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第9話:もう一つの役目※
その後も何度かお湯を被り、持ってきた道具をいろいろ使って出来る限り身体を清めた。
身体の水気を拭いて諸々の準備が出来たルッツは、脱ぎやすいようなバスローブに着替えていた。不安を散らそうとするように息を吐き、大きなテントの入り口の布をめくって顔を覗かせる。
「シュヴァリエ隊長、失礼します」
ここはシュヴァリエ専用のテントだ。
隊長は特別に個人でテントを立てて寝る事を許されており、他の者は基本的に誰も入れない。ルッツはこの後の仕事のこともあり特別に許可されているが、未だに入るのは緊張する。
テントの中央にはすでに布団が敷かれており、いつでも寝られるように準備をされていた。近くには金木犀の香水が置かれ、鼻腔をくすぐる甘い香りにルッツの表情が一瞬緩む。
ガスランプの弱い光で照らされた薄暗いテントの端にシュヴァリエは居た。折り畳みの小さな机の前で今日の任務の報告書をまとめていたようだ。
鎧は外しており、隊長の証である真っ赤なマントと一緒に反対側のテントの端に置かれている。湯浴みは終えているのか金色の髪は僅かに湿っており、今は黒のセーターとズボンのシンプルな姿だ。
ルッツの声が聞こえると、眉間に皺を寄せて書類と睨めっこしていたシュヴァリエが柔らかく微笑んだ。
「ああルッツか。中に入ってくれ」
「はい、失礼します」
ルッツは靴を脱ぎ、一礼をしてからテントの内側に足を踏み入れる。入り口のシートを閉じれば、わずかに聞こえていた潮風の音もかき消されてしまった。
2人だけの、2人の為の空間。そう言ってしまえばなんともロマンチックなものだがルッツの表情は緊張で固いままだ。
薄いシート越しに柔らかい草を踏み締める感覚がする。それも布団のシーツ上に足を置けば柔らかい羽毛の感覚に切り替わり、この後の行為を想像して思わず身が震えた。
「……辛いか?」
机の前から立ち上がったシュヴァリエが、布団の中央で正座しているルッツの前に座る。
「無理はしなくて良い。ただ静かに身を寄せ合って寝るだけでも、俺は……」
「いえ、これが僕の……この隊では僕にしか出来ないオメガの仕事なので」
そう言ってルッツは太ももの上で握っていた両手を広げてシーツの上に置き、上半身を大きく前に倒して深々と頭を下げた。
「ご奉仕させて頂きます。準備も出来ているので、いつでもどうぞ」
弱々しく消えそうな声だった。
ルッツの身体が僅かに震えているのを見て、シュヴァリエの表情が苦悶に歪む。この身体の震えが、ただの緊張感や快楽への期待からくるものではないのは明らかだ。
口から吐いた言葉とは裏腹に、深々と下げられたルッツの顔には不安が浮き上がっている。まるで獲物として巣に連れてこられたウサギのように身体が僅かに震えていた。
シュヴァリエは何かを言おうと一度口を開くも、結局言葉が出ずに口を閉じて奥歯を噛み締めた。
「……なるべく優しくするから、肩の力を抜いてくれ」
「有難うございます。シュヴァリエ隊長は優しいですね」
たとえ発情期でなくても、アルファであるシュヴァリエはオメガの身体を貪りたいという衝動を秘めている事をルッツは知っている。
何故なら時折情熱的な視線を自分に向けてくれるのだから。その衝動に身を任せて襲う権利があるのに、シュヴァリエは絶対に気遣いを忘れない。そんな彼だからこそ一時でも癒しになれるなら、欲望の捌け口になれるなら本望だと思った。
ルッツがお礼を言った瞬間、シュヴァリエによって身体を抱き寄せられる。
落ち着かせるかのように頭を撫でられながらバスローブの紐がするりと解かれた。結び目が解けて晒された胸に、大きな手のひらが這うように侵入してくる。
胸から腹を何度も大きく撫でられれば、少しずつルッツの体温が上がっていく。
「う、ん……」
僅かな気持ちよさに悶えると、バスローブをゆっくり引っ張られて脱がされていく。
知らない人に騎士団の一員と言っても信じてもらえないほど細く華奢な身体だった。ルッツも筋トレを一切していない訳ではない。オメガの身体は筋肉がつきにくく、これが普通なのだ。
下着も着けていなかったのであっという間にシュヴァリエの前にルッツの全てが晒される。
「……シュヴァリエ隊長も、脱いでください」
ルッツはシュヴァリエのヘソの辺りを誘うかのようにいじらしく撫でる。シックスパックの凹凸をなぞるかのような指の動きにシュヴァリエは思わずゴクリと唾を飲んだ。
「ああ」
その返事はいつものように優しい声色だが、どことなく欲を含んだ湿度を滲ませている。ルッツのバスローブを脱がすのはゆっくりで丁寧だったのに、自身の服は乱暴に脱いでその辺りに放り投げた。
服越しでも伝わっていた立派な肩幅と筋肉が完全に顕になる。
一切の無駄がない、鍛え上げられた完璧な肉体だった。薄明かりの中でも筋肉の陰影がはっきり分かるハリのある肌は、何度見ても思わずドキリと胸が高鳴る。
僅かに見える塞がった傷跡すら、シュヴァリエの肉体を美しく見せる装飾のようだ。オメガではなれない戦士の理想の体型に、羨望の眼差しを向けずにはいられない。
「格好いいな……」
思わず本音を口にすれば、シュヴァリエは驚いたように目を丸くした。
照れているのか恥ずかしがっているのか、頬はわずかに赤色に染まっている。ゆるりと起き上がり始めるシュヴァリエの陰茎を見て、いよいよだとルッツの背筋がぶるりと震えた。
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