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完結編 二度目の結婚式②【最終話】

 ◆  悠心は大きな扉の前で、深く息を吐いた。  最後にもう一度、スタッフが衣装を確認する。  悠心に合わせて作られたスモーキーグレーのタキシードは、寸分も崩れもない。衣装スタッフが全身をチェックした後、扉の前に控えているスタッフにアイコンタクトを取る。 「よろしいでしょうか」    扉の前のスタッフに声をかけられて、頷く。  扉がゆっくりと開かれた。  眩しい光が差し込む。拍手の音が聞こえてきた。  チャペルの高い天井には、左右から中央へ伸びた木組みが重なっている。まるで木のアーチに包まれているようだった。  正面には壁一面ほどの大きな窓があり、その向こうに鮮やかな緑が広がっている。  秋の日差しが木々の葉を透かして、チャペルの中までやわらかく差し込んでいた。  短い通路の両脇には、白い花と淡い緑が添えられている。    前回のように、長いバージンロードではない。巨大なステンドグラスや豪奢なシャンデリアもない。  それでも、この式場が一番綺麗だと思った。  視界を埋め尽くすほどの人はいない。目が眩むようなカメラのフラッシュもない。  だからこそ、一人一人の顔がちゃんと見えた。  嬉しそうに笑う恵美。  なぜかすでに涙ぐんでいる宏樹と、そんな宏樹をからかっている那智。無表情だが、しっかりとスマホで悠心の姿を撮影する凛。    知っている顔ばかりで、胸が温かくなる。  ふと、招待客の中に意外な人物を見つけた。  最前列からこちらを振り返り、拍手をしているのは貴成だった。隣には貴良の母親もいる。  忙しいから、来ないと思っていたのに。    少し驚いて、それから口元が緩んだ。    通路の先に、加藤と——貴良がいた。  漆黒のタキシードを身につけた貴良は、いつもよりさらに隙がなかった。  光沢を抑えた生地に、鋭いピークドラペル。白いシャツと黒い蝶ネクタイ。  ただ立っているだけなのに、そこだけ空気が違って見える。  ——かっこいい。  見惚れると、貴良と目が合う。切れ長の目が、少し和らいだ。  悠心も笑い掛けて、一歩踏み出す。  差し出された貴良の手を取って、隣に立つ。 「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」  加藤が穏やかな声でそう告げた。 「これより、桜井貴良様、桜井悠心様の人前式を執り行います」  悠心は思わず少しだけ肩に力を入れた。 「本日の式は、お二人が、ここにいる皆様の前で改めて互いを選び、生涯を共にする意思を確かめるためのものでございます」  加藤が悠心と貴良を見る。 「それでは、お二人から誓いの言葉を」  悠心は貴良を見つめて、貴良の薬指に嵌っている指輪に触れた。 「俺は、これから先ずっと、貴良を愛して、そばにいることを誓う。何があっても、何度でも貴良を好きになる。そんで……何度でも、貴良の隣を選ぶ」  透き通った黒目を見つめながら、ありのままの気持ちを伝えると、貴良が笑みを浮かべた。  手をぎゅっと握り返される。 「俺は悠心を、生涯愛し、共に生きると誓う。運命であろうとなかろうと関係ない。俺が選ぶのは、悠心ただ一人だけだ」  貴良らしい、まっすぐな思いと言葉に、頬が緩む。 「それでは、互いの誓いの証として、指輪に触れてください」  薬指に嵌った揃いの指輪をなぞる。すると、手を取られて、指輪に口付けを落とされた。  途端に顔が熱くなって、視界が潤んでしまう。 「続いて、証人の方にご署名をお願いいたします」  加藤の言葉に、最前列に座っていた恵美と貴成が立ち上がる。  恵美は嬉しそうに結婚証明書にサインをする。貴成はいつもの落ち着いた表情でサインをしたが、最後に悠心をちらりと見て、「これからも、よろしく頼む」と悠心にだけ聞こえる声で小さく言った。  胸の奥をぎゅっと掴まれたような気がして、「はい」と頷く。 「皆様、お二人の誓いを承認いただけますでしょうか」  加藤がそう呼びかけると、拍手が会場を包む。 「悠ちゃん、幸せになあーっ!」  宏樹の涙交じりの雄叫びが会場に響いた。那智がやれやれとため息をついて、「二回目の内祝い期待してんぞー」と軽口を叩く。凛はスマホを下ろし、ぐっと口を引き結んだまま拍手をしていた。  笑っている悠心を見て、恵美が白いハンカチで目元を押さえる。貴成と貴良の母親は、微笑みながら静かに拍手をしていた。  拍手の中、悠心は隣の貴良を見上げた。 「……なあ」 「なんだ」 「キスしていい?」  貴良がわずかに眉を上げた。悠心は返事を待たずに、貴良を引き寄せて背伸びをする。  唇が重なると、宏樹の騒ぐ声が聞こえた。 「ごめん。待てなかった」  目を丸くしている貴良を見上げながらそう言うと、ふっと貴良が笑った。    二人の目には、互いの幸福そうな顔が映っている。    口付けを返されて、悠心は笑いながらそっと目を閉じた。    end   ◆◆◆    ご愛読ありがとうございます! 少しでも面白いと思っていただけましたら、ご感想、お気に入り、リアクションなどいただけると、大変励みになります。  改めて、ここまでお読みくださった読者のみなさま、本当にありがとうございました!

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