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第5話
注文を終えた洲永はあの日と同じように頬杖をついて匠海を見つめている。
「やっと一緒にランチできたな」
「……なんでわざわざ新橋まで」と匠海は目を片手で覆う。
食べる所作を見ているわけではないのに身体が熱い。脳内が勝手に彼の食べる姿を思い出してひとりで慰めた場面を再生し始めたのだ。
「どうせひとりでメシ食べているんだろうなって思ったら、勝手に足が新橋に向くんだよ」
「……洲永さんは品川担当のメンバーと行けばいいじゃないですか」
指の間から彼の表情を覗くと彼の指先が近づいて匠海の手のひらに触れた。この指で箸を持って、食べ物を口元へ運んでいると思うと胸だけでなく腰の奥がずんと重くなる。
「この前の飲み会で、赤い顔して俺の食べる姿をじっと見ていたくせに、俺とランチ行きたくないとかいうヤツのこと気にならないわけないだろ?」
一秒、二秒、三秒……どれくらい彼の指は触れていたのだろうか。洲永の食べる姿を匠海が見入ってたことに気づいていたなんて驚きを隠せなかった。
(しかも、顔が赤くなっていたなんて、気づかなかった……)
彼の指先の温度、彼が匠海を眺める目つき、それらがすべて絡み合って胸が異常にうるさく騒ぐ。
「そろそろ俺の食べる姿を見たいかなと思ってね。時間が許す限り、新橋へランチをしに立ち寄ってたんだ」
触れていた彼の指は意地悪く匠海の指先をたどる。その余韻を残しながら離れるともっと触れて欲しいなんていうワガママな想いが湧きあがる。
洲永がテーブルに置かれたお冷をごくりと飲むと、喉仏が上下して、その動きを目で追ってしまった匠海は熱くなった身体の奥が疼く要因になった。
「はい、日替わり二つね」
運ばれてきたサバの味噌煮定食にさっそく箸をつける洲永を見ないように、匠海は皿に盛りつけられた料理を穴が開くほど見つめ続けた。
とにかくどうにかして興奮を沈めたい。
サバの味噌煮を眺めることに集中して深呼吸をしようとするけれど、胸は苦しくて浅くしか息が入り込まず、何度も吸おうと口をパクパクと動かした。しかし吐くことを忘れてしまったせいか苦しさは増すばかり。
無理矢理、興奮を沈めようとしたからだろうか。いままでにない現象が匠海を襲う。
「おい、どうした。気分が悪いのか? 顔が真っ白だぞ?」
かすかに聞こえる洲永の苦味のなかに甘さを引き出すような低い声。まるで食後のコーヒーのように身体の隅々へ行き渡る。
(その彼の声ですべて満たされたい──)
これはあの症状とは違う。送別会で初めて彼の食べる姿を見てから、匠海は洲永のことが気になって仕方なかった。ひとりメシが好きだと言い張って彼の誘いを断ったけれど、匠海はずっと洲永の食べる姿をもう一度見たくて、この日を待ちわびていたのだ。もう二度と会えない父親との別れに後悔した気持ちを洲永に重ねてしまう。
(……いや、父以上に、もっと洲永さんのことを、知りたいんだ)
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