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四章 第四皇子、白百合と共に真相に迫る。(4)

「殿、下……」  燎琉(りょうりゅう)の入室に気付いた瓔偲(えいし)は、はっと我に返ったように声を上げた。  それから初めて、自分が取っていた行動に気がついて驚くようだ。黒曜石の眸をまるまると(みは)って、さっと燎琉の?子(うわぎ)を手放した。 「あの……すみ、ません。ご不快を」  目を伏せて、そんなことを言う。どうやら先の燎琉の言葉を、自分への非難の言葉と受け取ったらしかった。 「っ、ちがう……! べつにいまのはお前を(とが)めたんじゃなくて……ただ、驚いただけなんだ」  燎琉は慌てて言い募った。 「お前がそんなことをするなんて意外で……それだけだから、怒っているわけじゃない」  改めて告げると、燎琉は房間(へや)の奥の(ながいす)にかけている瓔偲のほうへ、すたすたと歩み寄る。その間、瓔偲はうかがうようにじっとこちらを見詰めていた。  瓔偲のすぐ傍らに立つと、燎琉は、ふう、と、ひとつ深呼吸をする。 「隣……座ってもいいか?」  許可を求めると、瓔偲はちいさくうなずいて見せた。  燎琉は榻に腰掛ける。そうはしたものの、次に何を言っていいかわからず、黙り込んでしまった。  場に沈黙が落ちる。  痛いほどの静謐の中、隣から燎琉を見詰める瓔偲が、はたり、はた、と、ゆっくりと瞬いた――……それが、とてもきれいだ。  燎琉は瓔偲のほうへ手を伸ばすと、そっとその頬に触れた。 「ちょっとだけ……びっくり、した」  いくらか視線をさまよわせた末に、ぼそ、と、言う。  本来であれば、やはり今度のことには吏部(りぶ)が絡んでいるようだ、と、まずは瓔偲にもそのことを報告すべきなのだ。それなのに燎琉は、まるで違うことを口にしていた。 「つがい同士は、自然と()かれ合うものだと言われてるだろう? でも、お前は……不慮のこととはいえ、俺とお前はつがいになったはずなのに、その俺の傍にいても、お前はちっともそういう素振りを見せなかったから……なんというか、あれは俗説なのかとおもったくらいだ」  燎琉は言いながら、瓔偲の頬をするりと撫でた。  長い(まつげ)の縁取る眸、白く薄い瞼の下の黒眸が、じっと燎琉を見ている。燎琉もまた熱っぽく瓔偲を見詰め返すと、やがて相手は、すっとこちらから視線を逃がしてしまった。  それはまるで、どこか恥じらうかのような仕草だ。 「つがい同士は、惹かれ合うもの……殿下のお傍にいると、時折、頭がぼうっとなります。殿下に、ふれてほしくて……」  瓔偲はそこでゆっくりと眸を閉じると、己の頬に添えられている燎琉のてのひらにそっと懐くようにした。 「ふれられれば、この身のうちに、深いよろこびが満ちます。ずっとこうしていてほしい、と、無意識に願ってしまうのです。わたしなど、殿下の将来にとっては邪魔者でしかないのだと、頭では理解しているはずなのに……すみません」  燎琉のてのひらに慕わしそうに頬を寄せながらも、瓔偲は苦しげに柳眉を寄せた。 「どうかお情けを、と、いつか恥も(てら)いもなく、殿下にそう乞うてしまいそうで……そうならぬよう、必死に(こら)えていても、時折、あふれてしまいそうになります。それが、わたしには、とても、こわいのです。だって、最初に……ご迷惑はおかけしない、と、そう約して、ここへ参りましたのに」  切なげに溜め息を吐く相手を前に、燎琉は、こくり、と、思わず喉を鳴らしていた。  また、白百合の芳香(かおり)が、どこからから濃密に匂い立つようだ。 「……瓔偲」  はじめて、相手の名を呼ばわった気がする。その声は、わずかに掠れていた。  燎琉の呼びかけに応えるように瓔偲は閉じていた瞼を持ち上げたが、間近で燎琉と眼差しを交わし合うと、なぜか、再びゆっくりと目を瞑った。  血の色の透けるような瞼、長い睫。  かたちのよい眉、涼やかな目許。  白い頬、そして、薄っすらと紅を()いたかのようなくちびる。  ほう、と、瓔偲が息をつく。  その刹那、もはや衝動を(こら)えきれなくなった燎琉は、瓔偲のちいさな頭を掻き抱くようにしながら、彼に口づけていた。 「ん……」  瓔偲が鼻にかかった甘い声をあげる。一度くちびるを離し、瞼を持ち上げ、彼我(ひが)の吐息の混ざる距離で、熱く見詰め合った。  そしてすぐに、再び相手に接吻する。  ちぅ、ちゅう、と、やさしく()むように燎琉は瓔偲のくちびるを(むさぼ)った。  夢中になる。  幾度も幾度も繰り返し口づけをする。  いつしか燎琉は身体を倒し、瓔偲を榻に押し伏せていた。接吻はほどかぬまま、細いからだを(まさぐ)るようにしてさえいる。 「ぁ……ん、ぅ、殿、下……っ」  はあ、と、瓔偲の吐き出す呼吸(いき)は熱く乱れかけていた。百合の清冽な香りがしている。  彼と交わって、やわい(うなじ)に咬みつきたい――……あのときしたみたいに、もう一度。  発情にも似た熱に浮かされるように、燎琉が瓔偲の深衣(きもの)の帯に手を掛けた時だった。どんどんどんどん、と、遠くに、激しく表門を叩くらしき音が聞こえてくる。  燎琉ははっと身を起こした。  瓔偲も我に返ったのか、いまの衝動と行為にひどく戸惑うかのように、顔を伏せて我が身を抱いた。 「燎琉、いるか?」  聴こえる誰何(すいか)の声は聞き覚えがあるものだ。 「叔父上……!」  燎琉は立ち上がると、折扉(とびら)を開けて、突然来訪した叔父を迎えるために院子(なかにわ)へと下り、華垂門(かすいもん)へと向かった。  前触れもない皇弟(おうてい)の訪問に、椒桂(しょうけい)殿(でん)(にわか)に慌ただしくなっている。突然殿舎の表門を叩いた鵬明(ほうめい)を、皓義(こうぎ)が門扉を開けて迎え入れた。その叔父を、燎琉(りょうりゅう)は門のところで待ち受ける。 「叔父上、いったい何事です?」 「話がある。瓔偲はいるか? あれも呼べ。――いや、やはり、まずはお前だけでいいか……」  珍しく迷うふうに鵬明がつぶやくところへ、ちょうど(ひがし)廂房(しょうぼう)から瓔偲が姿を見せた。 「鵬明殿下」  呼びかけられ、正堂(おもや)へ向かって院子(なかにわ)をつかつかと足早に横切っていた鵬明は、ふと、足を止める。そこから瓔偲のいるほうへと視線を投げた。 「瓔偲……息災か?」 「はい。ですが、まだお別れして数日です。そうそう変わるはずもありません」 「そう……そうだな。だが、お前にとっては、いろいろあった」  ありすぎたくらいだ、と、鵬明は眉根を寄せて瓔偲を見た。 「この際だ、お前も来い。お前たちに報告しておきたいことがある」  そう言うと、鵬明は苦々しい顔つきでで深い息を吐いた。 「煌泰(おうたい)と、(そう)清歌(せいか)の婚約が内定した」  正房(いま)に足を踏み入れると、燎琉と瓔偲を前に、鵬明は端的にそう言った。  燎琉は目を見開く。  では、昼間に南門のところで行き合ったとき、清歌はその件で宮中へ向かうところだったというわけだ。数日前までは燎琉との婚約も間近と思われていた少女が、いまは俄かに、別の皇子と婚約することになったという。  あまりにも早い展開に、すぐには言葉も出てこなかった。  朱煌泰は燎琉のすぐ上の兄、(ばん)貴妃(きひ)の産んだ、現皇帝の第三皇子だ。万貴妃の兄は六部を束ねる尚書(しょうしょ)(れい)、すなわち国府における最も強大な権力者のひとりだった。  煌泰と清歌との婚約内定とは、すなわち第三皇子・煌泰を擁する万家と、こちらも高官の家柄である宋家とが、結びついたということだ。  第三皇子・朱煌泰の背後(うしろ)に、万家とともに、宋家までもがついた。燎琉が瓔偲との一件で皇嗣から一歩遠ざかったことを考えれば、これによって、逆に煌泰は一気に皇太子位に最も近い存在に躍り出たということになる。 「先に渡した首輪(くびかざり)については調べたか?」  斜めにこちらに視線を()れつつ、鵬明が燎琉に言う。  そう言うからにはではやはり、叔父は意図してあの首輪を自分たちの手許へ寄越したということだった。となれば、鵬明もまた、燎琉と瓔偲とのことは何者かの企みであると疑っていたのだろう。 「誰かが敢えて留め金に細工をしていたようです。瓔偲が吏部へ預けたものが、そこから手入れを請け負う店舗(みせ)へは届けられていなかった」  核心だけを短く伝えると、そうか、と、鵬明は応じて、何か思案するように顎に手を当てた。しばらくうつむいたあと、叔父は燎琉をじっと見る。 「薬のほうはどうだ?」  重ねて訊ねられ、それについてもわかっていたのか、と、燎琉は叔父の深慮に内心で舌を巻いた。 「瓔偲に処方されていた薬も吏部(りぶ)の医局に属する(そん)という医師(くすし)が、上から命ぜられて薬効のないものを調合していたようです。本人がそう白状したようで」  叔父の問いに答えるかたちで燎琉(りょうりゅう)が言うと、え、と、驚いたように目を瞠ったのは瓔偲(えいし)だ。そういえばまだそのことについて瓔偲に話せていなかったのだ、と、そのことを燎琉は思い出した。 「悪い。周じぃの用件はそれだったんだが、言い損ねた」  すまない、と、重ねて詫びると、謝罪には及ばないとでもいうふうに、瓔偲はちいさく首を振った。 「なるほど、薬のほうも吏部か……誰だと思う?」  鵬明(ほうめい)が真っ直ぐに燎琉を見据え、あけすけに訊ねてくる。燎琉は一瞬、躊躇うように視線を落としたが、すぐにこちらも鵬明を真正面から見返した。 「(そう)英鐘(えいしょう)」  吏部の尚書(ちょうかん)の名を挙げる。 「だろうな」  鵬明も、ふう、と、息をついて(うべな)った。 「貴妃(きひ)の実家……(ばん)家と宋家とが組んで、お前を擁する皇后勢力を圧倒しようということだろう。そも、あの二家は古くから近しい。陛下の即位の際には、万貴妃はお前の母と並んで皇后候補だったがな、宋家としては貴妃のほうが皇后に立てられると見込んでいて、宋清歌(せいか)煌泰(おうたい)に嫁がせる気だったのだろう。幼い頃からふたりに交流を持たせていたようだった」  そこまで言うと、鵬明は精悍そうな眉をひそめた。 「しかし……そうだろうとは思ったが、実際に宮廷の権力闘争が絡んでいるのでは、事態はなかなかややこしいな」  実際に、と、その言葉を聞いて、燎琉にはふと気になったことがある。 「叔父上はもしや、もとから宋英鐘を疑っておられたのですか?」  鵬明の言い方は、はじめから燎琉と瓔偲とが番った件を事故ではないと疑っていたうえ、企みの中心人物にすら心当たりがあったような言い振りだった。  燎琉の問いかけに対し鵬明はなんとも言明しがたい複雑な表情を見せると、やや言いあぐんだ後で、ふう、と、長い嘆息をもらした。 「なんらかの形で吏部が絡んでいるだろうとは思っていた」  そう言う。 「お前たちがつがいとなったあの日、資料を取ってこさせるために、瓔偲を昭文(しょうぶん)殿(でん)へ遣ったのは私だった。吏部から、至急、と、条件付きでの問い合わせがあったからだ。だから、もしもあの件が事故でないとしたら、すくなくとも吏部は関わるだろうとは睨んでいた」  厳しい表情でそう言って、ちら、と、瓔偲のほうを見る。 「吏部関連で急ぐ資料を探しに行かせるなら、誰よりも瓔偲が適任だった。――いまから思えば、そのこともまた企みの一部として折り込み済みだったということだろう」 「どういうことです?」 「私たちのいる戸部(こぶ)の職掌は国家の財務管理だが、瓔偲は私の下で吏部のそれを担当していた。そして、これからは、吏部の収支に妙なところがある、と、何度かそんな報告があがってきていた」  これ、と、鵬明は瓔偲を差すように顎をしゃくった。瓔偲はこちらの会話に特別に口を挟んでくるようなことはなかったが、ただ、ちいさく頷くように目を伏せて見せる。 「瓔偲からの報告に基づいて、私から吏部へ探りを入れたことが何度かある。その際、瓔偲を同席させたことも、な。つまり向こうにとって、吏部から問い合わせをすれば動くのはおそらく郭瓔偲だと、そう予想がついたはずだ。そして私は、そんな敵の思惑通り、まんまと瓔偲を昭文殿へやってしまったというわけだな。――すまなかった」  鵬明は瓔偲に視線をやって言う。 「不可抗力ですから、お詫びいただく必要はございません」  これに対して瓔偲は、うっすらと口の端に笑みすら刷いて、軽く(かぶり)を振った。  だが、今度はその瓔偲が、鵬明の顔をじっと見て問いを投げかける。 「ですが、それだけでは……いえ、薬のことも、首輪(くびかざり)のことも含めても、吏部に属する誰か、と、それ以上のことは言えぬのではありませんか?」  なにも首謀者が宋英鐘と決まったわけではないのでは、と、瓔偲は言った。  だがこれに燎琉は、そうではない、と、思って眉間に皺を寄せる。 「俺とお前をつがわせようと(はか)った者がいたとすれば、そいつは、俺が昭文殿に通い詰めていることをも知っていなければならない」  燎琉は別段、そのことを隠していたわけではなかった。だが、だからといって、職務上近しい工部(こうぶ)の者ならともかく、まるで関わりを持たない吏部の者がそのことを知っていたとは思えない。 「しかし、宋英鐘ならば……知っていて、おかしくない」  なんといっても彼は宋清歌の父なのであり、清歌と燎琉とは婚約目前とまで噂された間柄だった。それなりに親しく言葉を交わす中で、実際に燎琉は、清歌に己の携わっている仕事について話して聞かせたことがある。 「宋英鐘なら、清歌どのを通して、俺が昭文殿に通っているという話を聞く機会があったかもしれない」  ひとたび情報に触れる機会さえあれば、燎琉が昭文殿を訪う頻度・時間などを調べるのも、さして難しくなかったはずだ。そして、こちらが蔵書閣へ入る刻限を見計らって、吏部から戸部(こぶ)員外郎(いんがいろう)である鵬明のもとへと問い合わせを送ればいい。至急、と、そう言われれば、十中八九、鵬明は瓔偲を昭文殿へ向かわせる。もちろん、瓔偲が発情期を迎える時機も、計算に入れられていた。  この時点ですでに、瓔偲は吏部の医局から出された(にせ)の薬――発情抑制の薬効のないもの――を服用し続けていた。瓔偲は発情を起こす。彼が放つ発情期の癸性特有の芳香に間近で()てられたならば、(こう)性の燎琉が衝動に抗うすべはない。意思に関係なく燎琉の発情も誘引されて、ふたりは、契ることになるだろう。  加えて、瓔偲の首輪(くびかざり)には、吏部に預けられた際に、あらかじめ細工がなされていた。強く引けば留め金が外れるようになっていたそれは、もはや(うなじ)を守る本来の役を果たすことはないものだ。となれば、発情状態の燎琉と瓔偲の間は、本能に抗えずにつがうことになるだろう。  陰謀(たくらみ)(ぬし)は、そこまでを読み通して動いたのではなかったのか。 「吏部(りぶ)尚書(しょうしょ)であり、宋清歌の父である宋英鐘ならば、一連のことの一切が、可能だ」  そういうことだったのではないのか、と、燎琉は叔父のほうを見た。  鵬明は口許に手を当て、うむ、と、思案げな表情をする。 「しかも、この件において、最も利が多かったのもやつだな。――どうも吏部には……宋英鐘には、探られたくない腹があった。そこへ切り込んだのが瓔偲だが、これを国府から排除することができたわけだ。その点、瓔偲が毒杯を賜わることになろうが、あるいは(きさき)(めかけ)などとして燎琉に預けられることになろうが、どちらに転んでも良かったのだろうが」 「結果として、陛下はわたしを燎琉殿下に(めと)らせるという判断をなさいました。これで殿下を皇太子の位から遠ざけることが出来たわけですから……二つめの利もあったというわけですね」  瓔偲が鵬明の言葉を継いだ。  鵬明がひとつ頷き、ついで息をはく。 「うまく行った際には、宋家の娘である清歌を煌泰の妃に据えることが、宋家と万家との間であらかじめ密かに約束されていたのかもしれん。そうして姻戚となった二家が手を組んで、今後、煌泰を皇太子に押し上げる」  早くも水面下でその動きが始まったということを、いま知らされたばかりの、第三皇子・朱煌泰と宋清歌との婚約内定は、教えてくれているのではないだろうか。  燎琉と瓔偲、そして鵬明の三人は、無言で目を見交わした。今度のことの首謀者は吏部尚書・宋英鐘だろう、と、言葉にこそせずとも、すでに三人の見解はそれを以て一致していた。 「――どうする?」  鵬明が燎琉へと視線を向けた。 「宋英鐘を問い詰めてみるか? 皇太子位を巡る陰謀、かつ、吏部の不正の疑惑までもが絡んでいるとなれば、うやむやにせず、なんらかの形で罪を明らかにすべきだろうが」  そこで言葉を濁すのは、これが明るみに出れば、間違いなく朝廷(ちょう)を大きく揺るがすことになるだろうからだ。だからなかったこととして揉み消してよいというのでは勿論ないが、時機と、やり方とを考えるべき事案である、と、叔父はそう思うのだろう。  鵬明も燎琉も、国府に出仕して朝廷の一角を担う身だ。かつ、最も身近で皇帝を支えることを期待される、皇族の一員でもある。朝廷(ちょう)を無為に混乱させるのは避けたいし、避けるべきだ、と、そういう思いは持っていた。 「……清歌どのに」  ふと思いついて、燎琉は少女の名を口にした。 「宋清歌から、話を聞いてみではどうだろう? 父の英鐘に、俺が昭文殿に通っていることを話したことがあるかどうかだけでも確認できれば、ひとつ、前進では? あるいは彼女は、他にも何か、知っていたり、聞かされていたりしたことがあるかもしれないし……すくなくとも、煌泰兄上との婚約については、何か言われていたのかもしれない」  南門付近で行き合ったとき、清歌はどこか思わせぶりな口振りだった。そのことを思い出して、彼女から何か宋英鐘の(はかりごと)を裏付けるような情報が得られないものか、と、燎琉は考えた。 「なるほどな」  鵬明がひとつうなずく。 「万貴妃に呼ばれていた宋清歌は、おそらく、じきに楽楼(らくろう)(ぐう)を出る頃合だろう。間に合うな。城壁で……国府を出る前に、つかまえよう。行くぞ」  最後は短く言うと、鵬明はさっと(きびす)を返した。  燎琉と瓔偲も顔を見合わせて、鵬明の背に続いた。

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