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誕生日
せっかくの誕生日だと言うのに、紫呉は仕事に追われていた。
人気デザイナーの彼は並々ならぬ思いで仕事に向き合っている。責任感もあり、決して投げ出さない。本当にデザインの仕事が好きで、以前は睡眠よりも仕事を優先する程だった。
だけど、今年は何がなんでも日付が変わる前に家に帰りたかった。
なぜなら恋人の結季が腕によりをかけて料理をしたと連絡があったからだ。
『今晩は貴方の好きな物を沢山作りました。何時頃帰れますか?』
そんな連絡を貰ったのがつい3時間ほど前。
『22時には帰れるようにするわ』
と返事をしたのはいいが、タイムリミットまであと1時間と言った所だ。
「あーん、これじゃ埒が明かないわねっ。こうなったら仕方ないわ、残りは明日やる事にしましょう」
周りのスタッフにも疲れが見え始めていたので、今日は切り上げることにした。焦ったって良いものは出来ない、それが紫呉のポリシーだ。スタッフ達にコーヒーをご馳走し、その日は皆で帰宅した。
紫呉は車を走らせ、家に着いたのは結季に言った通り、22時ジャストだった。
「おかえりなさい」
「ただいまぁ〜……って結季ちゃん、どうしたのその格好」
出迎えてくれた結季は普段とは格段に違っていた。
メガネを外し、カラーコンタクトを入れて少し毛足の長いウイッグを被っていた。
服装はというと、紫呉が以前結季に着せたいとデザインした中世ヨーロッパ風のタキシードだった。
「紫呉さんがくれた服なかなか着れてないから、着るなら今日かなって。どうです、似合いますか?」
結季は少しだけ恥ずかしそうに紫呉の前で一回転して見せる。
「とっても似合ってるわ。このままどっかのパーティに出れそうね」
「今日は紫呉さんのお誕生日パーティですよ」
「あら、そうだったわね。ならアタシも着替えてくるわ。少しだけ待っててくれるかしら?」
「もちろん。俺は食事の準備を進めておきますね」
そう言うと紫呉は自室へ、結季はキッチンへと向かった。
* * * * *
ちょうど食事の準備が整ったころ、リビングに紫呉が姿を現した。
「お待たせ」
「ーーっ!?」
紫呉はウィッグを外し、髪を後ろで一括りにしていて化粧も落としていた。そして何より結季が驚いたのはその服装だった。
「王子様みたい……」
結季の着ている物と少し似ているが、はるかに王子様感がありキラキラと輝いて見えた。
「あら、そう思う?嬉しいわっ♪ユキちゃんのと対になる様にして自分のも作っておいたのよ〜」
「俺が着るより似合ってます」
「そんな事ないわよ。ユキちゃんもとっても似合ってるもの」
「……すごく、かっこいいです」
結季は男姿の紫呉にドキドキしてしまい、それを隠せないでいる。
「ふふ、アリガト♡それより、待たせちゃってゴメンなさいね。せっかくユキちゃんがご飯準備してくれたの冷めちゃったかしら?」
「いえ、大丈夫ですよ。では、パーティを始めましょうか」
「そうしましょ」
2人だけの密やかな誕生日パーティが始まった。
共に食事を摂るのもなんだか久しぶりで、話をしながら自然と酒が進んだ。結季はあまり酒に強い方では無いため、最初の乾杯以外はノンアルコールのシャンパンを飲んでいる。
紫呉が口にしているのは結季が選んできた紫呉の生まれ年のワイン。美味しい料理とワインに舌鼓を打っていると結季はレゼントが有ると紫呉に包みを手渡した。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。開けていいのかしら?」
「どうぞ」
気に入るかは分からないけど、と結季は付けてして言った。このプレゼントを選ぶのに相当時間をかけたが、果たして喜んでもらえるのか少し不安だったのだ。
紫呉は綺麗にリボンを解き包みを開けていく。
「あら、時計ね」
「はい。最近紫呉さん時計の調子が悪いと言っていたので……」
さり気ない日常会話を結季はしっかり覚えていてそれをプレゼントに選んだと言う。
「嬉しいわ、ありがとう。明日早速付けていくわね♪」
「是非」
「大切にするわ」
紫呉は早速腕にはめ、ニコニコと時計を眺めた。
プレゼントを渡したあとはケーキを食べた。
小さいホールケーキだったが、2人で食べるには丁度良かった。
デザートを食べ終わる頃、時計の針は0時を超えていた。
「紫呉さん、お誕生日おめでとうございました。来年もこうやってお祝いさせて下さいね」
「勿論よ。こちらこそ、お願いするわね」
結季は紫呉の手を握ったまま背伸びをして自分から口付ける。
普段は恥ずかしくてしたくても出来ない自分からのキス。
唇をゆっくり離すと紫呉はとても嬉しそうに微笑んでいた。
「最高の誕生日だわ。ユキちゃんありがとう、大好きよ♡」
「あ……俺も、その……大好きです」
今度は紫呉がぎゅっと結季を抱きしめて愛しさを沢山込めたキスを返した。
《終》
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