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第14話:早い者勝ち

   数刻後、ルッツは騎士団の訓練所の前まで来ていた。  入り口に居る受付嬢に薬を手渡したルッツは、大きなお盆を持っている。その上に山盛りにされた団子のような白い生地のおやつが積み重なり、乾燥しないように蒸し布をかぶせていた。  廊下を抜けて兵士たちが訓練をしている裏庭に出ると、丁度お昼休憩中だった。全員ではないが外で休んでいる者も多い。ベンチに座って昼寝している者や、遅めの昼食のサンドイッチを齧っている者など様々だ。  その中でも特に目を引いたのは副隊長のフレンダだ。  休憩時間だというのに弓の訓練をしている。弓を引き、呼吸を止めて真剣な眼差しで的を見据えている。集中しているようでルッツには気付いていない。  息を呑んで見守っているとフレンダが矢を放った。風を切るように一直線で突き進む矢は、見事に的の中心に命中した。 「すごい! フレンダすごい!」  思わずルッツは声を上げた。あんな数十メートル離れたところにある的の中心を一発で射貫くなんて、ルッツには出来そうにない。  フレンダは1年前、ルッツと同じ日にこの聖グローリア騎士団に入隊するために門を叩いた。イビルイーグル奇襲の一件から厳しい特訓を重ね、入隊前からそこいらの兵士顔負けの高い実力を持っていた。ルッツの方は審査に手間取ったのかやや遅れて入隊したが、フレンダはシュヴァリエの推薦によりあっさりと決まった。  その後もここで専門的な訓練を重ねてめきめきと成長し、今では最年少で副隊長になった自慢の幼馴染だ。  興奮気味のルッツの声で、フレンダは弾かれたかのように勢いよく振り返る。 「ルッツ君、来ていたんだ!」  余程集中していたのか、ようやくルッツの存在に気付いたらしい。  フレンダは先ほどまでの精悍な表情から一変して、明るく満面の笑みを浮かべて手を振る。ルッツの傍まで駆け寄る笑顔はいつまで経っても変わらない無邪気さを秘めている。 「フレンダが弓を使っているの久しぶりに見たけど上手くなっているね。これならイビルイーグルを撃ち落とせるのも納得だよ」 「はは、あいつらボコボコにするために練習しているようなものだからね。というかそれ何? もしかしてリーリブでよく食べていたおやつ?」  フレンダはルッツが両手で持っているお盆に盛られた白い物を指さす。 「うん。中のあんはキラーヴォルフの肉だけどね。味見はしたけど結構美味しかったよ。良かったら夕方の休憩時間にでも食べてよ。ちょっと足りるか分からないけど」 「いやいや、どうせまだ全員腹に隙間が空いているだろう。おーい皆、ルッツ君が差し入れ持ってきたぞ!!」  フレンダが周りに呼びかけるように身体を捻りながら大声を出す。眠っていた兵士も起き上がり、廊下を偶然歩いていた兵士も興味深そうに顔を覗かせている。  1週間前のキラーヴォルフ討伐には小隊で十分だったので向かったのは30人くらいだったが、聖グローリア騎士団の兵士や隊の総数はそれの数倍多い。かなりたくさん作ってきたつもりだが、足りるかどうか。 「つまり早い者勝ちっすね!」 「俺たち一番乗りで良いっすか?」 「へ? うわぁ!!」  ルッツの背中から左右に分かれて顔を覗かせる2つの影があった。  ダイヤとモンドーだ。いつの間にか後ろに居たらしい。ルッツが持っている大皿を眺め、蒸し布を剥いでから真っ白な団子を1つずつ摘まむ。  直径5センチくらいの大きな団子を左右に割るように伸ばすと、内側に入っていたあんがとろりと溢れる。あめ色に煮詰められた甘辛い味付けのそぼろあんを、団子の生地でくるんだおやつだ。外で働く者が多いリーリブでは、片手で食べられ、形の崩れにくいこれがよく作られている。 「なんかおかず版みたらし団子ってかんじっすね」 「あ、この組み合わせ結構いけるっすね。団子生地のほのかな甘みが良い感じっす!」 「ダイヤモンド兄弟……君たち午前の訓練サボっていただろ……」 「ハッ!」 「やべっ!」  もぐもぐと両手でリスのように団子を食べるダイヤとモンドーの前に、ドスの利いたフレンダの低い声が響く。  初めて食べるおやつに目をキラキラと輝かせていたダイヤとモンドーの顔にぽつぽつと汗がにじみ始める。2人は持っている残りの団子を口に詰め二手に分かれて一目散に逃げて行ってしまった。  最後に「美味しかったっす~」という言葉を聞き、ルッツが振り返る頃には2人とも姿が見えなくなっていた。ぽかんと口を開けて呆然としているルッツの横を、猛スピードでフレンダが通り過ぎていった。 「ルッツさん、それ貰っていい?」  周りで様子を見ていた兵士たちがおずおずと訊ねてくる。ダイヤとモンドーが美味しそうにちまちま食べているのを見て興味が湧いたらしい。 「勿論です。早い者勝ちになりますがお召し上がりください」  笑顔でお盆を掲げると、周りの兵士たちが順番に一つずつ取っていく。  山のように積んでいた団子が次々と手に渡り、口の中に消えていった。昼食後の時間だというのに、皆笑顔でルッツに会釈をしながらお礼を言ってくれる。 「有難うございます! これ美味いですね」 「山菜の炒め物といい、俺、ルッツさんの料理けっこう好きだなぁ!」 「山菜? なにそれ食った事ないんだけど?」 「シュヴァリエ隊長が出る仕事に同行すればルッツさんのご飯食えるよ。あの人面白いくらいルッツさん連れてくるから」 「へー、シュヴァリエ隊長ここ3年でなんか変わったよね。ずっと前は一匹狼だったのに」  団子を頬張りながら会話が盛り上がっている光景に、ルッツは胸が温かくなるのを感じた。まだシュヴァリエの役に立てているとは言えないけれど、こういう料理なら少しは満足してもらえるかもしれない。あの日の夜もルッツの山菜料理が好きと言ってくれた。 (料理、もっと練習しようかな。お酒も好きだと言っていたし、美味しい飲み物も作れるようになれば喜んでくれるかもしれない)  暗くくすんでいた気持ちに、ほんの少し希望の光が灯り出す。  そんな事をぼんやりと考えている内に、団子はフレンダとシュヴァリエ用の2つのみになっていた。  

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