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第37話:初めての巣作り
温かな太陽の香りに包まれながらルッツは目を覚ました。
遠くで小鳥の鳴き声と、枝葉が揺れる小さな音が聞こえる。寝惚け眼を擦りながら起き上がると、そこは見慣れていないベッドの上だった。
窓の外を見ると太陽は高い位置に昇っており、バルコニーに昨日着ていたルッツとシュヴァリエの服が干されているのが見えた。
「そうだ……昨日シュヴァリエ隊長と……」
汗ばんだ身体は綺麗になり、服もシーツも新しいものに変えられている。
項に手を伸ばすと、大きめのガーゼとテープが貼られていた。上から押さえると僅かに痛む。見えはしないが、昨日のアレは夢ではなかったのだと痛みが伝えてくれた。
あの後もお互い貪るように身を重ね合って、枯れ果てるまで全てを出し切った。
全身が痙攣して立てなくなったルッツを、シュヴァリエは丁寧に抱きかかえて浴槽へ運んだ。魔法で湯を温め直し、2人で入るには狭い風呂に一緒に浸かる。その間もシュヴァリエは意識が朦朧としていたルッツが溺れないようにずっと抱きかかえ、中も綺麗に流してくれた。
清潔なタオルで優しく全身を拭かれ、再びシュヴァリエの部屋に戻った頃には、ルッツは心地よさの中眠るように気を失ってしまったのだ。
「僕、すごく愛されているじゃん……なんで気付かなかったんだろう……」
そう1人反省するが、なんだかいつもより暗い気持ちにはならなかった。
こんな自分でも良いとシュヴァリエはまっすぐ伝えてくれたのだから、落ち込んでいられない。自分では気付かない何かで、助けられるはずだと信じる事にした。
「それにしても、シュヴァリエ隊長どこだろう」
僅かに痛む腰をさすりながら1階も歩き回ったが姿は見えない。勝手に出るのも問題ありそうとはいえ、どうするべきか。
そう悩みながら再びシュヴァリエの部屋に戻って辺りを見渡すと、なんだか見覚えのある黒いローブがあった。無地で飾り気のないフード付きのローブは、着ている者の全てを隠してしまうだろう。
シュヴァリエの物だろうか。これでは不審者だと思われてもおかしくない。
「何故こんな物を持っているのだろう……でもなんか、落ち着く」
なんだか不思議と懐かしさを感じる。
ローブを抱きしめ、再びベッドに横たわると、ふわりと舞った大きなローブが全身を覆うように包んでくれた。
大好きな太陽の匂いがし、身体の力が抜けると同時に瞼も下りてくる。もう少しだけ寝ていてもいいだろうか。心地よい香りに包まれながら、ルッツは再び意識を手放した。
―――――――――
「さて、ルッツは起きているだろうか」
そうぼやきながらシュヴァリエは家の扉を開けた。
発情期は1日では治まらない。番になったのでシュヴァリエ以外の者に影響は及ぼさないが、高熱時のような倦怠感に襲われるらしいのでそのままにもしておけない。
シュヴァリエは朝早くからフォレリーの薬屋の扉を何度も叩き、営業時間前だというのに店主を起こした。普通なら怒られてもおかしくない行動だが、緊急事態かつ、町で英雄扱いされているシュヴァリエだから特別に対応してくれた。
ちなみにアマリアとダグラスはそのまま仕事場に向かったらしい。
昨日の残りのポトフとパンを温め直し、冷める前にシュヴァリエは再び自室に向かって歩き出した。寝ているかもしれないからと、念のためゆっくりとドアノブを捻って中に入った。
中は物音ひとつしない。やっぱりまだ眠っているのだろうかとベッドの前に立った時、シュヴァリエはうっかりお盆を落としそうになった。
「うわ、まじか」
そこには黒いローブに包まれて眠っているルッツが居た。体勢からして一度起きたのだろう。ローブを抱きしめて眠っているその顔はとても穏やかで、なんだか強い庇護欲を駆り立てられる。
「これってオメガの巣作りってやつ? 初めて見るけど破壊力すごいな……」
朝食が乗った盆を近くの机に置き、穏やかに眠るルッツの顔を覗き込む。
陶器のように滑らかな白い肌はほんのり桃色に染まっており、規則正しい寝息が聞こえる。あまりの可愛らしさに思わずその柔らかな髪をゆっくりと撫でた。すると嬉しそうに身をよじるルッツが、小さな口を開く。
「シュヴァリエ、隊長……僕、番にふさわしくなれるように、頑張ります、ね……」
耳を澄まさないと聞こえないような寝言は、確かにシュヴァリエの耳に届いた。
「はぁ……君には敵わないなぁ……」
シュヴァリエは手のひらで自分の顔を覆いながらポツリと呟いた。指の間から見える肌は真っ赤に染まり、口元は抑えられない喜びを表すかのように弧を描いている。
「頼りにしているよ、ルッツ」
眠っているルッツには聞こえないと分かっていながら、シュヴァリエは耳元でそう囁いた。
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