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第二話 学園祭の迷子 Ⅰ 学園祭
双子が住む海辺の港街ハーバータウンから首都に向かって車で半時間ほど走ったところにある地方都市に、彼らが通う国立大学はあった。
今日は大学の学園祭である。年に一度の祭典である今日の構内は澄み渡った青空の下、学生や一般客でごった返していた。
「兄様の想い人、エドウィンに会うのが楽しみだわ」
亜麻色のロングヘアーに朽葉色のヘアバンド、オリーブ色のワンピースを合わせたユリウスの妹クラリッサは兄と一緒に構内を歩きながら、笑顔で言った。彼女は15歳。鳶色の瞳の美少女で特段身長が低いわけではないが、185㎝ある兄と並んで歩くとやはり小柄に見える。
「ああ、まあ……」
とユリウスは妹に歯切れ悪く答えた。妹と同じ髪と瞳の色の彼の今日の装いはカーキ色のボタンダウンシャツにベージュのスラックスと、兄妹揃って落ち着いた色合いで纏めており、彼ら的には目立たない恰好をしてきたつもりだったが、この美形の兄妹は遠目からでも人目を引くオーラがあった。
「ほとんどの大学の学園祭は秋なのに、この大学は春なのね」
クラリッサが呑気に呟く。ことの発端は数日前。エドウィンの通う大学の学園祭をネットで知ったユリウスは早速彼に連絡を取って会う約束を取り付けたのだが、久しぶりに会えることが嬉しくて傍目にわかるほどウキウキしていたらしく、その結果、妹に感づかれて全て話さざるを得なくなった挙句、『私も連れていって』攻撃に遭い、今に至る。
――午後二時からのエドの武道演武まで一緒に観て回って、演武が終わったら近鄰のカフェでお茶しようと思っていたのだが、クララがいては二人きりにはなれないな……
ユリウスは心の中で溜息を吐いた。この前の地区武道大会で優勝したエドウィンは、学園祭の運営委員会からオファーを受けて、二時から大ホールで武道演武を披露することになっていた。
「それにしても。兄様がピンチの時に颯爽と現れて助けてくれただなんて、すっごくドラマティックな出会い方ね!」
両手を組み合わせ目をキラキラさせながらクラリッサが話すと、ユリウスはエドウィンとの最初の出会いを思い出して微笑んだ。極秘の商談の帰り道、チンピラ数人に囲まれたユリウスは痛い目に遭い財布を盗られることを覚悟したのだが、偶然通りかかったエドウィンが彼らを瞬く間に撃退した。
――一目惚れだった。
お礼をしようとして決して受け取ってもらえず、名乗らずに立ち去ろうとした彼に頼み込んで連絡先を交換してもらった。
――あれからずっとアプローチし続けているが、気づいてもらえていない。
だから今日の彼との約束はユリウスにとって“満を持して”とでもいうべき出来事だったのだが。
「フードコートはここを真っすぐよ」
「ああ」
大学のメインゲートでもらったパンフレットの地図を確認するクラリッサにユリウスは頷いた。何でも本日、エドウィンは双子の妹マリルーとともに、カフェを経営する母親が作った焼き菓子の売り子をしているという。そのため今日はフードコートにある彼らのブースで待ち合わせることになっていた。
「エド……」
ユリウスはもうすぐ会える想い人の名を愛し気に呟いた。
「このまま行けば完売しそうだ」
カフェ“ルビー”の焼き菓子ブースで、後ろに積んだ段ボール箱からパッケージングされた焼き菓子を取り出し、せっせと店頭に並べるエドウィンがマリルーに言った。
「ルビーのインスタを大学の友達に共有した効果かしらね」
マリルーが嬉しそうに話す。
「そう言えばエド、ユリウスさんと会うのよね? 彼が来たら店のことはいいからゆっくりデートしてきて」
「へ? デートじゃない。案内するだけだ。第一、妹さんも一緒だっていうし」
「え……妹さんも一緒なの?」
マリルーが意外、といった顔をした。てっきり二人で会うと思っていたからだ。
「……まあ。学園祭は大勢で楽しむ方が“らしい”よね。あっ、あれ、ユリウスさんじゃない?」
「ほんとだ。俺、行ってくるよ」
エドウィンはブースの外へ出た。
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