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第22話:ポーリーン・ポーション
今から3年前の話だ。
当時まだ聖グローリア騎士団の副隊長だったシュヴァリエは、久しぶりの長期休暇に故郷であるフォレリーに帰省していた。
シュヴァリエが聖グローリア騎士団に入隊したのは、田舎の故郷で一生を過ごすのが嫌だったからに他ならない。
正直騎士団でなくても良かったが、命の危険が伴う仕事は給料が良い。何よりアルファである彼は偶然にも体格、剣術共に騎士になる才に恵まれていた。
当時魔法は不得意であったが、剣の腕前だけで最年少で副隊長の地位まで昇ったほどの実力だ。のちに最年少の称号はフレンダに破られることになるが、それが彼の誇りだった。
自分の力に自信があった。だから自分は1人で良いと思っていた。
優れた容姿に才能に将来安泰と言っていい地位、当然のようにハルネジアの民からの人気も高い。周りにもてはやされるのも最初は悪い気はしなかったが、やがてそれも鬱陶しくなる。
だから町を出歩くときは、真っ黒な飾り気のないローブを羽織り、フードを目深に被って顔を隠した。
「まさかフォレリーでもコソコソしないとならないとは……」
故郷に帰ったシュヴァリエは自室でため息を吐いた。
首都ハルネジアより人口が少ないフォレリーでは堂々と歩けると思った。しかし田舎の情報網は凄まじいもので、あっという間にシュヴァリエが帰ってきたという噂が広がった。久しぶりに帰省して知った事だが、あのシュヴァリエの故郷として副隊長就任時の町は大盛り上がりだったらしい。
「このフードを着けないと目立つのに、このフードもある意味目立つ……最悪だ……」
フードの縁を摘まんで顔を隠しながら呟く。怪しい見た目に威圧感のある近づくなオーラが出ているのか、歩けば皆が避けていく。
お陰でシュヴァリエだと気付かれないが正直子供には泣かれるし、店に入れば強盗だと間違われる。だからといって堂々と歩けば誰かに捕まるし、気が付けば町人に囲まれている。
「しばらく1人にしてくれ、落ち着かないんだ」
誰に言うでもなく呟く言葉を聞くものは誰も居なかった。
フォレリーに帰省した事を若干後悔しつつも、久しぶりの故郷は良い気分転換になった。
ひとつ畑が無くなったかと思えば新しい店が出来ていたり、聖グローリア騎士団に入る前からいろいろ変化していた。不審な目で見られるのは落ち着かないが、散歩をしながら景色を見ているとふとした瞬間に笑みがこぼれる。
その日も有り余る体力で歩き続けていたらいつの間にか隣町に着いてしまったようだ。見覚えのない店の看板には薬屋『ポーリーン・ポーション』と書かれていた。
「ふむ、薬屋か」
当時はまだ騎士団でも魔法石が普及していなかったので、効能の良い薬は貴重だった。
作り手によって体質に合う合わないがあるので、ハルネジアでもより良い物を探して、新店舗が出来る度に確認していた。看板下の店の説明欄に店で育てた薬草から1つ1つ手作りしていると書かれており、シュヴァリエは興味本位で店の戸を開けた。
カランとドアベルを鳴り響かせながら、一歩店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー!」
近くで挨拶をする若い男性の声が聞こえ、シュヴァリエはそちらを向いた。
その瞬間、ふわりと花の蜜のような甘い香りがして身体が固まった。なんだか胸の奥がざわざわと揺れ動く。それなのに目を瞑って香りに身を委ねていると、心の隙間を埋めるかのような安らぎが染みわたる。そんな不思議な香りだった。
店内に居た茶色の髪の男性は、蜜のような金色の瞳を細めて笑っている。その煌めきはまるで大地に咲く花のようだと、シュヴァリエは彼の瞳を見て杭で固定されたかのように動けなくなった。
「初めてのお客様ですよね、どうぞ見ていってください!」
「あ、ああ」
シュヴァリエはハッと我に返り、慌てて返事をする。
出入り口付近にある会計カウンターに居る男性がにこりと笑うだけで、意識が天に昇るように呆然としてしまう。何故かずっとこの場に居たい気持ちになったが、入り口付近で立っているなんて迷惑極まりない。
シュヴァリエは本来の目的である薬の物色を始めた。
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