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第9話

 時間は無情にも流れる。  千冬は別プロジェクトに回され、そのチームの一角に席を移した。  綺麗に片づけられたチーム佐宗のリーダー席に、千冬の変わりに座る人はいない。  千冬が抜けた穴を埋めているのは、サブリーダーの遠藤ではなく、恭吾だ。  絶対的な統率力。  千冬がいくら頑張ったところで、恭吾は手の届かない存在。  コンペもいつも以上に力が入ったのは、ライバル会社のプロジェクトマネージャーが恭吾だったからで、恭吾に自分が成長した姿を見て欲しかったからだ。  確かに無理をし過ぎた自覚はある。  ただ、恭吾に認めて欲しかった。  恭吾に、頑張ったな、と、もし一言いわれていたら、それだけで千冬はどれだけ救われただろう。  しかし恭吾は非情だ。  プロジェクトから外し、現在システム部の中で、おそらく一番時間を持て余している……いわゆる暇なチームへ、千冬を回したのだ。  休憩ルームで缶コーヒーを飲んでいると、恭吾がやってきた。  恭吾と話をするのは、退院した日以来だ。 「最近体調はどうだ?」 「ええ、おかげさまで、すっかり良くなりました」  ドゲのある言い方で、千冬は返す。 「佐宗、今後のことで話がある」  千冬は、自身の降格を覚悟し、口を結んだ。 「来月からお前のポジションだったところに、リーダーとして遠藤を入れる。それから……」 「僕のことは『いらない』から、そもそもプロジェクトから外したんでしょう! 回りくどいことなんてせずに、はっきり言えばいい!」 「違う! 俺の話を聞け!」  恭吾が千冬に伸ばした左手を、払いのける。 「なにも聞きたくありません!」  カランと金属片が落ちた音がした。  少しの静寂のあと、恭吾の会社用の携帯が鳴った。  こんな時に、と舌打ちする。  踵を返し、電話に応答しながら恭吾は休憩ルームを出て行った。 「入ってもいいかしら?」  社内清掃を担っている会社の制服を着た初老の婦人が、千冬に声をかける。  恭吾がいなくなってから、どのくらい時間が過ぎたのだろう。手にしていた缶コーヒーは(ぬる)くなっていた。 「どうぞ」  缶コーヒーを一気に飲み干すと、ごみ箱に捨てる。 「あら? これ結婚指輪じゃないかしら……」  初老の婦人が指輪を拾い上げる。  さきほどの金属片の音は、恭吾の指から指輪が抜けて落ちた音だったのだ。 「落とし主はわかりますので、僕が渡しておきますよ」 「そう? ありがとう。きっと困ってると思うから、よろしくね」  指輪を受け取ると、ポケットに仕舞い込んだ。

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