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第28話:儂らじゃ息子に敵わん

   家に案内されたルッツは、促されるままリビングのテーブルの前に座っていた。  慌ただしく目の前で動くシュヴァリエの母親を手伝うべきかと声をかけたが、「お客さんは座ってて」と言われたので大人しくしている。  しばらくして、キッチンから料理を乗せたお盆が運ばれてきた。 「残り物と簡単な物しかなくてごめんなさいね」 「いえ、お気遣い感謝いたします」  ルッツは立ち上がって深々と頭を下げた。  それとほぼ同時に、2階からシュヴァリエの父親も降りてきたようだ。シュヴァリエに似た、金髪赤目の初老の男性だった。息子より柔和な雰囲気を漂わせているが、若い頃は美形だったのだろうと想像できる面影があった。どうやら空き部屋を掃除してくれたらしい。  手短に挨拶を済ませたころには、テーブルに美味しそうな料理がずらりと並べられていた。  たっぷりの野菜とソーセージが煮込まれた温かいポトフに、マヨネーズが添えられた炒り卵と温野菜のサラダ、フワフワの白いパンにはバターも添えられている。  シュヴァリエはルッツの隣に座り、その向かい側にシュヴァリエの両親が着席する。シュヴァリエの両親はもう夕食は終えているので、ワインとチーズで晩酌するようだ。  美味しそうな食事の匂いを嗅ぐと、思い出したかのようにルッツのお腹がグーっと音を鳴らした。 「とっても美味しそうです。頂きます……!」 「ふふっ、召し上がれ」  湯気が立つ美味しそうな料理の前で、ルッツとシュヴァリエは食前の祈りを捧げた。  木製のスプーンでポトフの野菜を掬いあげる。数回息を吹きかけて口に含むと、優しい出汁と野菜の甘みが舌を包み込む。  空っぽのお腹の中に、たっぷりの野菜がするする吸い込まれていく。飲み込むごとに、夜風で冷えた身体をじんわりと温めていった。 「父さん、母さん、遅くなったけど紹介するよ。俺と一緒に聖グローリア騎士団で働くルッツだ」  食事を少し食べ進め、シュヴァリエは自分の両親にルッツを紹介し始める。 「初めまして! ルッツ・ポーリーンと申します。今晩はいきなり押しかけてしまい申し訳ありません!」  それに続くようにルッツは持っていたスプーンを下ろして再び頭を下げた。シュヴァリエの両親はにこやかに笑いながら、グラスに注いだワインをくるりと回している。 「あらあらご丁寧に有難うございます。私はシュヴァリエの母のアマリアと言います」 「父のダグラスです。フォレリーは何もないところですが、ゆっくりしてください」 「いえ、僕も隣町のリーリブ出身なので、むしろこの町の雰囲気が好きですよ」  リーリブという言葉を聞いて、ダグラスは何かに気付いたかのように目を僅かに見開いた。 「リーリブ出身のポーリーンというと……もしかしてポーリーン・ポーションの子かな?」 「えっ、知っているんですか?」 「ああ勿論、儂は畑を耕して生計を立てているんだが、農薬や虫刺されのかゆみ止めをよく買わせてもらっておる。シュヴァリエにお勧めしてもらった店なのだが、本当に助かっているよ」 「シュヴァリエ隊長が?」  ルッツが驚いたようにシュヴァリエを見つめると、彼は照れくさそうにゴホンと喉を鳴らした。  フォレリーからお客様が来る事はあったが、わざわざ隣町に足を運んでくれる人はそう多くはない。自分が作った薬がこの地の人の助けになっている事を知って、胸の奥がほんわりと温かくなるのを感じた。  小さな幸福感にニコニコとしているルッツの前で、アマリアとダグラスは静かになってじっとルッツを見ていた。その瞳は、何か品定めしているかのように真剣だ。 「シュヴァリエ……というと彼が例の?」 「ああ、俺の運命の番だ。将来彼と結婚したいと思っている」 「ぶっ……!!」  その瞬間、ルッツは口に運んでいたスープを吹き出した。  気が早い発言に、ルッツどころかアマリアとダグラスも口をポカンとさせて驚いている。困惑して頭の中は疑問符でいっぱいだ。思わず開いた口から飲みそこなったスープがひと雫、涎のようにツー……と垂れる。  先ほど草原で想いを伝えられはしたが、まさか彼の両親の前でいきなりそんな事を告白されるなんて思いもしなかった。 「けっこ、ん……!?」 「ああ、まだ未定ではあるが諦められる気がしなくてな。もう気持ちはバレてしまったし、今は頑張って惚れてもらえるよう努力しているところだ」  そう言いながらシュヴァリエは清潔なお手拭きを手に取り、ルッツの口元に軽く押し当てる。愛おしそうな眼差しで口から零れたスープをふき取られ、ルッツの顔は内側で何かが爆発したかのように一気に赤くなる。 「お、おお……そうか。なんというかまあその……」 「目の前で堂々と惚気られてしまったわねぇ……」 「はっ!? そのっ、すみません!!」  ルッツはあまりの衝撃発言に、一瞬とは言えシュヴァリエの両親の存在を忘れてしまっていた。自分に非がある訳ではないがペコペコと頭を下げている。  一方シュヴァリエは反省する様子もなく、どこか楽しそうにルッツの背中をさすっていた。 「まあ、ポーリーン・ポーションで働いていた子が運命の番と聞いていたが、いい子そうで何よりだ。それにシュヴァリエも引くほど君にベタ惚れのようだし、儂からは何も言う事はないよ」 「そうねぇ。しかし我が子の運命の番がこんなに可愛らしい子で私は嬉しいわ!」 「えっ?」  ルッツは思わず声を漏らした。  シュヴァリエの発言にも驚いたが、アマリアとダグラスがあっさりと認めた事にも驚いた。当然のように拒否されると思っていたから、拍子抜けもいいとこである。 「あの、その僕で良いんですか?」 「おや? 何がだい?」 「彼の運命の番が、こんな可愛げもなければ頼りにならなさそうな男で……」 「聖グローリア騎士団の事はよく分からんが、君の薬は頼りになっておるよ。そもそも駄目と言ったらシュヴァリエから拳骨が飛んでくるかもしれんからな。儂らじゃ息子に敵わん。敵を作らぬのが長生きのコツじゃよ」 「いやいや、優しい隊長がそんな野蛮な事はするはずないですよ、ね?」  ルッツは同意を求めるように横を向いたが、シュヴァリエは無言でそっぽを向いてしまった。否定も肯定も出来ないといったオーラを感じる。 「ま、お前も口説き落とすの頑張れよ」  ダグラスがシュヴァリエの肩をポンと叩く。  そっぽを向いていたシュヴァリエが首の向きを戻し、目の前にいる両親に微笑んだ。 「有難う。父さん、母さん」  

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