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お願いだから

喧嘩をした。あの優しい紫呉さんが珍しく声を荒らげて怒鳴った。俺の事を心配しての事だと頭では理解していたが、怒鳴られた事が余程衝撃的だったのだろう。俺は何も言わず家を飛び出した。 気が動転していた俺はなりふり構わず走った。 「はぁ、はぁ……俺、何してんだろ……悪いのは俺なのに……はぁっ」 自分が何処まで来たのか辺りを見回そうとしたその瞬間……身体に大きな衝撃が走った。 「うっ!!」 「おいっ!大丈夫か」 「ぐっ……」 どうやら俺は車に轢かれたらしい。運転手は急いで俺に駆け寄ってきて声をかけてくれる。でも身体中痛くて言葉を発することが出来なかった。俺はもしかしたらこのまま死ぬのかもしれない。 あぁ、こんな事ならちゃんと紫呉さんの言う通りにしておけば良かったなとか、謝りたいなとか、もっと沢山触れたかったなぁと色んな事が頭を駆け巡る。 「今救急車呼ぶから……っ」 運転手の声は聞こえているものの、返事をする事が出来なかった。 「おい、おい!!」 運転手が焦る声が段々遠くに聞こえ始めた。本当にこのまま死んでしまうのでは無いかと思ったら紫呉さんの泣いた顔が浮かんできた。 かすみ行く意識の中で俺は力をふりしぼり、紫呉さんの名前を何度も呼んだ。 そして……意識を手放した。 * * * 「ん……」 目を開けると真っ白な天井。ここは……天国かな、なんて思いながら周りに視線をずらすと紫呉さんの姿。 紫呉さんは目を瞑って俯いていた。 「寝てる、のかな……あの、紫呉さん……」 少しだけかすれた声でその名前を読んだ。 俺の声を聞いて紫呉さんはパッと目を開ける。 「ユキ……ちゃんっ、目が覚めたのね」 ばっと紫呉さんに抱きしめられた。 「あの……ここ、は?」 「病院よ。ユキちゃん事故にあって……3日間眠ってたの……良かった……目が覚めて……本当に……っ」 紫呉さんは涙を溜めながら言った。 「大袈裟ですよ……」 「そんなわけないじゃない!沢山血が出たって言うし……アタシ本当に……ユキちゃんが事故にあったって聞いて……心臓止まるかと思ったんだからねっ」 「紫呉さん……俺……」 「本当にっ……心配したんだからねっ……お願いだから……こんなこともう止めてちょうだいっ……」 「……ごめん、なさい」 「でも良かったわ……目が覚めて……本当に良かった……ユキ……結季……ずっと、一生……離れないで」 紫呉さんは俺を抱きしめる腕に力を込めた。いつもの紫呉さんの体温に安心感を覚える。それと同時に彼が震えていることに気がついた。何度も「お願い」と呟く声も震えていた。 そんな紫呉を結季は返事の代わりにそっと抱きしめた。 その後、俺は2週間の入院することになった。紫呉さんさその間、毎日面会に来ては甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。普段とは逆の立場でなんだか少しだけ気恥しい気さえしたが、久しぶりに紫呉さんとゆっくり過ごすことができて嬉しかった。 《終》

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