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バレンタイン
Valentine's-Day
日付をまたいでだいぶ経ってしまった頃、紫呉はようやく仕事から解放され、自宅へと車を走らせていた。
せっかくのバレンタインで結季がチョコを用意してくれていたのに、生憎のトラブルでこんな時間になってしまった。
「もう寝ちゃってるわよね……」
紫呉は溜息をついた。
自宅に着いたのは午前1時を回っていた。日付を跨いでしまったから今日はもうバレンタインでも無ければ結季は朝から仕事だ。流石に寝ているかと静かにリビングへと足を踏み入れる。
「ユキちゃん……」
結季はソファで寝息を立てていた。
「こんな所で寝ていたら風邪ひくわよ……」
優しく声をかけるとうっすらと目を開ける結季。
「……紫呉さん、おかえりなさい……」
「ただいま。遅くなってごめんなさいね……」
「……いえ、お仕事お疲れ様でした」
「ありがとう。ね、ユキちゃん……帰ってきてそうそうなんだけどね……お願い聞いてくれるかしら」
申し訳なさそうに背中を丸めながら少しだけ元気の無い声で言った。
すぐにそんな紫呉の様子を理解した結季はいいですよ、と頷いた。
「なんですか?」
「ユキちゃんを抱きしめたいの。いい?」
「そんな事、聞かなくたってしてください……」
「ユキちゃん……」
紫呉はソファに座って隣の結季をぎゅっと優しく抱きしめた。ふんわりと香る紫呉の香水が結季の鼻をくすぐる。
暫く抱きしめあったあと、紫呉がテーブルの上の箱に気がついた。
「これ……」
「あ、バレンタイン……チョコを準備したんです」
少しだけ照れくさそうに結季が答えて、紫呉に手渡す。
「アタシにくれるの?」
「当たり前じゃないですか。他に誰が居るんです?」
「そりゃ、そうよね。ユキちゃんからのチョコをアタシ以外が受け取るなんて絶対嫌だもの。ね、開けていい?」
「どうぞ……」
紫呉はさっきまでの暗い表情とはうってかわり、嬉しそうに笑いながら包装紙を剥がしていく。
「これ……手作り?」
「いちお……あの、味の保証はできませんが……」
料理は出来る方だがお菓子はあまり、と自信なさげに話す。そんな結季をよそ目に紫呉は早速1口チョコレートを口へ放り込む。
「うんっ!おいしいわ♡ユキちゃんの愛情がたくさんって感じで最高よっ」
「ホントですか?良かった……」
結季は緊張していたようで、紫呉の反応を見てホッとため息をついた。自分ではよく分からなくて不安だったのだ。
そして紫呉はまた1口、チョコを含む。
「間違いなく美味しいわよ?味見……してないの?」
「何度もしたんです……でも何度も味見してるうちに分からなくなってしまって……」
何回も作り直しているうちに正解が分からなくなったと話す結季。
「そうなの?でも今なら時間も経ったし味わかるんじゃないの?」
「どうなんですかね……」
「食べさせてあげるわ、はいあーんして」
紫呉はチョコをつまんで結季の口元へ運ぶ。結季は素直にそれに応じて口を開けたが舌先に触れたのはチョコだけではなかった。
「んぅ……っ」
紫呉が自分の舌の上にチョコを載せて、そのまま口付けてきたのだ。紫呉の舌から結季の舌へとチョコが移されたが、唇が離れることはなくむしろ深く長く口付けへと変化して言った。
「んふぁっ……」
「んっ……ふふ、ユキちゃんの口の中熱くて……チョコ溶けちゃったわね……っ」
「ひぐれひゃ……はぁっ……」
トロリと潤んだ瞳で紫呉を見つめる結季。これではせっかくのチョコの味も分からないと訴えているようだった。
「ユキちゃんの唇、甘くてとっても美味しい……もっと味わってもいい?」
「今は……チョコの味……って……」
「うん、そうね。チョコもいいけど、ユキちゃんの方が欲しくなっちゃったの。ダメ?」
ダメ?と尋ねるその瞳は心做しか欲望を孕んでいた。自分を求めるそんな瞳に見つめられて結季は静かに頷いた。
「……ずるい……あんなキスされたら……ダメなんて言えるわけないです……」
返事をしながら結季は紫呉に抱きつき自分から唇を重ねた。その場にゆっくりと押し倒され、体の隅々にキスを施される。ほんのり色づいた肌はチョコに少しだけ入れたお酒のせいか、はたまた紫呉のせいか……。
「チョコよりもユキちゃんの方が甘くて美味しいかもね?」
「……ばか」
身体の隅々までキスをされた後、また唇を重ねる。
2人の唇はほんのりチョコが香り、本当に甘くてとろけてしまいそうだった。
〈終〉
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