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第15話:戦う力が全てではない
ベンチに座ってしばらく待っていると、苛立ったように大きな足音を立てながらフレンダが戻ってきた。ダイヤとモンドーはおらず、不機嫌そうなオーラから2人を取り逃がしたという事は容易に想像できた。
「ああもう、あいつら後で締める」
「えっと……お疲れ様。フレンダの分残しておいたよ」
そう言いながらルッツはお盆を差し出す。フレンダは残っている団子を1つ取ると大きく口を開けて頬張った。不機嫌そうに細められていた瞳は、生地を噛みしめるごとにふっと柔らかく弧を描く。
「うん、やっぱこれ好きだ」
「それは良かった。にしても副隊長も大変だね」
「あいつらは特に面倒。よく分からないくらい捕まえるのが難しい。2人揃うともっと厄介」
「そこまでなんだ……」
「偵察班って事前に情報が出そろっていないうちに少人数で行くからかなり危険なんだ。なのにあいつら毎回ほぼ無傷で戻ってくる。森や人混みに隠れるのがすごく上手い。かと思えばいつの間にかひょっこり現れる。しかもバラバラになって逃げるのに最後には絶対合流する。もはや何かの特殊能力だよ」
団子を1つ平らげたフレンダはやれやれとため息をついた。逃げられた事を気にしているのか、フレンダの表情はどこか悔しそうだ。
「代わりに戦闘に関する技術は平凡以下なんだけどね。でもあいつらを見ていると戦う力が騎士団の全てではないって分かる。お互いフォローし合っているというか、2人だからこそ力を発揮できるんだろうね。あいつらにしか出来ない」
珍しく饒舌なフレンダにルッツはただ黙って聞いている。いろいろぐちぐち言っているがフレンダもダイヤとモンドーの実力を認めているんだなと思った。
確かにダイヤとモンドーは騎士団の縁の下の力持ちというイメージが合う。偵察が得意というのも何となく分かる。いつの間にか背後を取られている事も多いから。
「そういえばシュヴァリエ隊長はお休みなのかな? 姿が見えないけど」
もうすぐ昼休憩も終わる時間だというのにシュヴァリエが来る気配はない。せっかくだから差し入れの団子を渡したかったのに少しだけ残念な気持ちになる。
「あー、多分今は会議中かな。しかも午後から数日非番らしい。最近忙しくて疲れているみたいだし、噂ではフォレリーにでも行くんじゃないかって」
「フォレリーって……僕たちの故郷、リーリブの隣町だよね?」
ルッツはリーリブで薬屋を営んでいた時の事を思い出す。
フォレリーもリーリブに似た広い農園と林に囲まれた静かな町だ。あまり外の町に出なかったので詳しくは知らないが、ルッツの店である『ポーリーン・ポーション』にもフォレリー出身のお客さんが居た。
「そーそー。シュヴァリエ隊長の故郷らしいよ。都会より緑に囲まれた田舎の方が落ち着くらしくて、3年前は定期的に帰っていたらしい。もしかしたら知らない内にリーリブにも寄っていたかもよ」
「いやぁ、でもシュヴァリエ隊長ってすごく目立つしすぐ気付くんじゃないかな」
芸術のように美しい容姿に鍛え抜かれた肉体……私服姿は初めて助けられた時含めて何度か見たことがあるが、人を引き付ける魅力を纏っている。見逃すとは思えない。
「それなら今日はシュヴァリエ隊長には会えそうにないな。良ければ最後の一個もフレンダが食べてよ」
「じゃあ遠慮なく。でももう昼休憩終わるから、次の小休憩で食べるよ」
自分で食べるくらいならフレンダに食べてもらおうと、ルッツは蒸し布にくるんだ団子を渡した。フレンダが笑顔で受け取った時、遠くでゴーンと鐘の音が鳴り響く。昼休憩終了の合図だ。
フレンダは腰のベルトに取り付けられている小さなポーチに蒸し布を突っ込むと、訓練場へ戻っていく。ルッツは手を振りながら隊列の前に立ち点呼を取る幼馴染の姿を見守った後、外へ歩いていった。
―――――――――
「シュヴァリエ隊長がいくら強くたって、そりゃあ疲労は溜まるよな……」
廊下を歩きながら、ルッツはぽつりと呟く。
先週はテントの中で醜態を晒してしまった。シュヴァリエは気にしていないと言っていたが、ルッツはその優しさに甘え続けるのは駄目だと思っていた。
今日フレンダや他の兵士たちとの会話で、自分に何が出来るか、どうしたら役に立てるかが少しだけ見えてきた気がする。
「そうだよね。フレンダが言った通り、戦う力が騎士団の全てではない。僕にしか出来ないことだってあるはず。エリ草を採取して疲労回復効果が高いっていう薬茶を作ろう。美味しいお茶は気分を和らげてくれるし、うん、それが良い」
ルッツは胸ポケットから手帳を取り出す。この後の予定が書かれたメモ欄をじっと眺め、うーんと唸る。
「困ったな……今日は兵舎の管理人さんが急用で出かけるから、いつもより早めに施錠される。周期が合えばそろそろ発情期が来てもおかしくない。それが終われば次の討伐任務だ。採取した後も薬茶のレシピ作りもしたいし時間がない」
ただでさえ前回迷惑をかけた。どれだけ反省しても魔法石の登場で薬は不要になりつつあるし、野外だと大した料理も作れないし、性行為だって上手く出来る気がしない。
また思うようにいかない自分に情けなくなって、1週間前より惨めになってまた泣いてしまうかもしれない。それではシュヴァリエを困らせてしまう。
「今日、あの崖の上に行くしかない……!」
今から行けば夕方頃にはあの崖の上に着くだろう。順調に進んだとしてもハルネジアに戻って来られるのは深夜だろうが、首都なら夜遅くまで空いている宿があるはず。
悩んでいる時間が惜しい。ルッツは意を決して準備をする為、自室に戻っていった。
その後ろ姿をフレンダから逃げおおせたダイヤとモンドーが、2人仲良く見送っていた。
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