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第2話:自分の仕事
下り坂の先に進む小隊は、先ほどより注意深く前に進む。
木の根の影に隠れるように、小さな入り口の洞窟を発見した。あそこが今回の討伐対象である魔物の巣だろう。目立ちにくい場所にあったため今まで発見されていなかったらしく、少し繁殖しすぎてしまったのだとか。その影響で餌を求めて森の外に出る個体もいる。
巣の外でしばらく様子を見るが、中から魔物が出てくる気配はない。
「数は分かるか?」
「正確な数は不明ですが、10体ほどいるのではないかと推測されています」
兵士の1人が、シュヴァリエに耳打ちする。
「ふむ、意外と深い洞窟なのだな。あんな狭い場所に堂々と入るわけにはいかない。おびき寄せるぞ」
「はっ!」
小さな声で敬礼したその兵士は、腰に巻いていたポーチから小さな麻袋を取り出す。麻袋の中には魔物を興奮させる匂いを発する、アシッドの実を加工して作った特殊な粉薬が入っている。
薬師であるルッツが事前に作っておいたものである。これを洞窟内に散布させておびき寄せるのだ。
兵士は弓矢を取り出し、矢の先にその袋を慣れた手つきで括り付ける。的を外さないように洞窟をじっと見ながら前に出た。そしてその矢を洞窟内に射ったのとほぼ同じタイミングだった。
「退け!!」
シュヴァリエが大声で叫ぶ。
兵士がその言葉に反応して下がる前に、近くの茂みに身を隠していたキラーヴォルフが飛び出した。
「ぐあっ!!」
飛び出したキラーヴォルフがその喉笛に鋭い爪を振り下ろした瞬間、シュヴァリエは兵士の襟首を掴んで後ろに引っ張った。
しかし僅かに間に合わず、その爪先が運悪く鎧と鎧の境目である脇のあたりを切り裂いた。シュヴァリエはそのまま兵士を後ろに放り投げ、腰に帯刀していた剣を抜く。キラーヴォルフが着地して次の標的に狙いを定める前に、シュヴァリエは剣を振り下ろした。
「ふんっ」
ザシュ……と肉と骨が切断される小さな音が鳴り、飛び出したキラーヴォルフの首から上が無くなった。叫び声を上げる間もない程の素早い剣捌きに、少し離れた所で見ていたルッツは何が起きたのか一瞬理解できなかった。
放り投げられた兵士と一緒に切り落とされた首が地面に叩きつけられる。迷いのない一刀は美しさすら感じた。
「うぐっ、いてぇ……」
「以前キラーヴォルフは身を潜め、獲物が狩りを行う瞬間を狙って攻撃する習性があると言っただろう? ルッツ、聞こえるか!!」
「はい、只今!!」
シュヴァリエは剣に付着した血を払いながら叫ぶ。呼ばれたルッツは慌てて隊の後ろから飛び出し、負傷した兵士のもとに駆け寄った。
「彼の治療を頼む」
「了解しました。立てますか?」
ルッツが兵士を抱え上げて肩を貸した時、洞窟の方から獣の唸り声が聞こえた。仲間の血とアシッドの実の匂いで興奮した残りのキラーヴォルフが、一斉に飛び出してきた。
「ルッツ、ここは俺たちに任せて早く後ろへ」
シュヴァリエはルッツを守るかのように、飛び出してきたキラーヴォルフの前に立って再び剣を構える。
そしてキラーヴォルフを見据えながら、魔法の呪文を唱えだす。すると彼が持つ剣の刀身が、みるみるうちに緋色に染まっていく。剣に埋め込まれた魔法石がシュヴァリエの呪文と魔力に呼応して強い熱を宿し始めた。
皮膚を焦がすかのような激しい熱波が、離れているルッツにも伝わる。それを一振りすると、ゴウッと音を立てて炎の帯がキラーヴォルフとシュヴァリエの間に広がる。
突然現れた炎の壁にキラーヴォルフたちも慌てて飛び退きながら悲鳴のような鳴き声を上げている。うねる灼熱の炎がキラーヴォルフたちに纏わりつき、群れを散り散りに引き離していった。
「ルッツ君頼んだよー。シュヴァリエ隊長、ルッツ君が見ているからって変に調子に乗らないで下さい。そいつら焦がしちゃ駄目ですからね!」
「分かっているよフレンダ……」
剣を抜いた副隊長のフレンダがすれ違い際にルッツの肩をポンと叩く。ルッツが十分に距離を空けた事を確認したシュヴァリエは、魔法の炎の勢いを弱めた。
―――――――――
そして続々とキラーヴォルフに向かっていく兵士たちを見送りながらルッツは負傷した兵士を隊の最後尾に運んだ。
あまり離れすぎては後ろから奇襲があった時に助けが来ない。すぐ近くで剣の音と獣の唸り声が聞こえる緊迫した状況の中、ルッツは肩掛け鞄のファスナーを開ける。
ルッツの仕事は魔物の討伐ではなく、メインの仕事は兵士の治療だ。怪我の状態に応じて臨機応変に治療の対応をする。切り傷を見て、ルッツは咄嗟に手のひら大の小瓶に入った塗り薬を掴む。
(……いや、これじゃない)
一瞬目を伏せた後に小瓶を離し、元の位置に戻す。代わりに木製のケースに保管してある魔法石を取り出した。
透明な緑色の水晶のようなその石には、あらかじめグローリア王国の魔術師たちによる癒しの力が込められている。
「癒しの魔法をかけます。怪我を見せてください」
ルッツがそう言うと兵士は脇を開く。魔法石を患部に近づけ、ルッツが傷を癒すようイメージすると、魔法石から淡い光が溢れ出した。
その光は傷口を埋めるかのように包み込み、ものの数十秒で切り傷を完全にふさいでしまった。
「ルッツさん有難うございます! これでまた戦えそうです!」
そう言って兵士はルッツにぺこりと一礼し、再び弓を握った。そして仕返しだと言わんばかりの勢いで、咆哮を上げながら交戦の場に向かっていく。
走り去っていく兵士や、その奥にいるシュヴァリエやフレンダを、ルッツは憧憬の眼差しで見つめていた。
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