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第27話:シュヴァリエの実家へ

   エリ草の群生地を見つけたルッツとシュヴァリエは、崖を登った後グローリア王国に向かっていた。  シュヴァリエが先に馬に乗り、彼の前にルッツも跨って座る。しっかり乗ったことを確認すると、馬は風を切るように猛スピードで走り始めた。あんなに時間をかけて来た崖が、あっという間に遠ざかっていく。  戻りの道中に夜行性の魔物を数匹見かけたが、シュヴァリエが魔法の炎で威嚇をするとすぐに逃げていった。 「……綺麗」  スライムを焼いた時より控えめな炎が舞い上がる様子を、ルッツは眺めていた。  今までの自分なら、国に戻るまでの道中も申し訳ない気持ちでいっぱいだっただろう。いつものように俯いて1人で反省会をし、自室に戻ったら薄暗い気持ちの中ベッドに身を投げる。だけど今日は勇気を出してシュヴァリエの方を振り返ってその顔を見上げる。 「俺は格好良いかな?」  目が合うと、シュヴァリエは得意げにニヤリと笑った。  思わず頬が赤くなり、咄嗟に視線を正面に戻してしまう。日が沈みかけた暗い空の下だというのに、朝日をたっぷり浴びた布団に包まれているかのような温かなフェロモンが、ルッツの周りに漂っていた。 「シュヴァリエ隊長は、よくそう聞いてきますよね?」 「ああ、君にだけは格好良い所見せたいんだ。早く俺に惚れてほしいから」 「そうだったんですか」  先日キラーヴォルフを討伐した時も思ったが、何でいつも確認するかのように聞いてくるのかずっと疑問だった。今日シュヴァリエの気持ちを聞いていなければ、また気を使わせていると流してしまっていたかもしれない。 「貴方が格好良くなかった事なんて一度もない。世界一格好良いですよ」  俯きながらぽつりと呟いた。お世辞ではなく、本心からの言葉だったが、恥ずかしくてシュヴァリエの顔を見られなかった。  驚いて静かに見下ろすシュヴァリエは、ルッツの短い髪の毛の奥に見える耳が真っ赤に染まっているのに気が付いていた。 「有難う。愛する君に言われると照れてしまうな」  シュヴァリエはルッツの頭をポンポンと撫でた。頭から湯気が出そうなほど顔が熱くなったルッツは、見られないように両手で顔を覆った。 ―――――――――  国壁に着いた頃にはもう空は暗く、空一面を星が埋め尽くしている。  静かで緑に囲まれた清浄な空気が、泣き腫らした目元を冷やしてくれて心地良い。町の人ももう仕事を終えているのか、家の明かりが点々と灯っているだけで外にはほとんど人が居ない。 「ここは?」 「フォレリー……俺の故郷だ。今から首都のハルネジアに戻っても兵舎は閉まっているだろうから、俺の家に案内するよ。変な気は起こさないから安心してくれ」  シュヴァリエ馬を更に走らせ、やがてある一軒家にたどり着いた。  広い庭と林に囲まれた木造りの家だった。この辺りの全ての家がそうなのだが、牧畜や畑仕事中心に行っているためか1軒1軒の空間が広い。  シュヴァリエは小さな馬小屋に愛馬を引き連れ、手綱等を慣れた手つきで外していく。水や餌の準備を手短に済ますと、ルッツの手を握って家の扉をノックした。 「は~い、ちょっと待っておくれ」 扉の向こう側から、女性の声と足音が聞こえる。数秒待つと、木製の扉がガチャリと音を立てて開かれた。 「んもう、こんな時間に何の用……って、シュヴァリエじゃないかい!」  家から出てきたのはシュヴァリエの母親だった。同年代の中では身長が高く、ふくよかな体型の女性だった。驚きの声をあげると同時に、三つ編みにされた長い赤茶色の髪がかすかに揺れる。 「こんなに遅くなるなら事前に言ってちょうだい。帰ってくるって聞いてたのに全然来ないから、ご飯片付けちゃったわよ!」 「ただいま母さん。ちょっとトラブルがあって予定より遅くなってすまない。実は……」 「そんな事はどうでも良いからさっさと入りなさい! スープ温め直してやるから!」  そう言うや否や、シュヴァリエの母親は息子の腕を持って中に引き入れる。食い気味にどんどん話を進める様子に、ルッツはどうするべきかとあたふたしている。 「あらやだっ! もしかしてお客さんかい?」  するとようやくルッツの存在に気付いたらしい母親は、目を丸くする。つま先から頭のてっぺんまで訝しげに見られ、ルッツは思わず背筋をピンと伸ばした。 「ああ、紹介するよ。彼は俺と同じ聖グローリア騎士団の1人であり、俺の運命の……」 「あなた~、シュヴァリエがお客さん連れてきたわよ~!! 私はおもてなしの準備するから手伝って~!!」  そしてまたシュヴァリエの話の途中で母親は家の中に小走りで戻っていった。すぐにどこからか男性の声が聞こえ、更にキッチンの方からカチャカチャと何かを準備をする音が鳴り始める。  怒涛の展開にシュヴァリエは額に手を置いてため息を吐き、ルッツはポカンと口を開けて硬直していた。 「騒がしくてすまない。でもまあ……母さんも悪気はないから許してやってくれ」 「あ、いえ、怒ってはいないので大丈夫です。賑やかで素敵なお母様だと思いますよ」  驚きはしたが、息子であるシュヴァリエは大切にしている事は伝わったし、一応歓迎されているのは伝わった。なんだか微笑ましくてルッツがクスクスと笑うと、シュヴァリエは恥ずかしそうにそっぽを向いて頬を掻いた。 「とりあえず中に入ってくれ。歓迎するよ」 「はい。では、お邪魔します」  ルッツはシュヴァリエと一緒に玄関の扉をくぐった。  

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