っ!」  低く苦しげな呻き声が耳元で聞こえる。次の瞬間、熱いものが腰から背中にかけてかかる感触がした。 「んっ……」    その熱さに震えながら、快感の余韻に震える。    悠心の背中をゆっくりと伝った熱い飛沫が、雨粒のような音を立ててシーツに落ちていく。   「あ……あ……」  不規則にびくびくと体が震える。  ——ああ、もったいない。  自然と、そう思った。    あがったまま降りて来られないでいると、ふと中にずちゅりと音を立ててまた硬いものが潜り込んできた。 「……あんっ!? ……えっ?」  突然の快楽に目を白黒させていると、本格的に貴良の腰が動き始める。 「ちょ、たか、らぁ……っ?」 「……りない」 「……え?」  うまく聞こえなくて聞き返すと、顎を掴まれて、後ろから唇を奪われる。 「足りない」  そう言った貴良の表情には、絶頂の後の疲労や冷静さは微塵もない。    悠心は貴良の目を見て、ぞくりと腰を震わせた。

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