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第3話:消せない想い

   戦況は事前の報告により万全の準備が行われていたこともあり善戦のようだ。  5人1組のチームに分かれ、シュヴァリエの炎の魔法で分断されたキラーヴォルフと戦っている。魔物は動物より生命力が強いが、訓練された兵士に囲まれれば脅威ではない。  何よりこちらには現在の聖グローリア騎士団最強の称号を持つ隊長のシュヴァリエが居る。  飛び掛かる2体のキラーヴォルフの爪を身を翻してあっさりと避け、返しの一撃でその胴を真っ二つにする。  もう1体も、足を踏み込んだかと思えば目にも留まらぬ速さでその首をあっさりと刎ねた。こんな状況でも頬にかかった返り血を拭う余裕があるのは彼くらいだろう。 「ルッツ君、彼の治療もお願い!」  自分の名を呼ぶ声にハッとしたルッツは、声がした方を振り向く。  副隊長のフレンダが困った顔で1人の兵士を引きずっていた。頭から血が流れているが、唸り声をあげているので生きている事が分かる。急いで魔法で治療すれば大丈夫だろう。 「飛び掛かられて倒れた拍子に頭を岩にぶつけてしまったみたい。運がないねぇ」 「出血は少ないし、兜を着けているから大丈夫だと思う。念のため癒しの魔法を使うね」  そう言ってルッツは先ほどの魔法石を、兵士の頭に近づける。患部に魔法石から放たれる淡い光を当て続けると、苦しそうに呻き声を上げていた兵士の呼吸が穏やかになっていく。  ルッツがほっと胸をなでおろしていると、遠くで「ああっ!」と誰かの焦る声が聞こえた。 「うわっ、油断しやがって……」  焦る声が聞こえた方へ振り返ったフレンダは立ち上がり、ルッツと負傷した兵士の前に出た。  ルッツも振り返ると、囲んでいた兵士をするりと通り抜けた1体のキラーヴォルが、真っすぐこちらへ走ってくる。身体には大きな切り傷を負っており、ほぼ瀕死のようだが最後の力を振り絞って逃走しようとしているのだろう。フレンダは慌てる様子もなく剣を抜いた。 「フレンダ、下がれ」  フレンダが剣を振り上げようとした時、鼓膜の奥にこびり付くような低く怒りに満ちた声が聞こえてきた。キラーヴォルフの突進に備えて剣を構えていたフレンダの肌に、ぞわりと鳥肌が立つ。  一歩後ろに下がると同時に、目の前を真っ赤な炎の渦が覆った。  シュヴァリエの魔法の炎だ。大きな渦はまるで大蛇のようにうねりながらルッツたちの前に突進しようとしたキラーヴォルフを一瞬で丸のみしてしまった。 「グルオォオオォォ!!」  喉を潰すかのような苦悶の咆哮が辺りに響く。  地獄の業火のような苛烈な一撃が、苦しそうに絶叫を上げるキラーヴォルフを焼き焦がしていく。僅かにもがき苦しんだ後、真っ黒になった肉塊が力なくぼとりと倒れた。体毛も全て塵になり、肉も殆ど炭になってポロポロと崩れ落ちている。  あまりの衝撃的な光景にフレンダとルッツはぽかんと口を開けて硬直していた。 「はぁ……こっちに来なければこんな死に方しなかったのに。てか焦がしちゃ駄目って言ったのに、シュヴァリエ隊長って変なところで子供っぽいね……」  フレンダが頬をぽりぽりと掻きながら呟く。  ルッツは顔を上げてその炎を放った人物……シュヴァリエをじっと見つめた。  真っ赤な炎の色に染まる黒色の鎧と、熱波に煽られてバサバサとなびくマント。飛び散る火の粉は彼を称えるかのように爛々と煌めき、神が丹精込めて造り上げたかのような美しく凛々しい顔を照らした。  うねる炎に負けないほど強い怒りと決意を秘めた深紅の瞳が、ルッツの目と合った瞬間に安心したかのようにフッと綻んだ。 (あの時のようだ……)  ルッツは湧きあがる高揚感を抱えながら、目の前の光をじっと見つめた。炎を背に堂々と立つその姿は、絵物語で見た理想の戦士のようだ。  どうやらキラーヴォルフは全ての討伐を終えたようで、兵士がシュヴァリエに報告をしている。  だがルッツは目の前の光景に呆然とし、周りの音も遠ざかっていくかのような感覚に陥る。定期的に思い出す、あの時の憧憬に満ちた思い出が脳裏に浮かぶ。 「シュヴァリエ隊長……好きです……」  無意識にぽつりと呟いた言葉は、近くに居たフレンダにも聞こえないほど小さかった。出会った頃から憧れる遠い存在……傍で働けるだけでも誇らしいと思いつつも、消せない想いが燃え上がっていた。  

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