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第6話:ストレス解消とは
ルッツがシュヴァリエの手当てを終えた頃、ちょうど魔物の袋詰めが完了したらしい。
ソリがあるとは言え、あれだけのキラーヴォルフを運ぶのは馬の負担が大きいので、先頭にいるシュヴァリエとフレンダは馬から降りて手綱を引いて歩いていた。
ルッツはただ、その後ろ姿をじっと見つめていた。
シュヴァリエの隣を堂々と歩けるフレンダが羨ましかった。彼の事は昔から仲が良いし、血の滲むような努力の末副隊長の座を手にした事も知っているから嫉妬はしていない。
ただ彼と違い、いつまでも成長できない自分が情けなかった。
「僕はシュヴァリエ隊長に恩返しがしたいのに、いつも気を遣わせて空回りして……フレンダのようになれたらもっと色んな手助けが出来るのに……」
どうして騎士団に入った後も自分はこうなのだと、胸の奥にこつこつと小さな重石が積み重なっていく感じだ。勿論与えられた仕事はちゃんとこなしている。だが自分はこの騎士団に居る必要があるのかと常々悩んでいた。
その気持ちを吐露すれば、きっとシュヴァリエは心配する。彼はいつだってルッツに笑顔を向け、助けてくれるのだ。だからこそ何も言えず、目の前の光景に下唇を噛む事しか出来なかった。
―――――――――
しばらくして騎士団一行はエニグマ森の外へ出た。
薄暗い森から抜けた先は、長い草が生い茂る草原だった。切り立った崖の上にあるこの場所からは、静かな波音を立てる海が見える。心地よい潮風が吹き抜け、緊張感で汗ばんだ身体を程よく冷やしてくれる。水平線に沈む夕陽が視界を覆い、眩しさに思わず目を細めた。
エニグマ森の重々しい雰囲気から一変した美しい景色に、ルッツは一気に肩の力が抜ける感覚を覚えた。
「いつ見ても綺麗だな」
一行は更に歩いていく。すると周囲を見渡せる高台にある崖の近くに待機していた、聖グローリア騎士団のキャラバン隊のテントが見えてきた。
エピセの葉の香水を染み込ませた木とロープで出来た簡易的な柵で、周囲をぐるりと囲っていた。その内側では10人ほどの控えの兵士たちが数匹の馬の世話や荷物の見張り等を行っている。
エニグマ森とグローリア王国はそれなりに距離があり、本日は出動時間が遅かったので1泊野営する事が決まっていた。
狭い森では荷物運び用の馬やキャンプ道具一式は邪魔になる。それに森で何かしら不測の事態が起きた時にすぐ応援を寄越せるよう、ある程度の騎士団員がこの場所で待機しているのだ。
「よし、全員無事に合流できたな。疲れているだろうが暗くなる前に野営の準備に取り掛かるぞ!」
柵の内側に全員入ったことを確認したシュヴァリエが、周りの者たち全員に聞こえるように声をあげた。兵士たちは緊張の糸が途切れたように息を吐き、武器を下ろしながら散らばっていく。
兵士たちは各グループに分かれて、各々割り振られた係の準備に取り掛かり始めた。
あるグループは討伐した魔物の確認と武器の手入れ、あるグループは石や丸太を現地調達して椅子を作り、皆が快適に寝られるよう追加でテントを張っている。
「隊長ー、ちょっとストレス解消に行ってきます」
キャラバン隊に馬を預けたフレンダが、見張りをしながら自分の剣を磨いていたシュヴァリエに声をかける。キラーヴォルフ討伐時に持っていた剣の他に、右手に弓を握り、背中には矢筒を背負っている。
初めてフレンダに会う者にとっては「何を言っているのだろう」と思うだろうが、夕飯の狩りに行って来るという意味らしい。
「1人では駄目だ。せめて誰か連れていけ」
毎度の事なのでツッコミを諦めているシュヴァリエがため息を吐きながら言う。
するとその時、テントの内側からダイヤとモンドーが飛び出して駆け寄ってくる音が聞こえた。
「フレンダ副隊長ー! どこ行く気っすか!」
「あと俺の矢を取らないでほしいっす!」
「じゃあ、あの2人連れていきます」
フレンダは丁度いいと言わんばかりにダイヤとモンドーを指さす。どうやら持っている弓と矢はダイヤの物らしい。
突然指をさされた兄弟は状況が理解できず、疲れ切った顔で2人同時に首を傾げた。相変わらず息がピッタリである。そんな呆然としている2人の事など気にする様子もなく、フレンダはエニグマ森の方へ歩きながら首だけ兄弟に振り返る。
「おーいダイヤモンド兄弟、空が暗くなる前に行くよー」
「ちょっ、何をするかもうちょっと詳しく説明してくださいっす!」
「てか名前まとめないでほしいっす!」
そそくさと森の方へ進んでいくフレンダを、2人は慌てて追いかけていた。
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