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酔って酔わされ、酔わされ酔って

「ユーキーちゃん」 妙に機嫌のいい紫呉に怪訝な顔を見せる結季。 「なんですか……?」 「今日ね、新作のお洋服が出来たのよ〜。それでね?」 「遠慮します」 食い気味に理の言葉を紫呉に突き付ける。 「えー、まだ何も言ってないじゃない」 「だって、どうせ着てくれって言うんでしょ?それに……紫呉さん酔ってますよね?」 怒涛の繁忙期を終えた紫呉は帰り際にどこかで飲んできたらしく、ほのかに顔が上気していた。 結季はお酒が少し苦手だ。全く飲めないという事では無いが、余りいいイメージを持てずにいた。だが、大人としての付き合いというもので多少は口にする。 抱きついてくる紫呉から微かな酒の匂いと、家では吸わないタバコの匂いが混ざって香る。 混ざりあった香りを纏う紫呉は女性の服装で女性の喋り方をしているのに男だと主張しているようで、結季は別の意味で酔わされそうになって唾を飲み込んだ。 色気すら感じてしまうのはさっきまで饒舌だったくせに今はソファに腰をかけ何やら真剣な顔をしているからだろう。ついさっきまで新作の服がどうのこうの言っていたようには思えない。 「あの……紫呉さん、お水飲みますか?」 「ありがとう。貰おうかしら」 既に準備していた結季はどうぞ、とコップを手渡した。 コップをかたむけ一気に飲み干した紫呉。 「……はぁ、今日は少し飲みすぎちゃったかしら。修羅場抜けたら気が緩んじゃったみたい」 「あまり無理しないでくださいね、倒れちゃいますよ?」 「そうね……もう本当に……ユキちゃん不足で死んじゃうかと思ったわ」 「大袈裟ですって……」 前に紫呉が過労で倒れた事があって、それから結季は紫呉の仕事の忙しさに過敏になっていた。また倒れてしまうのでは無いかと内心ドキドキしてしまう。 「……ね、ユキちゃん」 「はい?」 「お仕事頑張ったご褒美、くれない?」 「ご褒美、ですか……?」 「そ、アタシの作った服を着て見せてちょうだい」 「やっぱり……」 さっき帰宅早々に言っていたあの言葉を紫呉は忘れていなかったようだ。 「す、少しだけですよ……」 結季は紫呉のお願いに滅法弱い。少し強引に言われたり、弱った素振りを見せられるとNOとは言えなくなってしまうのだ。つくづく紫呉には甘いなと自分でも感じている。だが、自分が紫呉の服を着るだけで喜んでもらえるのなら幾らでも付き合おうと思っていた……普通の洋服なら。 「やっぱり……」 広げた自作の服は女性ものでご丁寧に下着まで添えられていた。溜息をつきながらもいそいそと着替えを始める結季。 「まったく……困った人ですね……それにしてもピッタリ」 何故だろうと考えて結季は直ぐに赤面した。なぜ分かるのか、なんて野暮な事に過ぎなかった。 着替えを終えても上気した頬のままでは恥ずかしいと落ち着くまでは別室に籠っていた。 数分後、ようやく落ち着いたのを確認して結季はそっとドアの隙間から紫呉の様子を伺った。 遠目からでは詳しくわからなかったが、何やとても真剣な顔で書き物をしていた。恐らくデザインのアイディアだろう。そんな真剣な顔を結季はぼんやり眺めてしまう。 「あら?」 視線を感じ紫呉が顔を上げると結季と目が合った。その瞬間、顔が綻び柔らかく笑いかけながらおいでと手招きをする。 「……あの……俺にはやっぱりこう言うのは……」 モジモジしながら紫呉の前に立つ結季は足元がスースーすると膝を擦り寄せた。膝よりも短いスカートの裾を引っ張る。 「とっても似合ってるわよ〜!」 キャッキャっと喜ぶ紫呉をみて安心する。 「ユキちゃん足綺麗だし、出して正解ね♡腰のラインもピッタリしてていい感じよ」 事細かにいい所を何個も上げて褒め倒しにかかる紫呉。結季は気恥しいながらも嫌な気はしなかった。 「あの……本当にこんなのでご褒美になるんですか……?」 「何言ってんの、なるに決まってるじゃない。ユキちゃんがアタシの服を着てくれることが何よりも嬉しいんだから!あ、そうだ。アタシも色違いで作ったの……着替えてくるから一緒に写真撮りましょ」 紫呉は結季の返事よりも早く立ち上がりその場で着替え始めた。 実はこういう所に意外と男味がある紫呉。こんな姿を会社の人が見たら驚くだろう。 「出来たわよ」 結季よりも背の高い紫呉はさすがと言った感じでそのタイトめなワンピースを完璧に着こなしている。同じ服を着ているのにどうしてこうも変わるのか……思わず見惚れる程に似合っていて結季はまじまじと見つめてしまう。 「そんなに見つめたら穴あいちゃうかも♡」 「あ、ごめんなさい……」 「ふふ、うーそ。ユキちゃんに見つめられるの大好きよ」 「俺も……紫呉さんに見つめられるの、好きです……ドキドキするけど……」 いつも言葉をストレートに伝えてくれる事が嬉しくて結季も自然とそれに対して返事を返すようになった。言葉にするのはまだ少し恥ずかしいが、紫呉が嬉しそうに笑うので結季も嬉しくなる。 「可愛い……ちゅーしていい?」 「……どうぞ」 柔らかく重なる唇。ほのかにお酒の香りが鼻腔をくすぐった。 「ん……。あ、ごめんなさいね……お酒くさいわよね」 自分がお酒を飲んできた事を思い出してパッと離れる紫呉。 「大丈夫です……あの、もっとしてください……」 忙しかったこともあって恋人同士の時間もご無沙汰だった結季は今のでは物足りないと自分から紫呉に抱きついた。 「ユキちゃん……」 「……あの、我慢してたのは……貴方だけじゃ無い、から……」 キュッと抱きしめる腕に力を込める。 「そんな可愛いこと言われたら……期待に応えないとな?」 ひょいっと軽々と結季を抱き上げた紫呉はそのまま寝室へと向かった。声色が変わって結季の鼓動は早くなった。 「あ、あの……紫呉さん酔って……」 「酔ってるよ……でもそれは酒じゃなくて……結季に酔わされてる」 「……っ」 こんな恥ずかしいセリフだって紫呉が言うから様になる。普通の人だったらキザったらしく笑ってしまうだろう。 「あ……あの、手加減してください……」 「それは……約束できないな。こんな可愛い恋人が目の前にいて自制出来る男は居ないでしょ」 「うぅ〜……」 さっきから耳を塞ぎたくなるような殺し文句を浴びせられて結季はドキドキが止まらなかった。 寝室のベットへゆっくりと降ろされる頃には体が火照り、少しだけ熱く感じた。間髪入れずに降ってきた口付けにあっという間に頭が蕩かされてしまう結季。 「んっ……ふぁ……しぐ、れさん……」 「結季……」 互いに酔って酔わされ、久しぶりの恋人同士の時間は甘く蕩け、濃密なものへと変わっていった。 《終》

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