17 / 42
第17話:焦燥感
とりあえず団子は美味しかったとお礼は伝えるとして、その後どう会話すれば良いのかはまだ纏まっていない。
謝罪でルッツが元気になるならいくらでも頭を下げるが、そんな単純な話ではない事もシュヴァリエも察していた。とはいえ、このままでは駄目だというのはフレンダに言われずとも分かる。
(世間話でも良いから会話して、少しでも開いた距離を縮めたい……)
そんな事をうーんと考えていたら、あっという間にルッツの部屋の前に着いてしまったようだ。部下の部屋に入ろうとするだけで何故こんなに緊張しているのだと思いながら、シュヴァリエは部屋の戸をノックした。
しかし、返事はない。その後も数回ノックしたが、部屋の中から物音ひとつしない。寝るにはまだ早いしどこかへ出かけているのかもしれない。
「あれー、シュヴァリエ隊長じゃないっすか!」
「ルッツさんの部屋の前で何しているんすか?」
ほぼ同じ音程の2人の声がほぼ同時に聞こえる。廊下の曲がり角からひょっこりと顔を出すダイヤとモンドーが目を丸くしながらシュヴァリエを見ていた。
「ダイヤとモンドーか。お前たちここに居て良いのか? フレンダに叱られるぞ」
「今更戻っても叱られるので今日はサボりっす!」
「見逃して欲しいっす!」
「それは隊長に言う台詞か? まあ俺は非番だし、ちょっと今は叱る気持ちにもなれんが……ところでお前たち、ルッツを見なかったか?」
ダイヤとモンドーは一瞬お互い顔を合わせ、同じタイミングでうーんと考え始める。
「そういえば昼休憩の終わりの時に『崖の上に行く』って言っていた気がするっす」
「崖の上? 何故? そもそもどこの崖なんだ……」
「ルッツさんの独り言を聞いていただけなので、詳細はわからないっす」
「でもなんとか草を採りに行くってぼやいていたっす」
あまりにも意味不明な情報にシュヴァリエは頭を抱える。
しかし妙だ、大抵の薬草はルッツが育てているし市場に行けば買う事も可能だ。しかも今日の兵舎はいつもより早い時間に施錠され、ルッツは発情期が近いと事前に知らされている。にもかかわらず、何故わざわざどこかの崖に行って採りに行くのだろうか。
そんな事を考えていると、ふと1週間前にしたルッツとの会話を思い出す。
キラーヴォルフ討伐後、キャラバン隊と合流して野営をしていた時の事だ。あの時ルッツは見覚えのない花の前でうーんと頭を抱えていた。思えばあの場所は、海沿いの切り立った崖の上だったはずだ。
「いや……そんなはずは……」
ルッツは1人で馬には乗れない。もし昼休憩の終わりの時間にあの場所へ行くとしたら国壁までは馬車、その後は徒歩になるだろう。
となれば今頃は間違いなく国壁の外だ。一般人は許可なく外へは出られないが、非戦闘員とはいえルッツは聖グローリア騎士団の一員である。上手く言いくるめれば外に出る事は可能だ。
「ダイヤ、モンドー、感謝する」
簡潔にお礼を言い、返事を待たずにシュヴァリエは廊下を走った。
呆気にとられている2人を気に掛ける余裕などなかった。まさかとは思うが、胸騒ぎがして落ち着かなかった。
―――――――――
兵舎の管理人に声をかけ、ルッツが外出したか確認すると、どうやらルッツは「本日中には帰れない」と言って外に出たらしい。
本当に町に遊びに行っているだけかもしれない、国壁の出入り口に居る門番に聞かないと確定しないと分かっている。だが嫌な方向に考えが先走っていき、だんだん動悸が激しくなっていく。
どうもルッツの事になると無性に心配になってしまう。好きなオメガに対するこの気持ちがどうにもならないのが、アルファというものなのかもしれない。
「杞憂ならそれでいい……ルッツ、無事でいてくれ」
今から自分の足で走って行っても間に合わない。シュヴァリエは厩舎へ向かった。自分が討伐任務時に乗っている愛馬の前に立ち、震える手で手綱を握った。
ともだちにシェアしよう!

